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.政治  投稿日:2024/9/16

総理決定前に解散日程が一人歩きする“怪”


樫山幸夫(ジャーナリスト、元産経新聞論説委員長)

【まとめ】

・自民党総裁選、早くも10月27日総選挙説がささやかれている。

・有力候補のひとり小泉進次郎元環境相が、「できるだけ早く」と主張していることなどが衆院の「超早期解散」説に拍車かけている。

・新内閣の人気沸騰中に総選挙に打って出るべきという議員心理は国民不在の「永田町政治」そのもの。「自民党再生」とはほど遠い。

 

■ 最有力候補の進次郎、石破氏らが火花

解散総選挙の時期については、各候補が顔をそろえた9月15日のNHK日曜討論、14日の日本記者クラブでの共同会見でもとりあげられた。

14日の会見で早期断行の考えを繰り返した小泉進次郎氏に対して、司会者が、就任していきなり解散というのでは、国民は何を基準に評価すればいいのかーと質問したのに対し「総理になったら何をしたいか、改革プランはすべて明確にしてきた」(14日の会見)と反論。「最長の総裁選、国民は次の選挙でどうしようか考えながらみている。判断材料は十分だ」(15日のNHK討論)とも述べ、有権者は選択に迷うことがないとの認識を示した。

石破茂元幹事長は「自民党の都合だけで、勝手に決めるなということだ。その時の政治情勢がどうなっているか、あわせて考えないと。今すぐにやりますとはならない」(NHK討論)と述べ、早期解散に慎重姿勢を示した。

河野太郎デジタル相も、「任期いっぱい仕事をして国民の判断を仰ぐこともあるだろう。信を問うて政策を前に進めなければならないこともある」(同)とさらに慎重な姿勢を示した。

石破、河野氏の発言は表向き、首相の〝伝家の宝刀〟、解散権を恣意的に行使ことへの戒めだろう。

■ 19月9日解散、15日公示、27日投票有力?

岸田首相が8月14日に退陣表明した直後から、与党内では10月27日投票説が台頭していた。

衆院の残り任期切れまで1年、新首相は早期に解散に打って出るだろうという観測と期待からだった。

公明党の山口那津男代表は14日の民放番組で、10月27日か11月10日投票の可能性に言及した。

15日付の読売新聞も「10月解散論浮上」との見出しで、進次郎氏勝利の場合、「もっとも早い日程で10月9日解散、15日公示27日投開票説が浮上している」と報じ、「22日公示11月3日投開票」、「29日公示11月10日投開票」説もあわせて伝えた。

これら日程は、現内閣が首相指名のために臨時国会を10月1日に召集することを決めたこと、進次郎氏の早期解散論などがあいまって現実味をおびてきた。読売新聞は、進次郎勝利を予想させるような書きぶりだった。

 短時間の予算委で国民は判断できるか

小泉新総理・総裁が誕生した場合、1日の首相指名後、直ちに党役員人事、組閣を行い所信表明、衆参での代表質問を行った後に解散に踏み切るとみられる。党内外には、衆参で予算委員会を開き野党との論戦を通じて、新首相としての政見を内外に示してからにすべきだという指摘も少なくない。

「国民の信任は基本だ。できるだけ早くすべきだが、信任を得る時に、政権構想を示し一定程度国会で論戦しながら判断していただく」(加藤勝信元官房長官)などというのはそうした認識だろう。 

国会論戦を待たずに解散すべきか、短時間の予算委員会での討論を行ってから解散すべきか、が現時点での焦点の一つだが、そもそも論をいえば、この議論は五十歩百歩、大差はないというべきだろう。

予算員会を行ってから解散という主張は筋が通っているように聞こえるが、せいぜい衆参で1、2日程度だろう。その程度の論戦で、有権者はどれだけ新政権への評価を得られるか。

憲政の常道からいえば、衆院の解散・総選挙が許されるのは本来、重要政策で与野党が激しく対立、国民の判断を仰ぐ必要があるときか、新政権発足後に国民の信任を得たいときなどに限られる。

今回は後者にあてはまるが、その場合でも、河野デジタル相が述べた「任期いっぱい仕事をして国民の判断を仰ぐ」(NHKの討論)というのが、氏のホンネはともかくとして、本来の姿だろう。

新政権としてのプランを示すだけでなく、少なくとも数か月か半年、通常国会、臨時国会での施政方針、所信表明演説、長丁場の野党との論戦、予算編成作業などさまざまな機会を通じて、その仕事ぶり、実績を示してこそ初めて国民に評価、判断の基準を提示できるだろう。

永田町の議員諸公、〝場外業者〟の政治取材メディアからは「素人の議論」という批判も浴びせられよう。しかし、国民のほとんどはプロではない。

■ 「3年前」の再来期待?

過去の自民党新政権を見ると、いずれも発足から1年から半年くらい、短くとも半年程度をおいてから解散・総選挙に打って出ている。

唯一の例外は3年前、現岸田内閣の組閣直後の解散だ。菅内閣の不人気で危惧された議席大幅減が最小限に食い止められたこの時の選挙の再来を多くの議員は期待しているのかもしれない。

3年前、岸田首相は政権発足10日後に衆院を解散したが、当時はすでに、衆院議員の任期切れが目前に迫っており、いずれにしても総選挙を行う必要があった。

今回は任期がまだ1年残っている。政権発足直後の解散に国民の理解が得られるかどうか。

■ お題目だけでは国民は判断できぬ

早期解散を繰り返す進次郎氏は、総裁選中に論争を通じた示した政策が国民にとって十分な判材料になると力説する。1面、真理ではあるが、それだけでは不十分だろう。お題目だけで実行が伴わなくても、見た目に派手、耳に心地よく響く政策だけを掲げた候補が得をすることになってしまう。

首相に就任する前から解散時期に踏み込んだり、議席を失うことを恐れるあまり、だれが勝利するか未定の段階で解散・総選挙のスケジュールを議論することなど、有権者に戸惑いを与えるだけではないか。

今回の総裁選の眼目の一つは「新生・自民党を国民の前に示すこと」(岸田首相の退陣会見)であり、自民党にとって大きな試金石になるだろう。 

候補者9人の〝百家争鳴〟の華やかさとは裏腹に実態は、旧態依然としているのかもしれない。

トップ写真:自民党総裁選9候補の日本記者クラブでの共同記者会見にて。(左から)高市早苗経済安全保障担当相、小林隆行元経済安全保障担当相、林芳正内閣官房長官、小泉進次郎元環境相、上川陽子外務大臣、加藤勝信元官房長官、河野太郎デジタル担当相、石破茂元防衛相、茂木敏充自民党幹事長(2024年9月14日東京都千代田区)出典:Takashi Aoyama/Getty Images




この記事を書いた人
樫山幸夫ジャーナリスト/元産経新聞論説委員長

昭和49年、産経新聞社入社。社会部、政治部などを経てワシントン特派員、同支局長。東京本社、大阪本社編集長、監査役などを歴任。

樫山幸夫

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