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.国際  投稿日:2025/10/30

トランプを動かす四原則~高市政権が挑む外交リアリズム〜


宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)

宮家邦彦の外交・安保カレンダー 2025#42

 2025年10月27日-11月2日

【まとめ】

・トランプ訪日で高市首相は就任直後ながら見事なホスト役を果たした。

・メディアの「信頼関係」礼賛報道には疑問。真の信頼関係は時間をかけて築かれるもの。

日本の国益をトランプ氏の利益と同一視させることが、良好な日米関係構築に不可欠。

 

 10月27-9日の東京は文字通り「トランプ訪日」一色、恐らく史上最大規模であろう警備体制もあり、高速道路や都心幹線道路の渋滞に巻き込まれた人も多かっただろう。足掛け3日だが、実質的には一日強のスケジュール。どうやらほぼ何事もなく終わったようだ。警備に当たった警察などの関係者の方々、誠にお疲れ様でした。

 

という訳で、今週は日米首脳会談に関する評論や原稿が多かったのだが、筆者の率直な印象は、「高市さん、結構やるね~!」というものだった。一部政治関係者は懸念していたようだが、蓋を開けてみれば、今回の高石早苗首相の政治的パーフォーマンスは実に見事だったと思う。

失礼を承知で申し上げるが、もし今年夏に参議院議員選挙がなく、前連立政権の下で前総理がホスト役を務めていたら、果たしてこれだけの成果が上がっただろうか、という素朴な疑問が一瞬脳裏をよぎった。新連立下での新総理だからこそ、実現したことも多々あったのではないか、と推測する。

 

それはともかく、就任一週間の新首相の仕事としては上出来で、米大統領訪日のホスト役を立派に果たした。特に、トランプ氏とともに訪れた横須賀の米空母艦上での彼女の言動は、良い意味で「日本人離れ」しており、新たな時代の到来すら予感させた。もしかしたら、彼女は「化け」始めたのかもしれないな、と思ったほどだ。

一方、日本のマスコミは相変わらず、「トランプ氏とファーストネームで呼び合った」とか、首脳同士の「信頼関係が構築された」などという「新首相礼賛」の「提灯」記事が少なくない。30年前ならともかく、今のアメリカ人は誰でもファーストネームで呼び合うし、そもそも、たった一日の接触で政治家同士の「信頼関係」など生まれる訳がない。

そんなことは承知の上で、数十年来、相も変らぬ「ファーストネーム=個人的信頼関係」というナラティブを繰り返す日本の大手メディア政治部の発想は実に時代遅れだと思うのだが・・・。それでも筆者は今回の成功を手放しで喜ぶ気になれない。日米が真の意味で「黄金時代」を迎えるには、他にやるべきことが多々あるからだ。

 

筆者は10月4日の自民党総裁選挙で高市候補が当選した際、産経新聞のコラムで「高市新総裁、君子豹変せよ」と書いた。幸い、高市首相は「君子豹変」しつつあるように見える。持論を巧みに封印し、中国国家主席との会談や韓国とのシャトル外交にも意欲を示すなど、極めて現実主義的な「統治モード」に徹しているからだ。

 

しかし、こうした「安全運転」だけでトランプ氏と良い仕事はできない。あの一種の政治的天才の信頼を勝ち取り、日本の国益を最大化すべく、米国の国力を最大限活用するためには、トランプ氏の「トリセツ」を熟知する必要がある。という訳で、今週のJapanTimesにはそのトランプの「トリセツ」について詳しく書いた。

「トリセツ」のポイントは4つある。

① トランプ氏の屈折した自尊心を最大限擽ること

② トランプ氏には決して反論せず、日本の国益をトランプ氏個人の利益と同一視させること

③ この人物は「取引」に値するとトランプ氏に確信させること

④ トランプ氏にいかなる朝令暮改があっても決して動じないこと

これらに尽きるだろう。詳しくはJapanTimesをご一読願いたい。

 

要するに、トランプ・高市両首脳の下での日米関係は、まだ「トリセツ」の第一条件しか成就していないということ。オバマ大統領に「トラスト・ミー」と言った鳩山首相は見事に日米首脳間の信頼関係を損なった。「ファーストネーム」も良いが、本当の信頼関係は、ある程度の時間をかけてテストされ、徐々に築かれるものである。

 

さて続いては、いつもの通り、欧米から見た今週の世界の動きを見ていこう。ここでは海外の各種ニュースレターが取り上げる外交内政イベントの中から興味深いものを筆者が勝手に選んでご紹介している。欧米の外交専門家たちの今週の関心イベントは次の通りだ。

 

10月28日 火曜日 

シリア大統領、サウジアラビア訪問
ASEAN首脳会議終了(3日間、マレーシア)
欧州委員長、スウェーデン訪問終了(2日間)

 

10月29日 水曜日 

APEC首脳会議(2日間、韓国)
タンザニアで総選挙
オランダ、前倒し議会選挙
米国の90日間の対メキシコ追加関税の免除期間終了
ベトナム最高指導者、訪英(2日間)
仏大統領、パリ平和フォーラムを主催(2日間)

 

10月30日 木曜日 米中首脳会談

気候変動に関する国際政府間パネル第63回会合終了(ペルー)
独首相、トルコ訪問、大統領と会談
G7エネルギー環境大臣会合(2日間、トロント)

 

最後は、ガザ・中東情勢だが、どうやらガザ停戦は「風前の灯火」となりつつあるようだ。先週も書いた通り、トランプ政権の20項目のガザ和平計画は第二段階に入る兆候が見えない。ハマース側は武装解除する気がなく、イスラエル軍も完全撤退する気はないからだ。いずれ戦闘は「なし崩し」的に再開される恐れがある、と先週書いたが、イスラエルは既に攻撃命令を出しているらしい・・・。

今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きは今週のキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。

 

トップ写真:U.S. President Trump Visits USS George Washington In Japan

出典:Tomohiro Ohsumi by getty images




この記事を書いた人
宮家邦彦立命館大学 客員教授/外交政策研究所代表

1978年東大法卒、外務省入省。カイロ、バグダッド、ワシントン、北京にて大使館勤務。本省では、外務大臣秘書官、中東第二課長、中東第一課長、日米安保条約課長、中東局参事官などを歴任。

2005年退職。株式会社エー、オー、アイ代表取締役社長に就任。同時にAOI外交政策研究所(現・株式会社外交政策研究所)を設立。

2006年立命館大学客員教授。

2006-2007年安倍内閣「公邸連絡調整官」として首相夫人を補佐。

2009年4月よりキヤノングローバル戦略研究所研究主幹(外交安保)

言語:英語、中国語、アラビア語。

特技:サックス、ベースギター。

趣味:バンド活動。

各種メディアで評論活動。

宮家邦彦

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