日本政治の「重心」はセンターライトへ:「サナマニア」現象と総選挙が告げる新時代の幕開け
宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)
宮家邦彦の外交・安保カレンダー 2026#06
2026年2月9-15日
【まとめ】
・欧米でも高市首相の「電撃解散」に注目が集まっている。
・日本国内政治の「重心」がセンターライトに移りつつある。
・何らかの「政界再編成」が不可避となろう。
いつもは日本の内政などほとんどフォローしない欧米の外交専門誌が、珍しいことに、今回ばかりは日本の総選挙の結果に注目している。例えば、9日付フォーリンポリシー誌サイトで(アジアが専門とは思えない)某研究者兼編集者までが、
- Sanae Takaichi took a massive risk and her gamble worked.
(高市早苗は大きなリスクを冒し、その賭けは成功した。)
- This was the biggest landslide election victory in the country’s post-World War II history, and it reinvigorates faith in the conservative LDP.
(これは戦後最大の圧勝であり、保守的な自民党への信頼を再び高めた。)
- Global markets appear optimistic. But economic stimulus is only one part of Takaichi’s ambitious agenda.
(世界市場は楽観的な見方を示している。しかし、経済刺激策は高市氏の野心的な政策の一部に過ぎない。)
- The prime minister also plans to use her party’s newfound supermajority to enact sweeping reforms to the country’s defense sector…..
(首相はまた、自党が獲得した圧倒的多数を背景に、防衛分野における抜本的な改革も推進する方針だ・・・。)
などと書いているほどだ。今回ばかりは欧米でも高市首相の「電撃解散」に注目が集まっているのだろう。ちなみに、我がキヤノングローバル戦略研究所の吉岡明子主任研究員は、「ロシアメディアが『自民圧勝』を如何に伝えたか」と題して、実に「簡にして要を得た」コメントを送ってくれた。彼女のレポートは次の通りである。
- 自民党の歴史的勝利となった2月8日の衆議院選については、ロシアの主要メディアも注目している。
- 経済紙ヴェドモスチは、高市総理人気を「サナマニア」現象として紹介。コメルサントも、高市氏の「ポピュリズム的」な経済公約と、対中姿勢を中心とする自信に満ちた外交が、有権者から「白紙委任状」を引き出したとの分析を掲載している。
- 日ロ関係への影響について、日本専門家の一部は高市政権が今後北方領土問題で「交渉再開」を模索する可能性について指摘している。
- 他方、一般的には、対ロ制裁を含め、日本の対ロ関係に大きな変化は起こらないとの見方が現時点では主流となっている。
なお、今回の総選挙に関する筆者の見立ては、今週のジャパンタイムスに書くつもりなので、ご関心のある向きはご一読願いたい。サワリだけを簡単に言えば、今回の総選挙の結果は、
- 自民党の圧勝、高市首相の大勝利というより、立憲民主党の大敗北であること。
- それは単に特定の候補者の落選や立憲民主党の凋落だけではなく、戦後の日本国内政治が新しい時代に入ったことを暗示している・・・・ということだ。
詳しくは、ジャパンタイムスを読んでいただきたいが、現時点での筆者の勝手な見立てはこうだ。
先週も簡単に触れたとおり、日本の国内政治の「重心(英語ではcenter of gravity)」が、数十年前はレフトとセンターレフトの間だったのに、10年ぐらい前から徐々にセンターに戻り、最近では、それが徐々にではあるが、確実にセンターライトに移りつつある、ということに尽きる。
そうだとすれば、今後日本内政のベクトルがどの方向に向くかは別にして、何らかの「政界再編成」が不可避となろう。既に高市首相は、憲法改正を含む様々な改革、特に、国論を二分するような大胆な政策変更の可能性に言及し始めているが、この方針自体、個人的には賛成だ。
しかし、賛成だからこそ、これらの改革を慎重に、確実に、かつ堅実に一歩一歩進めていって欲しいと思う。当然ながら、これだけの大改革を目指す以上、各方面から批判や反対論が噴出することは間違いない。だが、その時に批判を抑え込む手段は、必ずしも「数」だけではないと思うからだ。
もう一つ、今回驚いたことがある。それは、筆者の外務省現役時代に、当時若く、元気で、堂々としていて、時に小憎らしく、何度も徹夜させられた苦い思い出の多い、あの懐かしい「野党議員」たちが、大挙して脆くも落選してしまったことだ。実名言及は差し控えるが、あの旧民主党系のツワモノ議員たちが何故・・・、と思うと「じわっ」と来る。これも時代が変わりつつあることを暗示するのだろうか。
新しい時代に向けて新しい政治家をリクルートする政党もあれば、それを怠った政党もある。旧立憲民主党は組織の新陳代謝が必ずしも十分ではなかったのか。一つの時代が終わり、次の時代の方向性が明確に見えてくるまでは、当分このような混沌とした状態が続くのかもしれない。
これを象徴するのが沖縄県政ではないか。今回沖縄では1区から4区まで、辺野古移転に反対する候補者が全員落選している。沖縄県知事は「高市旋風が吹いた。残念だが、厳粛に受け止める」と述べつつ、政党同士が「主義主張だけを述べてぶつかり合うだけ」の状況を批判しつつ、「プレイヤーの私が調整役になるのは政治信条からして考えにくい。調整役がいない以上、各政党が責任者を立て、妥協点を見つけるために真摯に向き合うべきだ」と述べたそうだ。何という無責任!
サンドイッチマンではないが、「ちょっと、何言っているか、良く分からない・・」状態ではないか。県知事が調整役にならなかったら、一体誰が調整役になるのか。ここにも沖縄県政の混乱が見て取れる。このような状況は、恐らくは中央政界でも、大きくは違わないのだろう。
続いては、いつもの通り、欧米から見た今週の世界の動きを見ていこう。ここでは海外の各種ニュースレターが取り上げる外交内政イベントの中から興味深いものを筆者が勝手に選んでご紹介している。欧米の外交専門家たちの今週の関心イベントは次の通りだ。
2月10日 火曜日 オーストリア首相とチェコ首相、スロヴァキア訪問
2月11日 水曜日 イスラエル首相訪米、ホワイトハウスで首脳会談
バルバドスで総選挙
アフリカ連合外相会合開催(2日間、エチオピア)
EU国防相会合開催(ブラッセル)
2月12日 木曜日 バングラデシュで総選挙
EU首脳非公式会合(ブラッセル)
NATO国防相会合(ブラッセル)
2月13日 金曜日 ミュンヘン安保会議開始
2月14日 土曜日 アフリカ連合首脳会議(2日間、エチオピア)
最後はガザ・中東情勢だが、今回は6日に行われたイランとアメリカの交渉について書こう。交渉終了後に記者会見等はなかったらしく、交渉の結果は少しずつしか漏れてこない。それでも、報道によれば、イラン外相はアメリカ側との交渉で「ウラン濃縮を放棄することは決してない」「米国との戦争という脅威にも屈しない」と述べた。
予想通りの、いかにもイランらしい発言で、同国の一貫した態度は少なくとも表面上は変わっていないようだ。イラン当局は今も反政府系活動家に対する弾圧を続けており、イランが近い将来譲歩するとは思えない。他方、イランが米国との戦争を回避したいことも間違いはなく、何らかの表面的な譲歩を考えているフシすらある。
例えば、別の報道によれば、イラン側はウランの濃縮度を60%から引き下げる可能性についても言及したようだが、案の定、その見返りとしてイランは「すべての制裁が解除されること」を求めているようだ。これに対し、アメリカ側は高濃縮ウランをイラン国外に搬出することを求めているはず。近い将来合意に達することはないだろう。
他方、だからといってアメリカが直ちに対イラン大規模攻撃に踏み切る状況ではないだろうし、仮に対イラン攻撃を敢行すれば、恐らくアメリカは「得るものより、失うものが大きくなる」可能性すらある。イスラエルやサウジアラビア・アラブ首長国連邦も攻撃には反対するだろう。どうやら今回のアメリカとイランの交渉でも、あまり大きな進展は期待できないと思う。今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きは今週のキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。
トップ写真:総選挙当日の高市早苗総裁-2026年2月8日
出典:Kim Kyung-Hoon – Pool/Getty Images
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この記事を書いた人
宮家邦彦立命館大学 客員教授/外交政策研究所代表
1978年東大法卒、外務省入省。カイロ、バグダッド、ワシントン、北京にて大使館勤務。本省では、外務大臣秘書官、中東第二課長、中東第一課長、日米安保条約課長、中東局参事官などを歴任。
2005年退職。株式会社エー、オー、アイ代表取締役社長に就任。同時にAOI外交政策研究所(現・株式会社外交政策研究所)を設立。
2006年立命館大学客員教授。
2006-2007年安倍内閣「公邸連絡調整官」として首相夫人を補佐。
2009年4月よりキヤノングローバル戦略研究所研究主幹(外交安保)
言語:英語、中国語、アラビア語。
特技:サックス、ベースギター。
趣味:バンド活動。
各種メディアで評論活動。

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