女性宰相誕生と世界の潮流:保守ポピュリズムと高市政権

宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)
宮家邦彦の外交・安保カレンダー 2025#39
2025年10月6-12日
【まとめ】
・高市早苗氏の自民党総裁就任には歴史的意義があり、日本の内政・外交の変化を象徴している。
・日本の潮流は「現状維持」志向であり、米仏のような「現状破壊」型ポピュリズムとは異なる。
・高市新総裁には「君子豹変」が求められる。
先週筆者は「自民党総裁選関連は来週書く」とお約束したが、週末の総裁選の結果が大方の予想と大きく異なったこともあり、またも本稿執筆が遅れてしまった。
石破首相辞意表明以来、多くの政治評論家や政治部記者が様々な予想や解説を垂れ流してきたが、振り返ってみれば、結果論ながら、その殆どは噴飯ものに近かった。
今回テレビを見ていて最も驚いたのは、自らの「取材不足」を謝罪した政治評論家が少なくとも一人いたことだ。筆者は自らの過ちを率直に認め、しっかり謝罪できるこの評論家の勇気と知的正直さを高く評価している。言うのは簡単だが、実行するのは思った以上に難しい。筆者はそのことを自らの経験を通じ熟知しているつもりだ。
それはさておき、高市早苗総裁誕生には歴史的意義がある。日本初の「女性宰相」誕生もそうだが、それ以上に最近の日本内政・外交の変化を文字通り象徴していると思うからだ。この点については、今週の産経新聞、日経ビジネス等に書かせてもらった。ご関心の向きは一読して頂きたい。
色々言いたいことを書き殴ったが、筆者が最も強調したかったのは近年の世界的潮流である「保守ポピュリズム」と高市総裁誕生との微妙な相関関係だ。欧米のポピュリズムの原点が、冷戦後のIT革命と「弱肉強食」的資本主義により経済格差が広がったことで生まれた「忘れ去られた人々」の不満と怒りだったことは確かだろう。
しかし、今の高市総裁を生んだ自民党内の動きと、ドイツのAfD、フランスのルペン、米国のトランプなどの政治運動は、実は「似て非なるもの」だと考えている。理由は簡単。前者が「現状維持」志向であるのに対し、後者は「現状破壊」勢力だからだ。その意味で、トランプ氏と高市氏に強い親和性があるとは必ずしも思わない。
今、高石新総裁にとって最も必要なことは「君子豹変」である。偉大な政治家は「時代が作る」もので、政治家が偉大な時代を作るのではない。「選挙に勝つこと」と「国家を統治すること」は全く別の活動である。勿論、前者がなければ後者もないが、選挙のための「戦術」と統治のための「戦略」を混同してはならないのだが・・・。
さて続いては、いつもの通り、欧米から見た今週の世界の動きを見ていこう。ここでは海外の各種ニュースレターが取り上げる外交内政イベントの中から興味深いものを筆者が勝手に選んでご紹介している。欧米の外交専門家たちの今週の関心イベントは次の通りだ。
10月7日 火曜日
ホワイトハウスで米加首脳会談
ペイン議会、対イスラエル武器禁輸の是非を審議
10月8日 水曜日 英首相、インド訪問(2日間)
10月9日 木曜日 セイシェル、大統領選挙決選投票
10月10日 金曜日
ノーベル平和賞発表
G-20貿易大臣会合(南アフリカ)
10月12日 日曜日 カメルーンで大統領選挙
10月13日 月曜日 IMF・世銀年次総会始まる(1週間)
さて、最後はガザ・中東情勢に触れよう。ガザ紛争については、先週書いた通り、トランプ政権が20項目の停戦合意案を提示し、イスラエルは一応同意している。一方、ハマース側は人質解放について交渉を始めたものの、自らの武装解除には全く触れておらず、またイスラエル軍の完全撤退という要求も未だ降ろしていない。当然、イスラエルは攻撃を停止していない。これでは交渉は進展せず、仮に人質が一部または全員解放されたとしても、早期停戦には至らないのではないか。トランプが提示したからと言って、すんなりと停戦が実現する状況ではないのだろう。
今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きは今週のキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。
トップ写真)自民党総裁選後、党首室で写真撮影に臨んだ高市早苗新総裁
東京-日本 2025年10月4日
出典)Yuichi Yamazaki – Pool/Getty Images
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この記事を書いた人
宮家邦彦立命館大学 客員教授/外交政策研究所代表
1978年東大法卒、外務省入省。カイロ、バグダッド、ワシントン、北京にて大使館勤務。本省では、外務大臣秘書官、中東第二課長、中東第一課長、日米安保条約課長、中東局参事官などを歴任。
2005年退職。株式会社エー、オー、アイ代表取締役社長に就任。同時にAOI外交政策研究所(現・株式会社外交政策研究所)を設立。
2006年立命館大学客員教授。
2006-2007年安倍内閣「公邸連絡調整官」として首相夫人を補佐。
2009年4月よりキヤノングローバル戦略研究所研究主幹(外交安保)
言語:英語、中国語、アラビア語。
特技:サックス、ベースギター。
趣味:バンド活動。
各種メディアで評論活動。

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