トランプ大統領へのノーベル平和賞推薦高市首相はなぜ説明せぬ

樫山幸夫(ジャーナリスト、元産経新聞論説委員長)
【まとめ】
・高市首相は、トランプ米大統領のノーベル平和賞推薦について国会質疑で言及を避けた。
・推薦については、国内からは批判が相次いでいる。
・「お世辞外交」などという指摘に対して、首相は明確な説明をすべきだ。
■ ノーベル委員会の方針を隠れ蓑に
11月4日、高市首相の所信表明演説に対する衆院本会議代表質問で、立憲民主党の野田佳彦代表は、トランプ米大統領へのノーベル賞推薦について質した。
野田氏は、トランプ大統領が核実験再開を指示したことに触れ、「いまも推薦するつもりか」、「行き過ぎたお世辞外交だ」と手厳しく批判した。
首相は「候補者の推薦については、ノルウェーのノーベル委員会が審査資料を少なくとも50年間は開示しないとしている。推薦の事実及びそれを前提とした質問に答えるのは差し控える」と述べ、一切の説明を拒否した。
■ 首相「世界の平和と安定へのゆるぎないコミット」と絶賛
トランプ氏を推薦する意向は、10月28日に東京で行われた日米首脳会談の席上、高市首相から伝えられた。
首相は会談冒頭、パレスチナ自治区ガザでの停戦、タイとカンボジアの国境紛争の仲介を理由にあげ、「かつてない歴史的偉業だ。世界の平和と安定へのゆるぎないコミットを高く評価する」とその成果をたたえた。
高市首相の推薦方針に対して、首脳会談直後から国内では賛否両論があり、野党からは「卑屈だ」などという批判もなされていた。
トランプ大統領は、2018年に実現した初の米朝首脳会談が評価され、平和賞候補に擬せられた。以来、たびたび下馬評にあがり、本人も受賞への強い願望を隠さなかった。国連総会での演説やインタビューで「私はノーベル平和賞に値する」などと自賛、自薦していた。
■ トランプ氏の言動、平和賞にふさわしいか
トランプ氏の功績が平和賞に値するかの判断は、ノーベル賞委員会の判断にかかっているが、議論があるのは、大統領の人種差別、性差別に与するような発言や、さまざまな事件で刑事訴追され、有罪判決を受けた身であることなどからだろう。
物議を醸す氏の言動は枚挙にいとまがないが、刑事事件で有罪判決を受けた事実は重くのしかかる。
氏は初当選した2016年の大統領選の際、密かに関係をもっていた元女優に対し、自らの会社の資金を流用して口止め料3000万円を支払った罪で昨年、有罪判決をうけ、現在控訴中だ。
高市首相この事実を知らないはずはなく、それでもなおノーベル賞に推薦したのは、和平の実績と刑事裁判、過激な言動とはは関係がないという認識からだろうが、それは正しい判断か。
過去のノーベル平和賞をみると、国際平和への貢献だけでなく、人道問題への献身が評価されることが少なくなかった。1964年に、人種差別撤廃に献身してきたアメリカのマーチン・ルーサー・キング牧師が受賞したのは、その証左だろう。
■ 首相は堂々と国民に説明すべき
人種差別のような言動を弄してはばからないトランプ氏が受賞にふさわしいのかという議論が出たとしても当然であり、そうした問題について、首相がノーベル委員会の方針を隠れ蓑にして国会質問への答弁を避けるのは、不誠実との批判を受けてもやむ得まい。
正しい判断だと思うなら首相は堂々と国民に説明すべきだろう。
高市首相の推薦にはさまざまな意図が込められているだろうが、就任早々でもあり、懸案の日米の貿易交渉を有利に展開し、あわせて同盟関係を強化しようという狙いからの「関係構築の先行投資」(貿易ドットコム)という見方もなされている。
そうした政治的な計算は理解できるが、それだけに、あまりのトランプ礼賛は、各国に「日本の首相はトランプと価値観を共有するのか」という印象を与えることになりはしないか。
トランプ氏は1期目の2019年、安倍晋三首相(当時)から、自らを平和賞に推薦するノーベル委員会への書簡を見せられたことを明らかにしている。
安倍路線継承を掲げている高市首相、ノーベル賞推薦まで継承する必要はなかろう。
トップ写真:日米首脳会談の合意文書を掲げる高市首相とトランプ大統領@東京 – 10月28日
出典:Photo by Andrew Harnik/Getty Images




























