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.国際  投稿日:2025/9/9

石破辞任の衝撃と、世界が直面する「終わりの始まり」


宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)

宮家邦彦の外交・安保カレンダー 2025#35

2025年9月8-15日

【まとめ】

・石破茂自民党総裁の辞任表明は、参院選敗北の責任を取るという政治の常識に照らし、驚きはなかった。

・辞任表明が敗北から50日後の日曜夜、しかも関係者への事前連絡が不十分であったことは、官邸の機能不全を示唆しており、驚くべき点だった。

・この政治状況は「終わりの始まり」を象徴するものであり、それは自民党に限らず、国際政治でも同様の傾向が見られる。

 

9月7日夜、石破茂自民党総裁が遂に、というか、漸く、辞意を表明した。あるジャーナリストはこれを「遅きに失した」と批判していたが、このあたりが、恐らくは一般国民の最大公約数に近いのではないか。「石破辞めるな」コールとか、内閣支持率の上昇など興味深い情報もあったが、政治の現実はこれとはちょっと違うだろう。

古今東西、選挙に負ければ責任を取る、というのが政治の常識だ。しかも、敗北は一回だけではない。これだけ「勝てない」となると、自分の選挙区での再選を考える全ての自民党国会議員が黙っていないだろう。その点では、石破首相は「往生際が悪い」とは思ったが、今回の辞任表明自体に驚きは全くなかった。

むしろ驚いたのは、参院選敗北から50日も経った、しかも週末・日曜夜の、突然の記者会見だ。しかも、衆議院の政務官房副長官には事前に連絡がなく、この会見には同席できなかったという。これでは官邸チームが機能する方が不思議だろう。総理大臣の進退とはこんなものではない筈だ。

50日間の政争劇は「終りの始まり」を象徴するとの声すら聞いたが、「終りの始まり」というなら、それは何も自民党だけではない。国際政治の世界でも同様の傾向が続いている。「終りが始まっている」という点では、例えば、欧州の安定、ロシアの対中優位、中国共産党の正統性、トランプ外交などが考えられるだろう。

この点については、今週の産経新聞WorldWatchに書こうと思っている。ご関心があればご一読をお願いしたい。

さて続いては、いつもの通り、欧米から見た今週の世界の動きを見ていこう。ここでは海外の各種ニュースレターが取り上げる外交内政イベントの中から興味深いものを筆者が勝手に選んでご紹介している。欧米の外交専門家たちの今週の関心イベントは次の通りだ。

9月9日 火曜日 国連総会始まる

NATO事務総長、訪英、英首相と会談

ポーランド大統領、フィンランド訪問

フィリピン大統領、3日間のカンボジア訪問から帰国

9月10日 水曜日 ポルトガル首相、訪中(3日間)

イスラエル大統領、訪英(2日間)

モルドバ大統領、訪伊、伊首相と会談

9月11日 木曜日 モーリシャス首相、訪印、印首相と会談

9月12日 金曜日 ブラジル前大統領に対する裁判で評決

9月14日 日曜日 ロシアで地方選挙

9月15日 月曜日 シリア、議会選挙

さて、最後はガザ・中東情勢だが、ガザでの停戦交渉は米国の「新たな提案」をめぐり再び動き始めた。提案内容は「ガザでの戦闘終結と引き換えにハマースが残る人質全員を解放する」というが、イスラエルは既にこれを受け入れたそうだ。トランプ氏は「これが最後の警告だ」と言ったそうだが、これを真に受ける人は少ないだろう。

戦闘が終結しても、イスラエル軍は撤退しない。逆に、ハマースが人質を全員解放すれば、イスラエルは怖いものがなくなる。ハマースの「政治組織」をも解体すべく、徹底的な軍事作戦をいずれ再開するだろう。そんな内容をハマースが受け入れるとは思えない。人質解放は切り札の喪失である。ハマースが余程追い詰められない限り、停戦はないだろう。

それよりも気になるのは9月15日から20日にかけて予定されているシリアの議会選挙だ。シリアでの選挙は、昨年12月のアサド政権崩壊後初めてであり、大いに注目している。シリアの安定は今後10年間のレバント地域の安定を占う上でカギとなるからだ。でも、今のシリア、しかも全土で、議会選挙なんか実施できるのだろうか・・・?

今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きは今週のキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。

トップ写真:石破茂首相 辞任会見(2025年9月7日)出典:花井徹 – Pool/Getty Images




この記事を書いた人
宮家邦彦立命館大学 客員教授/外交政策研究所代表

1978年東大法卒、外務省入省。カイロ、バグダッド、ワシントン、北京にて大使館勤務。本省では、外務大臣秘書官、中東第二課長、中東第一課長、日米安保条約課長、中東局参事官などを歴任。

2005年退職。株式会社エー、オー、アイ代表取締役社長に就任。同時にAOI外交政策研究所(現・株式会社外交政策研究所)を設立。

2006年立命館大学客員教授。

2006-2007年安倍内閣「公邸連絡調整官」として首相夫人を補佐。

2009年4月よりキヤノングローバル戦略研究所研究主幹(外交安保)

言語:英語、中国語、アラビア語。

特技:サックス、ベースギター。

趣味:バンド活動。

各種メディアで評論活動。

宮家邦彦

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