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.国際  投稿日:2026/1/10

トランプ陣営の高市早苗観とは「下」日本のスパイ防止法への期待


古森義久(ジャーナリスト/麗澤大学特別教授) 

古森義久の内外透視 

 

【まとめ】 

・東アジアでは日本、韓国、アメリカの3国安全保障の協力な絆が築かれていくという展望がある。 

・日本は自由と安全と繁栄の同盟の有力な一員であり、中国などに対抗する同盟の促進のためにも、強力なリーダーが必要。

・日本は統一された、政府全体を総括する単一のインテリジェンス機関が必要不可欠である。 

 

 

 トランプ政権のこの安全保障戦略は中国の軍事膨張への抑止、とくに台湾侵攻の抑の重要性を強調していた。 

 

 北大西洋条約機構(NATO)の西欧諸国への防衛支援よりも、まずインド太平洋での中国の脅威に直面する同盟国、有志国の安全により多くの比重をおいて、支援するという基本姿勢だといえる。その具体的な例証は西太平洋での中国側の軍事拡張の基本線である「第一列島線」の米側の抑止策の強化である。さらには日本や韓国という同盟諸国との共同防衛の改めての強化の方針だ。 

 

この点でトランプ政権は中国の軍事脅威に対する日本と韓国の指導層の正確な認識の深化を期待してきた。アメリカは日本や韓国の指導者がこの点、タフであることを強く求めているのだ。安倍晋三首相はまさに強固な対中認識を持っていた。韓国の李在明大統領は左翼であり、米側では当初は懸念があった。だがその後、李大統領は明らかに中国の脅威を認識して、韓国の防衛支出を大幅に増やす措置をとったため米側では安堵した。李大統領はさらに原子力潜水艦の保有を求め、トランプ政権にそのための支援を要請した。トランプ大統領はこの要請に応じたわけだ。 

 

こうした動きは東アジアで日本、韓国、アメリカの3国安全保障の協力な絆が築かれていくという展望を示す。トランプ、高市、李という3首脳が団結して、中国や北朝鮮の軍事的挑戦をしっかりと抑えていくという態勢である。 

 

 アジア太平洋での中国と北朝鮮による米側陣営への挑戦はさらにロシアやイランという国家を含めて国際的な反米枢軸を結成しているという見方もある。だが私(フライツ氏)はこれら諸国の結束はそれほど心配することもないという見解だ。なぜならトランプ政権がイランに対して核兵器開発の防止のための空爆を実施した際、枢軸の同志であるはずのロシアや中国はなんの行動もとらなかった。 

 

トランプ政権はいまやベネズエラとキューバに対してアメリカへの麻薬の密輸を防ぐために軍事行動をとる構えをみせている。ベネズエラに対してはすでに軍事行動をとった。しかしベネズエラ政権への緊密な支援を唱えている中国がそれを防ぐための言動をみせる気配はない。 

 

 国家同士の絆といえば、なんといっても自由主義の諸国の同盟である。イギリス、フランス、日本、韓国、そしてアメリカなどがグローバルな規模で自由と安定を促進し、拡大する。これこそが信頼すべき国家間の同盟なのだ。一方、中国、ロシア、イラン、北朝鮮という国の集まりは無法国家の連帯だといえる。全世界を見渡すと、この集まりに加わりたいという国は少ない。この集まりは他の諸国民を勇気づけ、前向きの目標への前進を鼓舞することがない。一部の国家や国民を恐れさせることはあるかもしれないが。 

 

 中国政府は実はこの「枢軸」という言葉を嫌っている。イランや北朝鮮という国家とひとくくりにされることを嫌うからだ。中国は自国をグローバルなリーダーとみなしている。そんな中国はロシアとの連帯を認識されても、構わないようにみえる。そのロシアはいまウクライナへの侵略を続け、世界中から非難を浴びている。そんなロシアを中国はなぜ支援し続けるのか。日本と中国のいまの対立はこうした視点からも認識されるべきだ。日本は明らかに勝利する側に立っている。日本は自由と安全と繁栄の同盟の有力な一員なのだ。そしてその日本は中国などのならず者の集団に対抗する同盟の促進のためにも、強力なリーダーが必要なのである。 

 

 高市首相が日本の国家としての主権を明確に主張していることも、頼もしいと感じる。まずは自国の権利や利益の追求を明らかにすることは、トランプ政権のスタンス、さらには全世界の大多数の諸国のスタンスと共通している。 

 

 ここで高市首相の国内政策にも触れてみたい。首相は日本経済の再活性化のために野心的なスティミュラス(経済刺激策)措置をもとろうとしているようだ。だが反対の意見も多い。日本は巨額の債務に悩まされる国だから大幅な支出を伴う新たな刺激策への反対論議が起きるのも当然ではあろう。だが高市氏のその勇気ある方針には賛同を送りたい。 

 

 高市首相は同時に政府機構の改革、とくに巨大な官僚機構の縮小にも取り組もうとしているようだ。アメリカではトランプ政権下でイーロン・マスク氏が主宰を任されたDOGE(政府効率化省)が連邦政府機関の大幅な縮小を進めた。保守主義の柱である「小さな政府」策の促進である。アメリカの連邦政府機関のなかには肥大ばかりして、官僚を優遇し、国民のための本来の職務を果たしていない機関も多かった。日本でも同様の傾向があるだろう。しかし日本では高市氏以外に正面から官僚機構の効率化、そして縮小という作業に取り組んだ指導者はいなかったのではないか。この点でも私は高市首相への支援を送りたい。 

 

 一方、皮肉なことに肝心のアメリカではDOGEがすでに解体され、官僚機構縮小の作業も一段落したかにみえる。だが現実には私が国務省や国防省の官僚たちと話すと、彼ら自身が既成の組織には余分な人員や部門がまだ多々あり、さらなる改革が必要であることを強調している。日本でも高市首相主導の「小さな政府」路線の官僚機構の効率化が進むことを期待したい。 

 

 さらに高市政権は政府全体で統括された国家情報組織を創設しようとしている。この措置は日本にとって遅きに失した不可欠の措置だと思う。周知のように日本には国家や政府のすべてを一括するインテリジェンスの組織が存在しない。その情報収集、諜報などインテリジェンスの作業は外務省、防衛省など個別の複数の組織が実施しているのだ。この点は他の諸国とくらべて、まったくの異端である。 

 

私自身もCIA(中央情報局)に勤務していた時代の日本との折衝で重要な秘密情報を日本政府の一つの情報関連部門に伝えると、別の省庁の情報関連部門から自分たちにもその同じ情報を伝えてほしいという要請がきて、戸惑ったことが何回もあった。他の諸国であれば、中央の情報機関に特定情報を一度、伝えれば、それで政府全体の必要な部門に伝わるのだ。だから日本は統一された、政府全体を総括する単一のインテリジェンス機関の創設が必要なのだ。 

 

 高市首相がスパイ防止法の制定を目指すことも、同盟国としてのアメリカにとっても、きわめて好ましい動きだ。いまの日本では中国政府のスパイが多数うごめいている。日本の国防上の情報や産業技術面での情報を盗み続けている。こんな事態を防ぐために、外国政府のためのスパイという行動を違法にする措置はいまの日本にとって緊急を要する国家的責務だといえる。 

 

 高市早苗首相が日本にとってのこうした内外での主要措置を大胆に進めていくことは同盟国のアメリカにとっても、自由民主主義の国際社会にとっても、きわめて貴重なことなのである。 

 

 

【フレッド・フライツ氏の略歴】 

アメリカのフォーダム大学修士課程終了後、1980年代からCIA(中央情報局)、国防総省、国務省に勤務する。各部門で国際情報収集活動にあたり、主として北朝鮮、イランの核開発阻止の作業にかかわった。その後、議会下院情報委員会の首席補佐官を経て、2015年から「安全保障政策センター」副所長、18年から21年まで第1次トランプ政権で国家安全保障会議担当の大統領補佐官。22年からアメリカ第一政策研究所(AFPI)に所属し、現在は同副所長を務める。 

 

 

 

この記事は日本戦略研究フォーラムの2026年1月刊行の季報に掲載されたフレッド・フライツ氏の論文の転載です。 

 

 

 

写真)時事通信社の新年互礼会に出席する高市早苗首相。 令和8年1月6日 

出典)首相官邸 

 




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