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.国際  投稿日:2026/1/16

グレートゲーム新段階へ。米中対立の激化と「米露懐柔」の深層


 

宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)

外交・安保カレンダー 2026#02 

 2026年1月12-18日

 

【まとめ】

・米国によるベネズエラ大統領拘束事件は、1945年から80年続いた「戦間期」の終わりと、国際秩序づくりが「中断」し、グレートゲームが新たな段階に入ったことを象徴している。

・米国の国力衰退と中国の台頭により、従来の「米露」からグレートゲームの対立軸が「米中」へと変質し始めた。

・米国は自由で開放的な国際秩序作りを維持する余裕がなくなり、「強い米国」の再建と自国の勢力圏再確立に重点を移し、対中戦に備えてロシアを懐柔しようとしている可能性が指摘されている。

 

 巷では新年早々「衆議院解散」話が飛び交っているようだが、それはそれとして、今回は別の話から始めよう(なお、解散にご関心ある向きはこちらが面白い)。実は過去一週間、筆者が勝手に「インターネット系ニュース討論番組」と呼ぶネットプログラム(しかも二つ)から珍しくお声が掛かった。一つはJapan In-depthチャンネル、もう一つはNo Border Newsである。

 

 前者のアンカーは元フジテレビ経済部長の安倍宏行氏で、どちらかというと「元正統派」系かなぁ。後者はあの「官邸崩壊」を書いた上杉隆氏だが、「陰謀論系?かと思ったら、実はそうではなかった」(失礼!)系の報道番組だと感じた。筆者も最初は驚いたが、両氏とも長いお付き合いがあるので、躊躇はしなかった

 

 この種の番組に呼ばれることはあまりなかったのだが、正直なところ、出演してみてスタッフを含めその「若手で気鋭な」独特の雰囲気に感銘を受けた。もしかしたら、70年前、日本でテレビ放送が始まった黎明期のNHKや民放のスタジオの雰囲気に似ているのかもしれない、とすら思ったほどだ。やはり歴史は韻を踏むのか

 

 さて、上杉氏MCの番組では米国によるベネズエラ大統領拘束事件についての感想を問われ、要旨次の通り答えた

 

  • この事件が象徴するのは、もう何百年も続くグレートゲーム、すなわち、「ユーラシア大陸ハートランドのランドパワーの拡大と、それを牽制したいシーパワーとの対立」、という一種の「すごろく」ゲームが今や新たな段階に入ったということ

 

  • この「すごろく」、直近では1945年から80年間続いてきたが、トランプ政権の登場で結局また「振り出し」に戻ってしまったようだ。言い換えれば、1945年から80年間続いたこの「戦間期」が遂に終わったことを象徴するのが今回の事件だと考える。

 

  • 1945年から80年間は、自由で開放的なルールに基づく国際秩序づくりの時代だったが、今回の事件はこれが「中断」したことを暗示している。但し、この国際主義の流れはあくまで「中断」であって、決して「終わった」とは思わないのだが……。

 

  • それはさておき、第二次大戦後のグレートゲームは冷戦と呼ばれ、その相手はソ連共産主義だった。冷戦に勝つための大義名分は「自由」「オープン」「ルール」に基づく国際秩序であり、これで米国は「冷戦」を45年間も戦ったのである。

 

  • 冷戦はロシア、ソ連の敗北に終わったが、その後、世界には新たな矛盾が生まれた。90年代以降、IT革命と弱肉強食の資本主義が始まったため、各国で経済格差が拡大し、社会が「勝ち組」と「負け組」に分かれてしまったからだ。

 

  • 数では「負け組」が圧倒的に多い。「勝ち組」はほんの僅かだから、当然各国で経済格差が広がり、「忘れ去られた人々」の不満が高まっていく。特に、米国では自由貿易主義の下で国内の製造業が空洞化していったことが響いた

 

  • その結果、残念ながら米国の国力は徐々に衰えていったのに対し、ハートランドではロシアに代わり中国が台頭してきた。これにより、従来の伝統的な「英露」の対立だったグレートゲームが、「米露」から「米中」対立へと変質し始めたということだ

 

  • 中国が台頭する中で米国の力が衰えていくと、さすがの米国も背に腹は代えられなくなる。90年代にピークを迎えたこの国際自由で開放的なルールに基づく国際秩序は、あくまで米国にある程度余裕があったからこそ何とか維持できたのだ

 

  • こうした「国際主義」時代のルールは実は中小国にとって有利だった。米国が保証してきた「中小国に有利な世界」が遂に終わり始める。これがトランプ政権によるベネズエラ介入が象徴することなのだろう……

 

ついでに注釈を加えれば、

 

  • 米国の力は衰えはじめたが、それは第二次大戦終結当時の大英帝国に似ている。トランプ氏はともかく、米国の戦略家たちも、当時の英国の戦略家と同様、おそらく米国の覇権の将来に大きな不安や懸念を持ち始めたに違いない。

 

  • 80年前、グレートゲームに大きなシフトが起き始めた時、英国は大国としての生き残りを必死で考えていた。米国も、これからは新たな中国とのグレートゲームに備えて必要な準備を始める必要があると考えたに違いない。

 

  • となれば、とてもじゃないけど、これまでのような自由で開放的なルールに基づく国際秩序作りなんて、米国の負担が大きすぎ、やっていられない。それよりも、まずは強い米国を再建し、自国の勢力圏を再確立する必要があると考えるだろう

 

  • トランプ氏はともかく、その周りにいる人たちはこのことを本能的に悟っているはず。されば、今は何とかロシアを懐柔し、米露の戦いから米中の戦いに向けて米国の体制を立て直そうとしているのではないか。

 

 あれあれ、長くなってしまった。解散風の話と日韓首脳会談は来週取り上げることに

する。

 

 続いては、いつもの通り、欧米から見た今週の世界の動きを見ていこう。ここでは海外の各種ニュースレターが取り上げる外交内政イベントの中から興味深いものを筆者が勝手に選んでご紹介している。欧米の外交専門家たちの今週の関心イベントは次の通りだ。

 

1月13日 火曜日 ポーランド大統領訪英、英首相と会談

韓国大統領訪日、日本首相と会談(2日間)

1月14日 水曜日 デンマーク外相とグリーンランド外相訪米、米国務長官と会談

 カナダ首相訪中(4日間)

1月15日 木曜日 ウガンダで総選挙

イタリア首相訪日(3日間)、その後韓国訪問

1月17日 土曜日 EU・メルコスール貿易協定調印(パラグアイ)

1月18日 日曜日 ポルトガル大統領選挙

1月19日 月曜日 ダボス会議開幕

 

 最後はガザ・中東情勢だが、今の筆者の最大関心事はイランの国内情勢だ。水・電気不足、インフレ、通貨暴落など厳しい経済状況にあるイランで反政府デモが拡大している。ところが、トランプ政権は、よせば良いのに、イランと「取引」をしようとしている。しかも「弾圧を続けるなら、武力攻撃も辞さない……」などと恫喝しているらしい。

 

 馬鹿なことは止めた方が良い。イランは決して米国の言うことなど聞かないからだ。それではイランを攻撃するのか?それをやれば、イランのイスラム体制は再び強化されるだろう。1980年9月のサッダーム・フセインの失敗を繰り返す「愚」だけは避けるべきだろうが、そんなことトランプ政権に言っても始まらないだろうなぁ。

 

 今イラン体制は発足以来最も脆弱な状態にあるかもしれない。だからこそ、慎重で思慮深い対応が必要なのだが、米国、特にトランプ政権、やイスラエルにそれができるか?お手並み拝見である。今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きは今週のキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。

 

写真)会談前に写真撮影に応じるトランプ米大統領と中国の習近平国家主席 2025年10月30日 韓国・釜山

出典)Andrew Harnik/Getty Images

 




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