香港巡り、米中対立激化
宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)
「宮家邦彦の外交・安保カレンダー【速報版】 2020#22」
2020年5月25-31日
【まとめ】
・中国政府は中国本土の国家安全法を香港にも適用する方針を固めた。
・同法の適応で、香港でのデモ集会の自由は大幅に制限される。
・米国NSC補佐官は「香港に対する特別待遇の廃止」も示唆。
新型コロナ緊急事態宣言が漸く全面解除されるという。だが、過去2カ月の間にテレワークが染み付いてしまった筆者に「解放された」という実感はない。今も世界では感染者と死亡者が増え続けている。このタイミングでの解除が正しいのかは誰にもわからない。わからないのだが、経済面を考えれば、恐らくこれしか選択肢はないだろう。
日本のコロナ対策がそれなりの結果を出していることは喜ばしいが、なぜそうなのかを明確に説明できる人はいない。今しばらく調査と研究が必要のようだ。一方、コロナ関連以外で筆者が今週最も気になったのは香港情勢である。各種報道によれば、中国政府は中国本土の国家安全法を香港にも適用する方針を固めたそうだ。
遂に来るものが来たらしい。COVID-19に端を発した米中、というよりも中国と西側との対立は今や「売り言葉に買い言葉」の子供(失礼!)の喧嘩に近づきつつある。トランプ政権は大統領選挙を念頭に中国共産党のコロナウイルス対応を厳しく批判するのだろうが、これには中国も黙っていないだろう。こうなると、意趣返しの応酬だ。
写真)トランプ大統領と習主席(2018)
出典)Dan Scavino Jr.🇺🇸@Scavino45 Twitter
同法が適用されれば、香港でのデモ集会の自由は大幅に制限される。本来この問題は、香港返還が決まった1994年に合意された中英共同声明(Joint Declaration)に従って議論されるべきものだ。しかし、中国は既にこの合意は効力を失ったと解釈しているので、妥協の余地はない。中国が譲歩する可能性はゼロだろう。
中国政府が香港での治安維持に直接介入する訳だから、香港での高度な自治を認めた「一国二制度」の形骸化は一層加速する。このように、中国のコロナ隠蔽→米国の対中批判→英国の5G用Huawei機器締出策検討→国家安全法の香港適用→米国の対中追加制裁の示唆・・・となると、強硬措置の連鎖は当分止まりそうもない。
特に、米国のNSC補佐官は対中追加制裁として「香港に対する特別待遇の廃止」も示唆しており、このままでは口喧嘩では済まなくなるかもしれない。筆者の専門ではないが、仮に香港が今の特別な地位を失えば、混乱で対中投資が減少する恐れがあると同時に、そこで営業する米国企業だって大打撃を受けるはず。要注意である。
今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きは今週のキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。
トップ写真)2019 香港デモ
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この記事を書いた人
宮家邦彦立命館大学 客員教授/外交政策研究所代表
1978年東大法卒、外務省入省。カイロ、バグダッド、ワシントン、北京にて大使館勤務。本省では、外務大臣秘書官、中東第二課長、中東第一課長、日米安保条約課長、中東局参事官などを歴任。
2005年退職。株式会社エー、オー、アイ代表取締役社長に就任。同時にAOI外交政策研究所(現・株式会社外交政策研究所)を設立。
2006年立命館大学客員教授。
2006-2007年安倍内閣「公邸連絡調整官」として首相夫人を補佐。
2009年4月よりキヤノングローバル戦略研究所研究主幹(外交安保)
言語:英語、中国語、アラビア語。
特技:サックス、ベースギター。
趣味:バンド活動。
各種メディアで評論活動。