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.社会  投稿日:2022/10/18

旧統一教会「解散命令」論議に潜む危うさ


楊井人文(弁護士)

【まとめ】

・岸田首相は質問権の行使を指示し、永岡桂子文科相は行使基準を明確にするための有識者会議を立ち上げへ。

・先に結論を指示するのは順序が逆で、首相が内閣支持率急低下に焦って政治判断を下しているように見える。

・旧統一教会を袋叩きにして溜飲を下げるのが目的でないのだとしたら、冷静に宗教法人制度のあり方の議論を開始すべき。

 

旧統一教会をめぐって宗教法人法に基づく解散命令請求をすべきか否かが議論されている。その前提となる事実の調査のため、質問権を行使するよう、岸田文雄首相が10月17日、永岡桂子文科相に指示を出した。衆議院予算委員会で年内にも行使するとの方針も示した。

ところが、永岡文科相はこれから質問権の行使の基準を明確にするとして、有識者会議を立ち上げるという(NHK)。先に行使するという結論を指示し、所轄庁に行使の基準を作らせるというのは、順序が逆ではないだろうか。首相が内閣支持率の急低下に焦って政治判断を下しているように見え、危うさを感じる。

 

■法の仕組みは質問権に慎重な歯止めをかけている

質問権とは、宗教法人の解散命令に該当する事由がある等の疑いがある場合に、所轄庁が質問して情報収集できるという規定だ(宗教法人法78条の2)。前提として、宗教法人審議会の意見聴取手続きも必要で、当然ながらまだ審議会の意見も聞いていない。だが、行使の結論ありきの首相発言を疑問視する報道は見かけない。

質問権の行使に反対しているのではない。そういう権限が所轄庁に与えられている以上、検討は必要だろう。これまで基準も作らず、行使を想定したことが一度もなかったこと自体も問われるべきだろう。

だが、宗教法人法は、質問権の行使をかなり慎重に抑える仕組みをとっている。施設の立ち入りは同意が必要で、この権限の行使について、わざわざ「宗教法人の宗教上の特性及び慣習を尊重し、信教の自由を妨げることがないように特に留意しなければならない」(法78条の2第4項)とか「犯罪捜査のために認められたものと解釈してはならない」(同第6項)といくつもクギを刺している。

基準も前例がない以上、所轄庁の担当職員では即座に対応できず、専門家を交えた慎重な検討が必要なのは当然だろう。

にもかかわらず、衆議院予算委員会で、山井和則議員(立憲民主党・国会対策委員長代理)は「調査はいつ終わるのか。私たちは、いつまで待てばいいのか。その間どんどん被害は拡大する。人の命がかかっているので、せめて年内に調査を終わらせることを要望する」と岸田首相に迫っている。法の仕組みや文化庁のリソースを無視した追及の仕方ではないか。

 

■目指す終着点は何なのか 解散で監督官庁がなくなってもよいのか

安倍元首相殺害の後に勃発した、旧統一教会をめぐる議論は、一体何を目指しているのか、聞いていて時々よくわからなくなることがある。山上徹也容疑者が望んだように教団を潰すことなのか、被害者を救済することなのか、教団の違法行為を是正させることなのか、それも旧統一教会だけを対象にするのか、あらゆる中間団体のいわゆるカルト的行為を点検するのか。

いま、宗教法人法の解散命令をめぐって、前例が2つしかないこともあり、旧統一教会に適用可能かどうかをめぐって法律家どうし白熱した議論がかわされている。

一方で、法人格を剥奪しても団体としては存続し得るから、信仰の自由を侵害することにはならないという。他方で、宗教法人には税制優遇があり、これが増長の要因になっているから、これを剥奪する意義があるという。だが、法人格を剥奪したとして、それによって何が得られるのだろうか。その後の見通しはついているのだろうか。

私が真っ先に思うのは、解散となれば、監督する所轄庁がなくなることである。オウム真理教の場合、解散後も活動を続けている残党団体が「無差別大量殺人行為を行った団体の規制に関する法律」(団体規制法)により、公安調査庁の監視下に置かれている。

だが、無差別大量殺人を行ったわけではない旧統一教会が解散しても、この法律が適用されることはない。解散後も活動を続ければ、社会からより見えにくい存在になり、行政も関われなくなる。それでもよいのだろうか。

 

■公益法人制度を参考にした宗教法人法の見直しを

旧統一教会が多くの問題を引き起こしていることは事実で、看過すべきではない。このような問題のある宗教法人を税制上優遇するべきでないというなら、まず、宗教法人格と税制優遇が不可分となっている現行法制度の見直しを議論すべきではないだろうか。

公益法人制度やNPO法制度では、法人格取得だけでただちに税制優遇はなく、所轄庁が一定の基準をクリアしていると認定した法人にのみ税制優遇措置が与えられる仕組みとなっている(内閣府参照)。ところが、宗教法人法では、そのようになっていない。公益法人制度のように、宗教法人も税制優遇を認めるタイプとそうでないタイプに分けるよう制度改革するということは考えられないか。

旧統一教会が宗教法人以外の、さまざまな関連団体・企業を有していることはよく知られている。メンバーが重なり合っている関連団体・企業の情報開示も義務付け、監督システムを強化する。そうして一定の基準をクリアしていると認定された宗教法人にのみ税制優遇を与える。制度移行期を設け、その間に基準を満たさなければ、税制優遇のない一般宗教法人に格落ちするが、監督の対象とする。基準を満たすところまで改善すれば、税制優遇のある認定宗教法人に格上げし、5年ごとの再認定を必要とする。逆に、違法行為が著しく、是正の見込みがなければ、最終的に法人格を剥奪する。たとえば、そんな制度改革の方向性も考えられるのではないか。

こうした制度改革の議論は時間もかかる。だが、解散命令も司法の手続きが必要で、やはり時間がかかる。明覚寺の解散命令も、請求から最高裁で確定するまで約3年かかっている。もしかしたら法制度改革の方が早く、しかも旧統一教会に限らない宗教法人全般の問題解決に寄与できるかもしれない。

旧統一教会」を袋叩きにして溜飲を下げることが目的でないのだとしたら、解散命令にこだわるのではなく、冷静に宗教法人制度のあり方について議論を開始すべきではないだろうか。

トップ写真:与党党首会談及び総合経済対策についての会見を行う岸田首相 2022年10月14日 首相官邸

出典:首相官邸




この記事を書いた人
楊井人文弁護士

慶應義塾大学総合政策学部卒業後、産経新聞記者を経て、2008年、弁護士登録。弁護士法人ベリーベスト法律事務所所属。2012~2019年、マスコミ誤報検証・報道被害救済サイト「GoHoo」を運営。2018年よりNPO法人ファクトチェック・イニシアティブ(FIJ)理事兼事務局長として、ファクトチェックの普及活動に取り組む。2021年よりコロナ禍検証プロジェクトに取り組み、Yahoo!ニュース個人などで検証記事を発表。著書に『ファクトチェックとは何か』(共著、岩波ブックレット)。

楊井人文

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