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.政治  投稿日:2025/11/6

李在明政権が流した「トランプ・金正恩会談」憶測情報



朴斗鎮(コリア国際研究所所長)

【まとめ】

・李在明政権と統一部長官は、トランプ大統領と金正恩総書記の「電撃会談」の実現を示唆する情報を繰り返し発信した。

・韓国メディアの報道に米国や日本のメディアも追随し、米朝が水面下で調整しているかのような印象を与える報道が拡散した。

・米政府が会談予定を否定した後も、情報操作的な宣伝姿勢が問題視された。

 

 

韓国でのAPEC(アジア太平洋経済協力)開催を前に、トランプ大統領の日韓歴訪が正式に発表されてから、韓国では、金正恩とトランプがスケジュールの合間を見て「電撃的に会うのでは」との情報がほぼ毎日のように流れた。

李在明政権は、トランプ大統領の金正恩への対話呼びかけ発言や金正恩総書記のトランプ大統領に対する発言を材料にして、あたかも「米朝首脳会談」が実現できるかの如き宣伝を繰り返した。この欺瞞的宣伝の先兵となったのは統一部長官の鄭東泳(チョン・ドンヨン)だった。

鄭東泳の憶測情報に追随した韓国メディア

 鄭東泳が主張する「トランプ・金正恩会談」の憶測を記事化して流したのは、左派機関紙のハンギョレ新聞であり、それに尾ヒレをつけたのが東亜日報とその系列テレビ局のチャンネルAだった。

ハンギョレ新聞は「金委員長は戦略的計算に長けている人物だ。自身との再会を切望しているトランプ大統領の誘いを利用する可能性もあるということだ。すなわち、トランプ大統領が親書やSNSで「私はもうすぐ韓国に行くが、あなたと会いたい」と提案すれば、金委員長は彼を朝鮮に招待し、私的に会おうと逆提案することもありうるということだ。労働党のキム・ヨジョン副部長が最近の談話で、両指導者に親交があることに触れ、「条件付き」の接触の可能性を否定しなかったことからも、このような見通しが立つ。さらに、大統領と政府の立場が違った1期目とは異なり、第2期トランプ政権が大統領を中心にまとまっていることも、金委員長の判断に影響を及ぼしうる(2025-09-03 )」と主張し煽り立てた。

「東亜日報」とその系列TV局の「チャンネルA」もこの扇動に同調した。東亜日報は、10月20日付でも「米国、『トランプ・金正恩会談』を手探り 在韓国連軍司令部、板門店ツアーを中止へ」などとの記事を掲載し、「トランプ・金正恩会談」が現実化しているかのようなニュースを流し続けた。この報道は、鄭東泳が10月20日に、「トランプ・金正恩会談準備のために北朝鮮軍が休戦ラインで草むしりをしている」と発言したことに合わせたものだった。

韓国メディアは、2019年の板門店会談を含め、第1次トランプ政権の米朝首脳会談の実務を担当したケビン・キム国務次官補代理が、ジョセフ・ユン駐韓大使代理の後任に任命されたことまでもトランプ・金正恩会談に結びつけて報道した。

扇動に巻き込まれた米日メデイア

 韓国メディアの憶測報道に米日メディアも追随した。それは、金正恩が9月21日の最高人民会議での演説で、「私は今も、個人的にはトランプ大統領に良い思い出を持っている」と述べ、「もし、米国が荒唐無稽な非核化執念を取り払い、現実を認定した上で我々との真の平和共存を願うならば米国と対座できない理由はない」と発言したことや、トランプの「金正恩との対話は100%開かれている」との発言をきっかけに強まり、米朝が水面下で調整しているかの如き報道まで出てきた。

 この状況に油を注いだのが10月18日の米CNNの報道だった。CNNは「米政府当局者はトランプ大統領のアジア歴訪の際に金正恩との会談を実現させる可能性について非公式に協議している」と伝えた。

日本のメディアはこの報道に飛びついた。朝日新聞は、10月20日に「トランプ氏の訪韓中、板門店の見学中断 米朝首脳会談の場合に備えか」との見出しで、「韓国と北朝鮮を隔てる軍事境界線上にある板門店で韓国の統一省が実施してきた見学プログラムについて、同省は20日、トランプ米大統領が韓国訪問を予定する今月末から一時的に中断すると発表した。トランプ氏と北朝鮮の金正恩総書記が板門店で会談する可能性に備えた措置とみられる」と報じた。 

文春オンラインは、10月22日、韓国ジャーナリスト朴承珉氏の記事を紹介し、「10月末に韓国・慶州で開かれるアジア太平洋経済協力(APEC)首脳会議に参加するとされる米トランプ大統領。その際、北朝鮮の金正恩総書記と会合することが確実視されているようだ」と報じた。朴承珉氏は、「金正恩氏は、『今度は板門店の南側には渡らない』と話しているようだ。金正恩氏自ら「敵対的な二つの国家」とした南側、韓国側の領土には踏み入らないと読み取れる」としながら「北朝鮮の内部事情に詳しい消息筋によると、北朝鮮側は金正恩氏とトランプ氏との会合を、韓国と北朝鮮の軍事境界線がある板門店(パンムンジョム)の、北側地域で行うことを希望している」「米朝は3カ月前から、第3国のシンガポールとマレーシアで事前に接触している」などとまことしやかに伝えた。

米政府高官の否定発言後も憶測情報流し続けた鄭東泳

 しかし、こうした一連の記事を意識してか、米政府高官は24日、「金正恩総書記との首脳会談については、アジア訪問中の開催予定はない」と明らかにした。ホワイトハウスの警護チームも2度韓国を訪れたが、板門店は下見しなかった。

それにもかかわらず、鄭東泳は10月24日、今月末の慶州(キョンジュ)アジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議を契機に、トランプ大統領が北朝鮮の金正恩国務委員長と会う可能性があるとし、「この機会を逃すべきではない。決断しなければいけない」とプロパガンダ発言を続けた。呆れたことにその根拠として、北朝鮮側が板門店一帯で美化作業を始めていることを上げた。

 今回の一連の事態は、統一部長官が先頭に立って「怪しげな情報」を流す韓国李在明政権には、慎重な報道姿勢がいかに必要なのかを改めて認識させるものであったといえる。

 

トップ写真)トランプ大統領、韓国の李在明大統領主催の夕食会に出席

韓国・慶州 2025年10月29日

出典)Andrew Harnik/Getty Images

 




この記事を書いた人
朴斗鎮コリア国際研究所 所長

1941年大阪市生まれ。1966年朝鮮大学校政治経済学部卒業。朝鮮問題研究所所員を経て1968年より1975年まで朝鮮大学校政治経済学部教員。その後(株)ソフトバンクを経て、経営コンサルタントとなり、2006年から現職。デイリーNK顧問。朝鮮半島問題、在日朝鮮人問題を研究。テレビ、新聞、雑誌で言論活動。著書に『揺れる北朝鮮 金正恩のゆくえ』(花伝社)、「金正恩ー恐怖と不条理の統治構造ー」(新潮社)など。

朴斗鎮

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