李在明独裁に警告を発した李洛淵元総理の演説全文(上)

【まとめ】
・李在明政権は「非常戒厳」騒動を口実に、立法や大統領指示を通じ、法治主義と表現の自由を抑圧し、民主主義を体系的に破壊している。
・民主主義の根幹である司法権の独立が崩壊の危機にあり、検察廃止や法院解体が進められ、司法権まで掌握する「独裁」体制に移行しようとしている。
・李大統領の12の犯罪嫌疑に関する裁判停止や控訴放棄など、個人の司法リスクが国家リスクに代わり、表現の自由への抑圧は世界から注目され、全体主義化が警告されている。
韓国に李在明政権が登場して約半年が過ぎた。その間、李在明大統領は、昨年12月3日の尹錫悦元大統領による戒厳令発布騒動を「反乱」と規定し、その結論に合わせた立法措置を講じ、去る6月に3つの特別検察法(「内乱特検法」「金建希特検法」「殉職海兵隊員特検法」を立ち上げた。最大120人もの検事を投入しての捜査を行う一方、「司法改革」を口実に大法院院長と裁判所に圧力を加え、尹元大統領を反乱の首謀者に作り上げる「内乱裁判」を進めると同時に、自身への判決と裁判を無効化させる立法措置まで行った。その目的は、李在明独裁を確立するための韓国保守勢力の壊滅と中国・北朝鮮との連携強化にあると見られている。
こうした、李在明大統領の独裁体制への動きに危機感を募らせ、反李在明闘争を繰り広げているのは保守勢力だけではない。金大中元大統領の流れをくむ伝統的左派勢力の代表的人物である文在寅政権時代の総理・李洛淵(イ・ナギョン)氏まで立ち上がっている。
以下では、12月11日に韓国ソウルのプレスセンターで行われた「社団法人国家課題研究院」年例シンポジウムでの李洛淵(イ・ナギョン)元総理講演全文を上・下2回に分けて紹介する。講演は「危機の民主主義;現象と代案」との題目で、いま韓国を襲っている民主主義の危機、経済危機、対外関係の危機についての内容で行われた。
「危機の民主主義;現象と代案」一度に押し寄せた国家体制の危機
講演 李洛淵元総理
昨年12月3日、まともではない戒厳令が宣布されて1年が過ぎました。
その非常戒厳を内乱と規定し精算を決意した勢力が執権してから6ケ月が過ぎました。
非常戒厳はわずか6時間で終わりました。しかしそれは今も生き続け、韓国政治を支配しています。不幸にも非常戒厳は、民主主義を正しく立て直す教訓ではなく、民主主義を破壊する口実に使われています。
非常戒厳で生まれた李在明政権は、非常戒厳で破壊された民主主義を速やかに回復し、民主主義をより強固に発展させなければなりませんでした。しかし彼らは法治主義を破壊し表現の自由を抑圧するなど民主主義を体系的に破壊しています。戒厳を審判するとした人々が、戒厳下で可能なことを立法と大統領指示を通じて強行しています。
経済ではウォン・ドルレートが2008年の世界金融危機以来最高記録(ウォン安記録)を更新し、国民を崖っぷちの貧困に追い詰めています。
対外関係でも、李在明政府の路線と態度に対する米国など欧米諸国の疑心が韓国を押しつぶしています。
韓国はそのような3大危機に直面しています。
まずは、民主主義の危機です。
民主主義の基礎である法治主義とその前提である司法権の独立が崩れています。彼らは検察を廃止して権力に従順だった警察に強大な権力を与えました。それとともに大法官を増員し、法院人事に対する外部関与の道を開き、事実上の4審制を導入するなど、法院解体を進めています。裁判部の構成と事件割当に外部勢力が介入する内乱専担裁判部の設置、判事も憲法と法律と良心以外に政治権力にへつらわせる法歪曲罪新設も押し付けようとしています。彼らが違憲最小化を語るのは、たいがいの違憲は大丈夫だとする認識を露呈したものです。
民主主義の核心的前提として憲法が保証する3権分立と司法権の独立が、このように歴史の裏通りに追いやられようとしています。立法権と行政権に続き司法権まで一人が掌握する体制を我々は独裁と学びました。いま我々はその分水嶺を踏み越えようとしています。
李在明大統領の12の犯罪嫌疑を扱う5つの裁判は、すべて停止されました。大庄洞控訴放棄は、金マンベ徒党に犯罪収益の6%にもならない473億ウォン以下の追徴を求めることにすることで、94%以上を犯罪者の財布に入れてやりました。大庄洞控訴放棄は、李在明大統領の対北朝鮮送金嫌疑に対する検察の控訴取り下げも可能であることを予告しています。すでに李大統領は、李華泳元京畿道平和副知事の対北朝鮮送金裁判を受け持つ検事たちを監査せよと指示しました。検察は、すでに有罪宣告を受けた対北朝鮮送金関連者たちを強制捜査しようとしていましたが、拘束令状が棄却されるという事態を迎えました。
権力が、廃業直前の検察を通じて何を作りだそうとしているのか、推察するのは難しくありません。それと並行して執権与党は、背任罪など李大統領関連罪目を法律から削除しようとしています。このような前代未聞の尺度には、李大統領の12の犯罪行為を無罪などですべて消し去る意図が潜んでいることは、その誰も否定しません。大韓民国を無法天地(法秩序がないところ)の国に作ろうとしているのかと彼らに問いたださざるを得ません。
憂慮していた通り、個人の司法リスクが国家リスクに代わってしまいました。
最近は、表現の自由に対する李在明政府の抑圧が、世界から注目を受けています。米国の進歩的権威新聞ワシントン・ポストは、表現の自由を脅かす李大統領の11月11日の国務会議発言を批判しながら、韓国が全体主義に向かってはならないと11月14日の社説を通じて警告しました。
世界的新聞が韓国の民主主義危機を警告したことは、朴正煕、全斗煥以後初めてのことです。それに先立ってドナルド・トランプ米国大統領は、8月25日、韓米首脳会談のわずか4時間前に、韓国での粛清または革命を言及しながら、韓国民主主義に対する疑心を表明しました。そうした警告にもかかわらず、李在明政権は国家公務員75万名全員の携帯電話と個人パソコンを、令状も取らずほじくり返しました。それは憲法が保障した私生活の自由、通信秘密の保護、表現の自由、思想の自由の侵害です。そのように憲法を攻撃する機構の名前が憲法尊重タスクフォースであることは、この時代の大韓民国の「笑うに笑えない」自画像です。ワシントン・ポストが韓国の全体主義化を警告したのを公然たる干渉と見ることはできません。
(日本語訳:朴斗鎮)
―(下)経済危機、対外関係の危機に続く―
トップ写真)大統領選挙候補者選考の最終レースで演説する民主党の李洛淵(イ・ナギョン)前首相 2021年10月10日 韓国・ソウル
出典)Photo by Kim Hong-Ji – Pool/Getty Images
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この記事を書いた人
朴斗鎮コリア国際研究所 所長
1941年大阪市生まれ。1966年朝鮮大学校政治経済学部卒業。朝鮮問題研究所所員を経て1968年より1975年まで朝鮮大学校政治経済学部教員。その後(株)ソフトバンクを経て、経営コンサルタントとなり、2006年から現職。デイリーNK顧問。朝鮮半島問題、在日朝鮮人問題を研究。テレビ、新聞、雑誌で言論活動。著書に『揺れる北朝鮮 金正恩のゆくえ』(花伝社)、「金正恩ー恐怖と不条理の統

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