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.国際  投稿日:2025/10/7

トランプの「日帰り訪韓」報道で李在明政権ショック


朴斗鎮(コリア国際研究所所長)

【まとめ】

・金正恩総書記は921日の最高人民会議演説でトランプ大統領との関係改善に含みを持たせた。

・韓国の李在明政権は、10月のAPEC首脳会議で「米朝首脳会談」が実現するとの期待を広めたが、状況判断は過去の事例に基づく憶測にすぎない。

・トランプ大統領の訪韓は1日のみとなる見通しで「板門店での再会談」実現の可能性は低い。

 

金正恩総書記は9月21日の最高人民会議演説で、トランプ氏の就任後初めて「私は今も、個人的にはトランプ大統領に良い思い出を持っている」と述べ、「もし、米国が荒唐無稽な非核化執念を取り払い、現実を認定した上で我々との真の平和共存を願うならば米国と対座できない理由はない」と述べた。ホワイトハウス関係者も同月30日(現地時間)、トランプ大統領が金正恩総書記と「前提条件を付けず対話を行う用意がある」ことを明らかにした。こうしたやり取りがあったために李在明政権は、10月のAPEC首脳会議で「米朝首脳会談」があるかもしれないとの情報を流し続けた

 

 

「米朝首脳会談」実現を喧伝する李在明政権

 

韓国政府と政界の一部は、10月31日から11月1日までの韓国慶州で開かれるAPEC首脳会議にトランプ大統領が出席すれば、その時を利用して、2019年の時と同じように板門店で電撃的な「トランプ・金正恩会談」があるかもしれない?との願望的期待感を膨らませ喧伝している。

 

この期待感の背景には、金正恩が中国の「抗日戦争勝利80年」記念行事に出席し、習近平主席と会談したことを、過去2018年の米朝シンガポール首脳会談前の金正恩訪中に重ね合わせた判断がある。  

*1次訪中 2018年3月25-28日、その後4月27日に南北首脳会談

 2次訪中 2018年5月7-8日、その後5月26日統一閣南北首脳会談

 6月12日シンガポール米朝首脳会談

 3次訪中 2018年6月19-20日

 4次訪中 2019年1月7-10日その後2月28日ハノイ米朝首脳会談

 

しかしその間、世界と朝鮮半島情勢は大きく変化した。それなのに李在明政権は、7年前の状況に機械的に当てはめ、米朝首脳会談前の準備だったのではないか、との「憶測」を深め、あたかもそれが実現可能なごとき「情報」を流し続けた。 

 

 

「2019年アゲイン」は赤信号

 

だが最近、トランプ米大統領の韓国訪問が10月29日の1日だけ(12時間滞在)との情報が出てきた。27日に日本を訪問し28日に日本の新首相(多分高市早苗氏)と日米首脳会談を行い、29日に韓国を訪問してその日のうちに韓国を離れる日程が調整されているとの情報だ。

 

27日から慶尚北道慶州(キョンサンプクト・キョンジュ)で開催されるアジア太平洋経済協力会議(APEC)は、31日と翌11月1日に首脳会議が開かれる予定だが、「1日訪韓」だと、トランプ大統領は、慶州滞在中(29日)に習近平主席とだけ会談を行い韓国を離れることになる。APEC首脳会議をパスするということだ。

*トランプ大統領は1期目の2018年にもパプアニューギニアで開かれたAPEC首脳会議に出席しなかった。

 

 そうなれば、李在明大統領との首脳会談も持たれなくなる可能性が高いばかりか、韓国政府が盛んに流した「2019年6月アゲイン(板門店でのトランプ・金正恩会合)もないことになる。

このトランプ大統領の訪韓日程短縮について、一部では韓米間の関税交渉の膠着とトランプ氏を欺瞞した李在明への嫌悪感が影響しているのではないかとの観測がある。

 

しかし、韓国政府関係者は10月3日、「(トランプ氏の)日程に余裕がなく、北朝鮮も『非核化の対話はない』と壁を高くしているため、現時点では米朝首脳対話の実現を期待するのは難しい状況だ」としながらも、「2019年6月、日本での主要20カ国・地域首脳会議(G20サミット)の後、トランプ氏が突然訪韓し板門店会談が行われた前例があるため、可能性が完全に消えたわけではない」と、未練たらしい発言を行った。トランプ氏特有の突発的な判断で劇的な会談が実現する可能性は依然として否定できないとの趣旨だが、今のところ韓国政府の「願望」は「失望」で終わるとの見方が強い。

 

トップ写真:トランプ大統領、ホワイトハウスで韓国の李在明大統領と会談 ワシントンDC・アメリカ 2025年8月25日

出典:Photo by Chip Somodevilla/Getty Images




この記事を書いた人
朴斗鎮コリア国際研究所 所長

1941年大阪市生まれ。1966年朝鮮大学校政治経済学部卒業。朝鮮問題研究所所員を経て1968年より1975年まで朝鮮大学校政治経済学部教員。その後(株)ソフトバンクを経て、経営コンサルタントとなり、2006年から現職。デイリーNK顧問。朝鮮半島問題、在日朝鮮人問題を研究。テレビ、新聞、雑誌で言論活動。著書に『揺れる北朝鮮 金正恩のゆくえ』(花伝社)、「金正恩ー恐怖と不条理の統治構造ー」(新潮社)など。

朴斗鎮

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