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.国際  投稿日:2026/7/24

対中スワップ協定への対応どうする?-親米アルゼンチン


 

執筆者:山崎真二(元時事通信社外信部長) 

【本稿のポイント】

・アルゼンチンのミレイ政権は親米路線をひた走っている。

・一方、中国との関係も断絶しないことで、米国は不満を抱いている。

・中国とのスワップ協定交渉にミレイ大統領がどのような判断を下すかが注目。

 

アルゼンチンのミレイ大統領は「アルゼンチンのトランプ」と称されるほど親米路線を鮮明にし、対ベネズエラ軍事介入や対イラン軍事攻撃、「米州の盾」サミットにも支持を表明してきた。一方、貿易相手国第2位・鉱業分野インフラ投資など経済的結びつきから中国との関係も断ち切れず、米国が不満を抱いている。本稿では、2026年8月6日に期限を迎える約190億ドルの中国人民銀行との通貨スワップ協定交渉に関するミレイ大統領の判断について、元時事通信社外信部長の山崎氏が読み解く。(Japan In-depth編集部) 

 

■米の後押しで国内改革推進

 2023年末政権の座に就いたミレイ大統領が親米路線を鮮明にしていることは良く知られている。「アルゼンチンのトランプ」との異名をとるほどだ。同大統領は昨年1月のトランプ米大統領2期目の就任式に自ら出席したほか、たびたび訪米。今年1月の米国の対ベネズエラ軍事介入や2月の米国とイスラエルによるイランへの軍事攻撃にも支持表明した。トランプ大統領が3月、中南米の麻薬犯罪対策のため開催した「米州の盾」サミットにもミレイ大統領が自ら足を運んだ。ミレイ政権は米国との重要鉱物に関する協定や相互貿易投資協定にも調印している。トランプ政権もアルゼンチンへの全面的支援の姿勢を示す。昨年のアルゼンチン中間選挙ではミレイ大統領支持を公にし、これが同大統領の与党勝利につながったとの見方が有力。ミレイ大統領は米国の支援をバックに財政健全化や規制緩和などの「ショック療法」的改革を積極的に進め一定の成果を上げている。

 

■対中関係も維持

 ミレイ政権は親米路線をひた走る一方、中国との関係では表向き強硬な態度を示してきた。とはいえ、ミレイ政権は中国との関係を完全に断ち切る様子はない。中国との経済的結び付きを無視できないからだ。中国はアルゼンチンにとってブラジルに次ぐ第2の貿易相手国である。鉱業分野を中心とするインフレ分野への中国の投資もアルゼンチンにとっては無視できない。アルゼンチンは2022年、フェルナンデス前政権が中国の巨大経済圏構想「一帯一路」への参加を表明した。もし、ミレイ政権が対中関係を断絶をしようとするなら、同構想への参加取りやめを決定するだろうが、いまのところそうした動きはない。昨年5月、北京で開催されたラテンアメリカ・カリブ諸国共同体(CELAC)と中国との第4回閣僚級会合にもミレイ政権は代表団を送っている。また、アルゼンチン南部に建設された中国の宇宙観測基地は人民解放軍の関与が疑われ、内外から問題視されているがミレイ大統領が中国側に文句をつけたとの情報はない。

 

■スワップ協定は破棄すべき-米財務長官

 親米姿勢を見せながらも、中国との関係を続けるミレイ政権に対しトランプ政権が不満を抱いていることは想像に難くない。「国家安全保障戦略」で西半球重視方針を打ち出したトランプ政権は「強固で安定したアルゼンチンが米国の戦略的利益にかなう」(ホワイトハウス報道官)としており、アルゼンチンと中国の関係にくさびを打ち込もうとしていると伝えられる。こうした中、アルゼンチンと中国の間で約190億ドルの通貨スワップ協定をめぐる交渉が行われている。アルゼンチン中央銀行と中国人民銀行は2009年に最初のスワップ協定を結び、その後、延長・更新が何度か行われてきた。アルゼンチンは同協定を利用して中国からの輸入決済に人民元を使うなど事実上の外貨調達手段として活用したこともある。しかし、ベッセント米財務長官はこの協定について「中国の略奪的手法」と批判し、廃棄すべきだと主張する。ミレイ氏が大統領に就任した直後の2023年末、中国は大統領の反中発言に猛反発し、スワップ協定の中断を発表したこともある。現協定は8月6日に期限を迎える。アルゼンチンの主要メディアの間では協定を廃棄せずに内容を修正するにとどめ、対中関係を継続すべきだとの意見が多い。ミレイ大統領がどう判断するのか、今後のアルゼンチンの対中外交の行方を占うことになりそうだ。(了)

 

よくある質問(FAQ)

Q1. アルゼンチン・ミレイ大統領とはどんな人物か?
 A. ハビエル・ミレイ(Javier Milei)氏。1970年生まれの経済学者出身の政治家で、極端な自由主義政策と「アナルコキャピタリスト」を自認する政治スタイルで知られる。「アルゼンチンのトランプ」と称される親米路線を掲げ、2023年11月の大統領選挙で決選投票を制し、2023年12月10日に大統領に就任。財政健全化・規制緩和などの「ショック療法」的改革を推進している。

Q2. 「一帯一路」構想とは何か?
 A. 中国が2013年に習近平国家主席が提唱した経済圏構想で、正式名称は「シルクロード経済ベルトと21世紀海上シルクロード」。アジア・ヨーロッパ・アフリカ・中南米などを結ぶ広域経済圏で、インフラ投資・貿易促進を通じて中国の経済的影響力を拡大する狙いを持つ。アルゼンチンは2022年2月、フェルナンデス前政権時代に参加を表明した。

Q3. 「米州の盾(Shield of the Americas)」サミットとは何か?
 A. 2026年3月7日、トランプ大統領がフロリダ州ドラルで開催した中南米・カリブ諸国12カ国と米国の首脳会議。麻薬カルテル・国境を越えた犯罪組織への対処を目的とする軍事・政治連合「米州対カルテル連合(Americas Counter Cartel Coalition)」を発足させた。参加国は米国、アルゼンチン、ボリビア、チリ、コスタリカ、ドミニカ共和国、エクアドル、エルサルバドル、ガイアナ、ホンジュラス、パナマ、パラグアイ、トリニダードトバゴの13カ国。ミレイ大統領も出席した。

Q4. 通貨スワップ協定(通貨スワップ)とは何か?
 A. 二国間の中央銀行同士が、必要な際に自国通貨を相手国通貨と一定額まで交換できる契約。輸入決済や外貨準備の補完手段として利用される。アルゼンチン中央銀行(BCRA)と中国人民銀行(PBOC)のスワップ協定は2009年7月に初締結、その後複数回にわたり延長・拡大された。現行協定額は約190億ドル(1,300億元相当)で、アルゼンチンにとって重要な外貨調達手段の一つとなっている。

Q5. ベッセント米財務長官とはどんな人物か?
 A. スコット・ベッセント(Scott Bessent)氏。1962年生まれの投資家・ヘッジファンドマネージャー出身。ジョージ・ソロス氏のもとで運用担当を務めた経歴を持つ元Key Square Group創業者。2025年1月にトランプ政権2期目の米財務長官に就任。中南米での中国影響力抑制を主導し、アルゼンチン支援政策では「ミレイ大統領は中国をアルゼンチンから排除することにコミットしている」と発言するなど、対中強硬姿勢を鮮明にしている。

(本稿リード、FAQの文責:Japan In-depth編集部)

 

トップ写真:アルゼンチンのハビエル・ミレイ大統領(左)とドナルド・トランプ米大統領ーアメリカ大陸の盾サミットにて フロリダ州ドーラル – 2026年3月7日:

出典:Roberto Schmidt/Getty Images

 




この記事を書いた人
山崎真二時事通信社元外信部長

 

南米特派員(ペルー駐在)、ニューデリー特派員、ニューヨーク支局長などを歴任。2008年2月から2017年3月まで山形大教授、現在は山形大客員教授。

山崎真二

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