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.国際  投稿日:2023/6/23

キューバにスパイ施設建設説で再浮上する中国の脅威


山崎真二(時事通信社元外信部長)

【まとめ】

・中国がキューバで通信傍受施設建設を計画中との報道の背景には両国関係の急進展あり。

・米・キューバ関係改善が進まないことも中国の進出を促す要因に。

・中国は他の中南米諸国でも軍事・安保のつながりを強めようとしている。

 

■旧ソ連崩壊後、中国の対キューバ関係緊密化

米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)が先ごろ、中国とキューバ両政府が通信傍受拠点をキューバに設置することで原則合意したと伝え、衝撃的ニュースとして各国に広まった。キューバは「事実無根」のフェイクニュースと反発しているが、中国とキューバの近年の蜜月ぶりを振り返ると、WSJの報道を「誤報」などと片付けるわけにいかない。

中国がキューバと国交を樹立したのは1960年で、キューバ革命のわずか1年後と比較的早かった。しかし、冷戦時代はいわゆる「中ソ論争」でキューバが旧ソ連に与したこともあり、中国との関係は総じて疎遠だったと言える。中国が積極的にキューバに接近するのは1991年の旧ソ連崩壊後からだ。1993年と2001年に故江沢民国家主席、2008年に胡錦濤前国家主席、2014年習近平国家主席がそれぞれハバナを訪問した。

この間、投資保証協定はじめ各種の協定が結ばれ、中国からの投資や両国間の貿易が急拡大。とりわけ、2018年キューバが「一帯一路」協力覚書に調印し、事実上参加が決まると、インフラ、通信、エネルギー、農業、観光など多くの分野で中国の進出が本格化する。昨年11月にはディアスカネル・キューバ大統領が訪中し、習近平主席と会談、両国関係は新たな段階へ発展した形だ。

■ 米・キューバ関係遅延も中国に有利に

この両国関係進展の背景には、経済低迷が続くキューバにとって中国の援助が必要だったという面もある。もちろん、米国とキューバの関係が一進一退の格好で大幅改善には至っていないという事情も絡んでいる。周知の通り、米国はオバマ政権時代の2015年、約半世紀ぶりにキューバとの外交関係を再開、関係進展への道が開かれた。

ところが、トランプ前政権が強硬路線に転じたため、関係は再び険悪化。バイデン政権はいわゆるスイング・ステートであるフロリダ州でキューバ共産主義体制に反対するキューバ系米国人の動向に配慮せざるを得ないことなどもあって、政策見直しになかなか踏み切れず、ようやく昨年5月、キューバへの渡航や送金規制の緩和など関係改善策を打ち出した。キューバは「正しい方向への小さな一歩」(ロドリゲス同国外相)と一定の評価を下す一方、1962年以来の禁輸措置を変えるものではない」と厳しく批判している。米・キューバ関係の遅延が中国の進出を許したとも言えるだろう。

■ 経済分野から軍事面にも進出-中国

中国の影響力増大が目立つのは中南米地域ではキューバだけでない。中南米カリブ33カ国のうち、現在、中国の「一帯一路」構想に参加ないし、参加表明している国は21カ国にも上り、その大半の国で投資・貿易やインフラ分野などで中国との結び付きが強まっている。

ブラジルは「一帯一路」に参加していないが、いまや最大の貿易相手国は中国だ。米国が最も警戒を強めているのは、中国が中南米諸国の経済分野だけでなく、軍事・安全保障面にも浸透を図っていること。WSJは、中国がキューバに軍事訓練施設を建設するための交渉を行っているとも報じている。中国はアルゼンチン南部パタゴニア地方に「宇宙探査研究センター」を建設、同センターは2018年から稼働を開始。米国の軍事専門家からは「他国の衛星通信の傍受や衛星の動き妨害のため軍事利用される恐れがある」と懸念の声が上がる。

ブラジルとベネズエラにも、軍事利用可能とみられる中国の地上局が設置されている。中国がベネズエラの反米左派政権に大量の兵器を供給しているほか、ペルー、ボリビア、エクアドルにも軍用機や軍事車両などを輸出していることは中南米ではよく知られている事実。中南米・カリブ地域を担当する米南方軍のリチャードソン司令官は度々、同地域での中国の活動が米国の安全保障にとって脅威になっていると述べているが、この警告がますます現実味を帯びてきたようだ。

(了)

トップ写真:中国の王毅外相とキューバのブルーノ・ロドリゲス外相(当時)2019年5月29日 中国・北京 釣魚台国賓館 出典:Photo by Florence Lo – Pool/Getty Images




この記事を書いた人
山崎真二時事通信社元外信部長

 

南米特派員(ペルー駐在)、ニューデリー特派員、ニューヨーク支局長などを歴任。2008年2月から2017年3月まで山形大教授、現在は山形大客員教授。

山崎真二

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