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.国際  投稿日:2021/9/29

“ピンクの波”復活か 中南米左翼再結束へ


山崎真二(時事通信社元外信部長)

【まとめ】

・中南米各国で左翼政権が発足したり、左翼勢力が勢いを増している。

ラテンアメリカ・カリブ諸国共同体はかつて同地域に広がった「ピンクの波」の再現を想起させる。

・中国はCELACを通じ、中南米への投資・融資拡大を図り、同地域での影響力を維持・拡大しようとしている

 

■チリ、コロンビアでも左翼勢力が伸長 

中南米主要国でこのところ、左翼勢力の台頭が目立ってきた。ペルーで7月末、急進左派のカスティジョ政権が発足、貧困削減と社会福祉に重点を置く経済政策推進を表明、新自由主義からの転換を図る新たな憲法の制定を目指す。隣国チリでも、左派優勢の制憲議会で経済格差の解消を目標に新憲法の起草が行われている。11月には大統領選が実施されるが、世論調査では左派や中道左派候補の支持率が伸びている。

コロンビアの親米右派ドュケ政権は今春以降、税制改革やコロナウイルス対策、経済格差に抗議する大規模な反政府デモに揺さぶられており、来年5月に予定される大統領選に向け左派が勢いを増している。ボリビアでは昨年、一足先に左派政権が発足した。同政権を率いるアルセ大統領は、2019年まで14年間ボリビアの実権を掌握したモラレス前大統領の下で長らく経済・財政相を務めた人物。モラレス氏は南米のカリスマ的左翼政治家の一人である。一方、アルゼンチンのフェルナンデス中道左派政権は最近、左翼色を一層濃くする傾向にある。

■4年半ぶりにCELAC首脳会議開催                                              

こうした中、注目されるのは、左翼政権を中心に中南米各国の連帯と結束を強化しようとする動きが再び始まる兆候があることだ。9月18日、メキシコシティでCELACの第6回首脳会議が開催された。CELACは、南北アメリカ、中米およびカリブ海の33カ国で構成される地域協力組織だ。米国とカナダが除外されているのが大きな特徴。

2011年、反米左翼のシンボル的存在だったベネズエラのチャベス大統領の強いイニシアチブで設立された。当時の中南米は資源ブームを背景に各国で左翼政権が支持を拡大、ポピュリズム(大衆迎合主義)に沿った社会主義的政策を相次いで実施し、新たな地域連帯の動きが表面化した。こうした政治のうねりは「ピンクの波」と呼ばれ、反米、反新自由主義、反グローバル化の動きと軌を一にしたものだ。

前述のボリビアのモラレス左翼政権もこの潮流の中で誕生している。しかし「ピンクの波」は2014年ごろの資源ブーム終焉とほぼ時を同じくして退潮したという経緯がある。今回メキシコの呼びかけで、4年半ぶりに開催されたCELAC首脳会議には、キューバのディアスカネル大統領、ベネズエラのマドゥロ大統領ら域内約20カ国の首脳が出席した。中南米の専門家の間では「域内各国首脳が地域の協力と結束のため一堂に会するのはかつての『ピンクの波』のうねりが再び起きる前触れ」(米有力シンクタンクのメキシコ研究者)との見方が出ている。

メキシコのオブラドール大統領は「中南米とカリブ諸国は欧州連合(EU)のような共同体を目指すべきだ」と訴えた。米州の地域協力機関としては米国主導の米州機構(OAS)が存在するが、米国の強い影響力の下にあることに反発や警戒感を抱く国も多く、オブラドール大統領の発言はこのような中南米諸国の空気を反映したものといえる。同首脳会議は、米国の対キューバ経済封鎖解除を求める声明を採択し、新型コロナや気候変動などに関する域内協力で合意した。会議では、ウルグアイ右派政権のポウ大統領がベネズエラやキューバで民主主義が確立されていないと批判したものの、開催国メキシコのオブラドール大統領ら左翼政権首脳の発言が専ら、クローズアップされる格好になった。

■中国が中南米・カリブを積極支援                

今度のCELAC首脳会議で中南米専門家の強い関心を引いたのは、中国の習近平国家主席がビデオ・メッセージを送り、CELACとの関係強化を呼びかけたこと。習近平主席はCELACが中南米地域の平和と安定、発展の上で重要な役割を果たしてきたと指摘するとともに、中国としてCELACとの関係をさら発展させることの重要性を強調した。

意外に知られていないが、中国はCELAC発足当初から、この地域協力組織に関与している。2015年には習近平主席の提唱で北京で第1回中国・CELAC閣僚会議が開催され、中南米・カリブ地域の貿易、投資、インフラ建設などで中国が積極的に協力する方針が示された。

▲写真 第1回CELAC-中国閣僚会議(2015年1月8日 中国・北京) 出典:Photo by Rolex Dela Pena-Pool/Getty Images

第2回閣僚会議は2018年にチリの首都サンティアゴで開かれ、「『一帯一路構想』と中南米発展戦略の連携がうたわれた」(中国外交当局者)とされている。メキシコのメディアが同国外務省高官の話として伝えるところによれば、中国は中南米での影響力を維持、拡大する上でCELACを重視しており、習近平主席のメッセージはその表れだという。CELACを通じ中国が中南米との関係をさらに強めていくなら、「ピンクの波」の再現を促すことになるかもしれない。

トップ写真:国連総会で演説するペルー大統領ペドロ・カスティジョ大統領(2021年9月21日 ニューヨーク) 出典:Photo by Mary Altaffer – Pool/Getty Images




この記事を書いた人
山崎真二時事通信社元外信部長

 

南米特派員(ペルー駐在)、ニューデリー特派員、ニューヨーク支局長などを歴任。2008年2月から2017年3月まで山形大教授、現在は山形大客員教授。

山崎真二

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