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.国際  投稿日:2015/1/13

[久保田弘信]【イラク戦争はこうして始まった】~戦争カメラマンは見た。イラクの真実 その1~


久保田弘信(フォトジャーナリスト)

執筆記事プロフィール

 

2003年3月20日に始まったイラク戦争。十数年を経た現在のイラク全土に広がる治安の悪化と混乱はこの時始まった3月19日ブッシュ大統領が突きつけた48時間のリミットが迫りバグダッドは緊張につつまれていた。

戦争を回避するのは不可能と判断した世界中から集まった人間の盾の人達がバグダッドから退避した。日本の大手マスコミ、テレビ局、新聞社、通信社のスタッフも一斉にバグダッドから退避し、バグダッドに残ったのはフリージャーナリストだけとなった。

20日午前0時が過ぎても空爆は始まらず、空がうっすらと明るくなり始める午前5時過ぎに突然空爆が始まった。かつて湾岸戦争を経験しているイラクの人達は「ミサイルなんてそんなに当たらないよ」と戦争に対する危機感がないのに驚いた。

そこにはまるで花火を見るように空爆を眺めるイラク人がいた。「あなたたちには緊張感というものがないんですか」との問いに「日本人か、イラクへようこそ」と訳の分からない答えが返って来た。

このシーンも撮影していて、動画があるが日本のテレビで日の目を見る事はなかった。日本のテレビで使われたのは空爆の激しさを感じさせる映像ばかりだった。

3月21日、7時間以上に及ぶ熾烈な空爆が続き、イラク人も今回の戦争は湾岸戦争とは違うと認識し始めた。3キロ4キロ先から爆風が届く。ピンポイント爆撃とはいうものの、どれ程多くの一般人が犠牲になったかと想像する。

僕が泊まっていたホテルには地下シェルターがあったが、22日になり大量の女性と子供が避難してきた。殆どの商店が閉鎖され、バグダッドはゴーストタウンのようになった。僕がイラク戦争を連日レポートしているTBSと電話がつながっていた。

150112kubota01

TBSの局員がイラクを攻撃する洋上艦に同乗している。今、B52の大編隊がバグダッドに向かったから1~2時間後には空爆が始まると思います。

そんな言葉を聞いても逃げる場所などない。

知っていて待つ時間の恐怖は言葉で言い表せないものだ。同じ日本のジャーナリストが攻撃する側と攻撃される側にいる。こんなイラク戦争の裏舞台もテレビで報じられる事はなかった。

圧倒的な軍事力の差があったイラク戦争、バグダッドはあっという間に陥落し、イラク戦争は終わったかのように見えた。同年5月、バグダッド市内には戦争があったのが嘘のような活気があった。圧倒的な軍事力の差があったため、通常破壊される橋や鉄道などのインフラを破壊せずにバグダッドを占領できたのが、復興が早かった大きな要因だ。

市内のあちこちに米軍の戦車や走行車両が配置され、子供達が戦車の米兵に「Fuck you」などと言ってからかうシーンが見られた。米軍兵士がイラクのアイスクリーム屋さんを訪れ道端でイラク人と談笑しながらアイスクリームを食べ、占領軍の米兵とイラク人の融和が見られた。そして、イラク人女性と米兵の恋愛、結婚まで見られた。

150112kubota03米兵とイラク人

しかし、僅か数週間後には「No サダム! Noブッシュ!」と言う言葉があちこちで聞かれるようになった「サダムの圧政にはこりごりだが、サダムに変わってブッシュに支配されるなら何も変わらないじゃないか」とイラク人が声を荒げた。この先、イラクは長い混乱期に入って行く。

(続く)

 

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