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国際  投稿日:2015/1/4

[大野元裕]【中東世界不安定化、新フェーズへ】~テロの輸出の可能性も~

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大野元裕(参議院議員)

執筆記事

2010年の「アラブの春」を契機に、中東の多くの国々で民主化を求めるデモが始まった。その内、テュニジア、エジプト、イエメンおよびリビアで元首が交替し、シリアでは内戦状態が継続し、レバノン、リビア、イエメン、エジプト、イラクで、理由こそ異なるものの多かれ少なかれ混乱状態が継続している。

さらにパレスチナでは、イスラエルによる分離帯設置および入植地拡大が、特にガザ地区に極めて深刻な人道状況をもたらしている。また、混乱に乗じて急成長したイスラーム国は、今も深刻な影響を及ぼし続けている。

民主化を求めて発生したとされる「アラブの春」は、テュニジア以外の政権交代が発生した国では、経済的な格差と分配の不平等という根本に横たわる問題が解決されないがために、ハッピーエンドには至っていない。混迷を続ける中東の新たな不安定要因が、以下の通り育まれつつある。

第一に、「石油価格下落」である。高コストの米国の石油生産および財務体質の相対的に脆弱なシェール開発企業に対するサウディによる対抗策とも言われる、油価を昨年一時期の半分程度にまで下落させた。

過去の経験から言えば、油価が下落すると、国民に高福祉、特に政権を支える層に分厚く利益を提供する「レンティア国家」(注1)の安定が脅かされてきた。サウディはまだしも、油価の下落は、中東においてはイラン、エジプトといった産油国予算に厳しい影響を与え、油田について係争のあるスーダンと南スーダンの間の関係にも影響を及ぼすかもしれない。

第二に、「大国の中東の関与」が変わりつつある。オバマ政権の中東世界に対する無関心は、イスラーム国に対する空爆により薄められた感もあるが、新たな大統領が選出されるまで大きく変わる兆候はない。

イランとの関係改善に向けた新たなインセンティヴも見当たらない。相対的な米国の中東における影響力後退の間隙をつきながら、浸透を深める中国の中東傾斜は、国内石油小売価格を統制可能で経済的影響を受けにくいことを背景に、いっそう強まることになるだろう。

その一方で、イスラーム国が跋扈する大きな背景を構成するシリアの混乱で、反体制派に秀でた指導者が見当たらない状況に変化はなく、バッシャール・アル=アサド政権に勝利させないための「支援」が、いたずらに混乱を長引かせている。

このような中、ロシアがシリア政府と反体制派の仲介に乗り出す情報も流れたが、油価下落により税収を大きく後退させ、SWF(注2)を食いつぶす中、政治的にこのような判断に傾くかは疑わしい。

第三に、「中東大衆層の不満」が外に向かう可能性が懸念される。イスラーム国の勢いはそがれたものの、不満の残る層の受け皿となっている状況の長期化および外国人の関与は、イスラーム国支配圏以外の中東を中心とする諸国にテロの輸出を促す可能性がある。さらに、ガザ地区の人々は「失うもののない」状況にまで追い込まれており、彼らの不満がイスラエルに向かう可能性は否定できない。

2015年以降、中東の不安定は、これまでの状況を背景としながらも、新たなフェーズに向かうのかもしれない。
(注1)レンティア国家

国家の財政の大半を原油など天然資源による収入に頼っている国。

(注2)SWF

政府系投資ファンド(ソブリン・ウエルス・ファンド)

 

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大野元裕

大野元裕 参議院議員(埼玉県選出)
元防衛大臣政務官
党「次の内閣」防衛大臣
中東調査会客員研究員

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