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.国際  投稿日:2015/2/13

[久峨喜美子]【ウクライナ情勢、新しい冷戦時代の到来】~日本外交にも影響~


久峨喜美子

「久峨喜美子の英国/欧州に生きる」

執筆記事プロフィール

パリでのテロ事件やイスラム国による日本人ジャーナリスト殺害ですっかり忘れられがちなウクライナ情勢。一見全く異なる国際問題のように見えるが二つの出来事は米露関係を軸に複雑に絡み合っている。

2月2日に国際情勢を専門とした米国のシンクタンクであるアトランティックカウンシル(Atlantic Council)とブルッキングス研究所 (Brookings Institute)がウクライナへの武器供与を示唆する報告書を発表して以来、米露双方でウクライナ情勢収拾に向けて活発な動きを見せている。

2月9日のバラク・オバマ米大統領とアンゲラ・メルケル独首相による記者会見では武器供与に関する直接的な言及は避けられたものの、ホワイトハウス内でも武器供与に賛同する者も多いようだ。米ニューヨークタイムス紙によると、ジョン・ケリー米国務長官、チャック・ヘーゲル米防衛長官、フィリップ・ブリードロブNATO軍最高司令官等も軍事供給指示派に含まれている。こうした状況の中、当初から武器供与に反対していた大統領補佐官までも支持の方向へと傾いているという。

同9日、プーチン露大統領はカイロを訪問。この露・埃(エジプト)による二カ国会談は、両国の外交政策が米国に影響されないことを誇張しているようだ。プーチン大統領訪問に先立ち、先週末カイロ市内には英語表記で ‘Welcome’と書かれたプーチン大統領のポスターが数多く掲げられ、ロシアによるアブドルファッターフ・アッシーシ埃大統領への無条件の支持を讃えている。この山のような英語表記のポスターは、大西洋にいる「誰か」に向けてのあからさまなメッセージとしか言いようがない。

昨年から続くウクライナ情勢の悪化は、「新しい冷戦」(the New Cold War)を引き起こしかねない国際問題と化している。2008年のジョージア問題以降、イランへの制裁やアフガニスタン問題におけるNATOへの物資供給に関して西欧諸国とロシアは合意を得たものの、今回のウクライナ問題は両者の関係を完全な敵対関係へと変えてしまったようだ。

とは言っても「新しい冷戦」は、いくつかの点で明らかに「古い冷戦」とは異なる、とコロンビア大学政治学教授ロバート・ラグヴォルドは指摘している。「古い冷戦」とは異なり、「新しい冷戦」はグローバルシステムを包含し、世界を二分してしまうことはない。世界は以前のように異なる政治主義によって二極化することもなく、中国、インド等はこうした対立から距離をおくことだって可能であろう。しかし、この「新しい冷戦」は国際関係のあらゆる側面に影響を与えかねないのも事実である。

日本も例外ではない。現に日本政府は、ウクライナ問題によってホワイトハウスの焦点がアジアへのコミットメントから欧州の安定へよりシフトするのではないかと懸念を示している。特に中国との外交摩擦を避けるための米国のサポートが得られないとなると、今後の日本の外交政策にも影響を及ぼしかねない。今後も目が離せない問題である。


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