【ホンダイズムへの原点回帰なるか?】~“F1参戦”or“リコール対応”~
田中愼一(フライシュマイン・ヒラード・ジャパン代表取締役社長)
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数百社レベルの海外法人、拠点を抱え、大多数が異文化の社員から成る事業活動を展開する日本のグローバル企業にとって、最大の課題がグローバルレベルでの社内求心力をどう確保するかである。
その確保の成否がグローバル戦略の推進に大きく影響する。組織の求心力を高めるには二つの方法論がある。有事における「危機」と平時における「挑戦」である。
2009年に起こったトヨタのリコール問題はトヨタのグローバル組織の求心力を一挙に高めた。トヨタは「ピンチをチャンスに」の発想で、より強いトヨタを再生した好例である。
そうした中、ホンダがF1に再び参戦することを決めた。これは平時の挑戦である。それによって「組織の求心力を」というトップの狙いが垣間見える。確かに本田宗一郎は、ホンダがまだ町工場のようなレベルの時にF1参戦を決め周りの度肝を抜いた。組織の求心力は否が応でも高まる。
しかしながら、今のホンダは既にグローバル企業、F1参戦と言っても求心力を喚起する程度は当時と比べて高が知れている。一方、ホンダは昨年リコールを連発、アメリカではエアバッグのリコール問題を抱えている。これはクライシスである。
今のホンダにとって、高級スポーツカー新型NSXの開発やF1参戦など平時の「挑戦」よりも、目の前にある今の「危機」に組織全体で取り組む方が遥かに組織の求心力を醸成し、意識改革を促進する。「ピンチをチャンスに」という発想である。平時の挑戦を有事の「挑戦」に切り替えるのである。
コミュニケーションの原理原則では「危機」の方が「挑戦」より人の意識を変える。組織の求心力の醸成、意識改革の推進、ホンダイズムへの原点回帰が急務の今、ホンダはどっちを使うのか。F1参戦で共感醸成か、それともリコール問題で危機意識醸成か。