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.社会  投稿日:2015/4/3

【プレゼンテーション名人になるコツ】~新・社会人へのメッセージ~


文谷数重(軍事専門誌ライター)

 

社会に出ると、スピーチや発表の機会が多い。その中で、不慣れな人は決まって失敗をする。その原因は「アイ・コンタクトの欠如、早口、手クセ・口クセ」の3つである。ただひたすら机の上の原稿を読む、市況ニュースのようにまくし立てる、「まぁこの」を連発するようなスピーチである。これらを無くすためにはどうするべきだろうか?

■ スピーチはすぐに改善する

スピーチは、本人に意識さえさせればすぐに改善する。筆者は05年から08年の正味2年間、海自三術校(柏)で教育技術科の課程主任をしていた。これは教官役の自衛官を養成する教育課程である。その中で、幹部学校での、高級幹部教官も含めスピーチ教育も行った。

最初に自由にスピーチさせ、問題点を意識させてから、スピーチを再実施するものだ。当日の再実施1回目で問題行動は着実に減少し、日をおいた2回めで、6割方の学生で問題はまずは消失し、残りの学生も相当に改善する。つまり、スピーチの問題は、意識すれば比較的簡単に改善するということである。

■ 原稿を作らない

まずスピーチは、観客全員にアイ・コンタクトを取る必要がある。重要性を意識させ、引き込むため、あるいは話者としても理解度の確認に欠かせないためだ。そのために、最初にやるべきは完全原稿を作らないことだ。スピーチは3~5分程度である。話せる項目は3つ程度しかない。それなら名刺裏に3単語で書けば終わるし、覚えてしまう。

仮に資料を読むにしても、読みながら喋ってはいけない。読んで覚えてから、顔を上げて相手に話す。複雑な内容で覚えられないなら、話すだけ無駄なので資料を持ち込むべきではない。

そして、誰か一人に向かって話しかける。誰か適当にターゲットを決めて、一つの項目について10~20秒ほど話す。その後には違う人に同じように1項目話す。

全体を見渡す意味から、まずは観客の四隅を狙う。右奥の観客に話したら、左手前の観客に話し、その後左奥、右前とやる。あとは中央付近で高身長、メガネ、また四隅といった形で適当に、10~20秒ほど話しかければアイ・コンタクトは実現する。アイ・コンタクトに慣れれば、理解につまづいた観客が頭からだす「?」も見えるようになり、フィードバックして再説明を行うことも容易になるだろう。

■ 気象通報程度の速度で

次に、プレゼンテーションをする時には、意図してゆっくりしゃべることだ。

普段の会話は、人によるが毎分500字(音)程度で話している。このスピードは、自分と相手の間で話している話題やコンテクストが明確化されていることが前提である。しかし、1対多で、特に相手が知らないことを示す上では早過ぎる。話題の展開についていけなかったり、同音異義語と勘違いしたりして、誤解が生じる弊害があるためだ。

東日本話者は、母音が消失する傾向にある。「寄宿舎」を「き・しゅ・く・しゃ」ではなく「Kisksha」と一音節で話す。西日本や非日本語話者には通用しがたい。そのためには、毎分240字(音)程度で話すべきである。これは戦場カメラマンの人よりもユックリで、NHKの気象通報程度のスピードとなる。これも意識すれば、相当に落とせる。自分が早口で、母音消失の傾向を理解していれば、発表等では別モードで話せるようになる。

■ 手振りを使う

最後に手振りや無言の活用である。これは手クセ、口クセの内、鼻や耳を触るといった手クセをなくす一番いい方法である。

会話で意味がある手振りをすれば、手クセは減る。「今日、話したいことは3つ」で指3本を示したり、(数値などが)高い低いを説明するときに掌を持ち上げたり下げたりするたぐいである。説得力は上がり、効果も見込める。

「まぁこの」といった、口クセも減らせる。人間は空白を恐れる。このため話の空白を埋めるために「まぁこの」とやる。だが、言葉が出ない時には無理せずに、無言にすることをやってみれば自ずと口クセは減るものだ。

■ 話術が優れていないと話は理解されない

ただし、話す技術と話の中身はリンクしない。優れた話者であっても、話に主張や新発見がなければ無意味である。

もちろん優れた話であっても、話術が劣っていれば相手に理解はされ難い。

だが、初見の人間に、自分の話を聞いてもらいたいときには、内容同様に話術は重要である。そのためには、「アイ・コンタクトの欠如、早口、手クセ・口クセ」を根絶する必要が存在するのである。


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