[岩田太郎] 【日韓国交正常化50周年記念切手デザインは国辱もの?】~冷静な対応が一番~
岩田太郎(在米ジャーナリスト)
「岩田太郎のアメリカどんつき通信」
日本郵便株式会社が6月22日、日韓国交正常化50周年を記念した2種のデザインの82円切手を発行する。その片方のデザインが「国辱的」だとして、一部の郵趣家などから反対の声が上がっており、日韓関係にまたひとつ火種が増えた格好だ。
話題の切手の片方は、韓服姿の韓国人女性と韓国の国花ムクゲの背景を左に、着物姿の日本人女性と日本の国花である桜の背景を右にあしらった縦長のデザインだ。こちらは美しく清楚に仕上がっており、なかなかの出来だ。民族衣装については、国際文化きもの学会の清水都岐子理事長と韓服デザイナー李香順氏の助言と監修も得ており、文化的な間違いはない。
だが、もう片方がムクゲを上、その下の桜を配した縦長の図案であり、こちらが問題視されている。ある切手収集家はブログで、「郵便切手の場合、国家間の上下関係が生じないようにデザイン上でも平等・対等に扱うのがUPU(万国郵便連合)でも大原則です。それなのにさくらの上にムクゲを描くとは一体どういうことですか。国旗だったら大問題になるのですから国花も国旗に準じた扱いをしなくてはいけません。こんな国辱的なデザインは許容できる道理がありません」と憤慨している。
切手に国家の上下関係があってはならないのは理想であるが、1972年5月の沖縄返還前である1967年3月16日に発行予定だった日米琉合同記念植樹祭記念の3セント琉球切手は、日本国旗が米国旗の上位に配されたため、米側の怒りを買って発行中止になった。翻って、1972年4月17日発行の沖縄返還協定批准記念の5セント琉球切手では、白鳩を背景に星条旗が日の丸より大きく描かれ、敗戦後の日本や返還後の沖縄の地位と運命を示すような図柄であった。
今回の国交正常化50周年記念切手については、筆者も最初はムクゲが上に配され、桜が下であることに違和感を覚えた。ただでさえ日韓関係が歴史問題などでギクシャクしている最中に、火に油を注ぐような行為に思えたからだ。この切手は2種のデザインで合計700万枚が発行される予定であり、その影響力は決して小さくない。
この切手の意匠を担当した日本郵便株式会社のベテランデザイナー、中丸ひとみ氏はあるインタビューで、「実は私も、自分がデザインした切手の評判をネットなどで閲覧しています」と述べ、切手購入者や使用者の評判を気にしていることがわかる。
それなのに、日韓関係が緊張している現在、誤解を招くような絵柄にならないよう配慮しなかったのは奇異に思える。さらに、日本郵便株式会社の経営陣の図案チェック力も機能しなかったように見える。
しかし、発行日まで2か月を切った今、デザインのやり直しは無理だし、このまま発行されるだろう。それを踏まえた上で、もう一度問題の切手の意匠をよく眺めると、別の解釈も可能なことに気付いた。
まず、この図案の全体を支配するのは、下方にある桜の花から湧き出る、淡いピンク色である。これが基調を染め上げている。そして、梢から可憐に伸びたソメイヨシノと思われる桜の花が、両手を広げて上方のモノトーン的なムクゲの存在を支えているように見えるのである。
つまり、「現在の韓国の文化や産業のルーツや高度な部分は多くを日本に起源を求めることができ、その基礎なしには存在できない」という、ある種日本の優越性を主張しているように読めなくもないのだ。デザイナーの中丸氏は言下に否定するだろうが、切手の図案をテキストとして見た場合、様々な解釈が成り立つのも事実だ。
いずれにせよ、この切手が国辱的だとして発行に反対する声が日本国内で高まる可能性はある。だが、そのような些末なことで騒ぐのは得策ではない。こだわれば、日本の民度を下げてしまう。冷静を保つのが一番だ。
韓国は日本にとって付き合いが難しい隣人だが、お隣さんであることは永遠に変わらない。国交正常化50周年を機に、少しでも建設的な方向に持っていく努力が必要だ。