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.政治  投稿日:2015/5/21

[上田令子]【ホントに必要?“東京都迎賓館”】~国や民間施設の有効活用こそ必要~


上田令子(東京都議会議員、地域政党「自由を守る会」代表)

「上田令子のハハノミクス!」

プロフィール執筆記事

豊洲新市場「千客万来」の民間事業者撤退の騒ぎも収まらない5月18日、下村博文・文部科学相と舛添要一知事との会談にて、コスト圧縮・工期短縮を理由に閉会式屋根の設置を断念するなど、新国立競技場の整備計画を見直すことが明らかになり、都庁は寝耳に水の騒ぎとなっている。

豊洲新市場問題においては計画責任者であった都知事が一転「被害者」となったわけだ。知事は大臣に対し、「非常に危機感をもって」、「誰も責任をとらない体制、だから大日本帝国陸軍と同じだという批判を申し上げ」、「どなたがそれ密約したか知らないけれど、そのうちの3分の1の500億出すなんていうことは言っていて(中略)情報をちゃんと出して」もらうよう求めたと翌日の記者会見で語った。

知事は、都が新国立劇場へ500億円負担するという政府の「密約」に怒り心頭というところであろうが、「誘致せんがためにあまりに甘い見通し」のずさんな計画の「被害者」となって、あらためて、当初計画と大きく変容した「千客万来」撤退を泣く泣く決めた、すしざんまいの経営者の気持も理解できたに違いない。

さて、国際政治学者で、外務大臣の期待もされた知事がこだわっているのが「外交政策」である。昨年12月策定された「東京都都市外交基本戦略」もその理念が反映されている。国際都市東京を目指すにあたって確かに重点施策であることは自明だ。

しかしながら、私は、国と都の責任分界点が曖昧になってきたことを危惧し、知事就任以来再三再四にわたり、外交、防衛は国の専管事項であり、東京都が担うべき都市外交というのは、あくまで都市政策の一環としての都市間交流事業、国際公法上の国家間の法律関係を結ぶものではないということを申し上げてきた。

今も続く、外務省からの「儀典長」改め「外務長」という都の天下りポストの問題も指摘し続けている(詳細はこちらご参照)。今年度の「都市外交推進費」として3.6億円から6.7億円と倍増していることも見逃せない。

基本戦略発表を受けたかのように、知事は年明け早々「延遼(えんりょう)館」を復元する方針を明らかにした。さらに5月1日から8日まで東京都庁南展望室にて「延遼(えんりょう)館の時代 明治ニッポンおもてなし事始め」を開催。「2020年オリンピック・パラリンピック大会の開催に向けて、海外からのお客様のおもてなしをする施設として、近代日本最初の迎賓施設であった「延遼館」を浜離宮恩賜庭園(東京都中央区)に復元」するにあたってのパネル展示ということで、有無を言わせぬアリバイづくりのように見えて仕方がない。

今年度予算に調査や設計の費用約1億円を盛り込んで、賓客をもてなすため2020年オリンピック・パラリンピックまでに建設しようとしている。確かに、このような瀟洒な施設をつくる予定であれば、新たに500億円を新国立競技場に支払えるわけもなかろう。

また、パリ大学で学んだ知事は「赤坂迎賓館はベルサイユ宮殿のまがいもの」とし耐え難く、迎賓施設の元祖「延遼館」を復元したいのであろうが、果たして本当に、東京都が国の迎賓館とは別に新設する必要があるのだろうか?

私は舛添知事の「都市外交」の定点観測の一貫として、情報公開や委員会資料請求を重ねてきている。儀典長(当時)による海外出張は、東京都の呼びかけで平成13年に設立された「アジアネット21」のみであった。(なお現在、この「アジアネット21」は、形骸化が指摘され中止を視野に入れて見直しがはかられている。)

都の局長クラスの給料をもらって、海外には1回しかいかず、一体普段は何をしていたかということで儀典長の出張先一覧を情報公開請求した。そこで図らずも判明したことは、「都市間交流」に民間施設がかなり利用されているということだ。儀典長の2012年5月から2014年3月までの間、帝国ホテル21回、ホテルオークラ17回、ホテルニューオータニ13回を活用していた。

遼館復元を公表した際、知事が「民間の施設を使ったということになると、相手からすると少し格が下がったことになります」と語っていたが、実際は大いに民間施設を利用しており、知事室でも賓客と会談している様子が報道されていることから、これまでなんら問題は発生していないのだ。

今度は、総務委員会にて既存施設での賓客対応を質したところ「目的に応じ美術館、庭園など都の施設を活用した接遇」を行っているとのこと。さらに都内にある迎賓施設を把握しているか資料では迎賓館赤坂璃宮、外務省飯倉公館、三田共用会議所を提出してきたものの、「都単独の利用実績はない。設置目的も、稼働状況も承知していない」と明言。既存施設を確認することもなく新しく迎賓館を建てようという姿勢には呆れるばかりであった。

私は都立三田高校卒なのだが、三田共有会議所に人が出入りしていることを見たことがなく一体なんの施設だろうといつも思っていた。あまり活発に使っているように見えないこうした既存迎賓施設を有効活用すれば、東京都専用の新しい迎賓施設などいらないはずだ。

また、今年3月に策定された「東京都長期ビジョン都市戦略6」では「日本の成長を支える国際経済都市の創造」を掲げている。であればこそ、東京都の民間施設を大いに賓客をもてなす国際交流、都市間交流に活かせば、民間企業の成長を促し、人材を育て、ひいては税収増につながるのではないか。

ひとたび公共物を建設してしまえば、維持管理に税金がかかることから、民間や都民が負担するものはあっても得るものはなかろう。東京都は、あくまでも都市間交流事業に集中し、迎賓館は国や民間施設を活用すべきである。

新国立競技場も延遼館もそもそもいらなかったのではないか。今あるものを手直ししながら、大切に使っていく質素を旨とする精神性こそが日本人が残すべき、そして世界に発信すべき「レガシー」なのだから。

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