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.政治  投稿日:2015/3/2

[西村健]【東京都の景観は誰のもの?①】~東京都長期ビジョンを読み解く!その8~


西村健(NPO法人日本公共利益研究所代表)

「西村健の地方自治ウォッチング」

執筆記事プロフィール

 「都会のジャングル」という言葉はもう死語だろうか。いや、私はそうは思わない。自然や他の動物の脅威に無防備に晒されていたわれらが先祖たちのように、東京都民もセーフティネットや地域共同体の崩壊により無防備に資本主義社会の厳しさに晒されている。

こんな私も東京で生を受けて40年弱。私が物心ついた時から東京は発展が続いている。摩天楼のように高層ビルは天空に伸び、かっこいい建築は増え、街は心躍るデザインで溢れ、しゃれた社交場やレストランは増えた。お金の匂いとクリエイティブの香りの奇妙な同居。

切符も買わずに改札を突破でき、地下鉄は路線も駅も乗り入れ手段も増え、エスカレーターもエレベーターの数も増えた。どこまで続く、この快適さの階段。特に小泉政権下の「都市再生」による都市の発展、さらに東京周辺の都市に向かって広がってきた。そう東京は増殖を続けている。

一方、他人とあいさつする機会は少なくなり、地元に知り合いは減り、混雑は激しくなり、店が短いサイクルで入れ替わるようになり、植物や木々の緑が減り、マンションや高層ビルが増え、空は見えなくなった。高層ビルの背伸び競争は、際限のないゲームとなっている。国会議事堂、首相官邸でさえ、外資系企業の名前を記した高層ビルなどに囲まれている。

政策指針2「美しく風格があり、誰もが安心して過ごせるバリアフリー環境の構築」ではバリアフリーについて非常によく記述されている一方、都市景観についてはごく簡単に記されている。「到達状況・課題」に記載が少しあるだけだ。

そこには「都市再生の機運が高まっている中、開発を契機とした更に質の高い景観形成が求められている」とある。本当に機運は高まっているのだろうか。そして、質の高い景観とは何なのだろうか。疑問が頭の中からとめどなく流れてくるのは私だけではないだろう。

東京オリンピック・パラリンピックのメイン会場になる新国立競技場の改修に関してコンペが行われた。

このコンペで、ザハ・ハディド氏の案に決まったときに、建築家や社会学者を巻き込んだ大騒動になったことは記憶に新しい。ザハ氏の案の発想の斬新さ、敷地面積への影響、外苑という神聖な場所におけるあり方、自然あふれる周りとの調和などが議論の遡上に上がった。

「開発を契機とした更に質の高い景観形成」、この言葉が何を示すのか。故郷の東京を愛する私にとって、故郷の風景が一気に変わるさみしさがある。ノスタルジーな感性と笑ってくれてもかまわないが、変化する風景や景観を見ると、自分まで変わらないといけないのか、とさえ無言のプレッシャーを感じてしまう。

高層ビルとネオンが煌めく六本木。星が輝かない夜空を眺めながら、ふとそんなことを思う。

タグ西村健

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