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スポーツ  投稿日:2015/5/31

[大原ケイ]【FIFA幹部逮捕劇、5つの「なぜ?」】~アメリカとEUの確執~


大原ケイ(米国在住リテラリー・エージェント)

「アメリカ本音通信」

執筆記事プロフィール

米司法省がFIFA、つまりスポーツの国際統合団体の幹部を収賄などの汚職疑惑で逮捕した。色々な方向からの「なぜ?」という疑問にひとつの方向づけを試みる。

 

なぜ、アメリカ政府にそんな権限があるのか?

9-11の同時テロ事件以降、特定の国内に留まらず、国境をまたいで暗躍するアルカーイダやISIL(イスラーム国)のようなテロ組織に対処するため、米政府はFBIや司法省、国税局など国内の組織の連携を密に再編成し、友好国の協力体制を強化した。今回、その「長い法の手」を動かし、引渡し協定を結んでいるスイス政府に逮捕させた。今後、不起訴のFIFA幹部は逮捕を逃れようと思ったらアフリカ、中東、ロシア圏の国を渡り歩くしかないだろう。

 

なぜ、国民のサッカー熱が比較的低いと言われるアメリカの発令で逮捕劇に?

他国ほどサッカーファンが多くないとはいえ、アメリカのプロサッカーリーグには世界中から一流の選手が集まり、破格の放映権を巡ってネットワークが争い、ナイキ社などスポンサーとなるスポーツ用品企業から大金が動く。アメリカ国内の他のスポーツ協会、例えば学生スポーツのNCAAやアメフトのNFLでも汚職や差別などの問題を抱えている。国際サッカーリーグの協会を「みせしめ」として、今後も国内のスポーツ団体が自浄できなければFIFAと同じ道をたどるんだぞと脅すには役立ったはずだ。

 

なぜ、これがEUへのメッセージになっているのか?

このところ、グーグル、アップル、アマゾンらアメリカを代表するグローバルIT企業が、現地法と市場原理に則って拡大しているにもかかわらず、EUはVAT税を引き上げたり、それぞれの国で売り上げを報告させるなど、一方的な締め付けで調整を余儀なくされている。米政府にたっぷり税金もロビー活動のお金も落としているこれら企業に代わって米政府がヨーロッパ勢の汚職を摘発、「あなたたちも米企業いじめの前にやるべきことがあるでしょう」と牽制した、という構図だ。

 

なぜ、これが富の再分配になっているのか?

FIFA幹部らがW杯開催を望む国から受け取った賄賂をマネーロンダリングして溜め込んだ金額は20億ドル近いとされている。その一方で、サッカー観戦を楽しむ市民は、高額で入手しにくいチケットや、旅費が賄えずフーリガン化している。また、22年開催予定のカタールでサッカーピッチ建設のために集められた外国人労働者が日中気温50度を越す過酷な労働条件下で死亡率、ケガをする確率が異常に高いまま放置されている。そこへ世界の警察、アメリカが鉄槌を振り落とした形となった。

 

なぜ、これが日本の外交と関係あるのか?

米政府がヨーロッパにはFIFA幹部逮捕という「ムチ」を当てた今回の逮捕劇に「アメ」があるとすれば、それは日本を含むアジア諸国に対し、オバマ政権が最後の大仕事として進めようとしているTTP締結だとは言えまいか。もし安倍政権が対応をしくじれば、沖縄の基地撤退を具体的に進め、中韓との領土問題がこじれてもその時は知らないからね、という路線がオバマ政権だけでなく、この後に続くであろうヒラリー・クリントン政権にも踏襲されていくかと推察される。

それでも再選されたセップ・ブラッター会長がこの先どうなるのか、あるいは世界各国の思惑がどこにあるのかはさておき、今サッカーファンにできることはまもなくカナダで始まる女子ワールドカップ戦を見守り、応援することだろう。安上がりだが危険度が高い人工芝を押しつけられ、抗議しながらも、ピッチでボールを追う選手たちに何ら非はないのだから。ブラッター会長は女子サッカーの「ゴッドファーザー」というより「疫病神」でさえあった。おそらく逮捕や非難を恐れ、カナダには足を踏み入れないだろう。

タグ大原ケイ

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