無料会員募集中
.経済,ビジネス  投稿日:2015/6/29

[遠藤功治]【国内市場は二の次、米中市場最優先のわけ】~大手自動車会社の決算と今後の課題 日産自動車 3~


遠藤功治(アドバンストリサーチジャパン マネージングディレクター)

「遠藤功治のオートモーティブ・フォーカス」

執筆記事プロフィール

日産自動車の注目点その2は、日産にとっての「日本の立ち位置」でしょうか。日産の収益柱は、米国と中国です。日産の今期業績予想は営業利益で14%増の6,750億円、純利益で6%増の4,850億円となります。日産の過去ピーク純利益は、2006年3月期の5,180億円ですから、ピーク比94%まで回復する計算。業績予想の前提は対ドル115円です。

営業利益での感応度は1円の違いで約110億円。仮に為替前提を足元の水準である123円に修正すると、8円の円安、営業利益段階では880億円の増益要因、純利益でも500億円程度のプラス要因となり、実際の純利益は5,300億円程度となり、過去最高益をようやく更新する可能性が出てきます。

この利益の大半が海外、特に米国と中国なのです。今期日産の自動車販売計画は全世界で555万台、前期比23万台の増加となります。地域別の販売台数計画は、米国が149万台、中国が130万台なのに対して、日本は60万台です。実際、4月、5月が2ケタ減少となった販売台数を見ると、日本の販売台数はこれを更に下回る可能性が大きいとも言えます。

昨年末にスカイライン、先日にはエクストレイルのハイブリッド車を投入したばかりですが、過去2年間ほど、日産は国内で主力車種の新車投入を行っていません。一方、米国・中国・欧州・新興国では、相次いで新車投入の攻勢を続けています。日本だけが、エアポケットのように、全く新車が無い状況が永く続いている訳です。これでは販売台数が回復しないのは明らかです。国内全体市場が低迷している中で、他社は相次いで新車を投入、日産は相対的に商品力が低下し、益々シェアの低下に苦しむ、という負のスパイラルに陥っているようにも見えます。

新しく星野専務執行役員を国内マーケティングのトップに据え、巻き返しを図ろうとしているようにも見えますが、所詮、売れる車が無い、今後も1年ほどは新車投入が無いとの状況下で、国内販売の最前線は大変だと思います。海外生産シフトを進めてきた日産ですから、国内販売の減少により、国内生産は減少を続けています。昨年度は87万台、今年は横ばいとしていますが更に減少する可能性が高い。年末から米国で好調に売れている小型SUVローグの追加生産を、九州工場で始める、これで来年度は100万台の大台復帰を狙う、とのことですが、円安による国内回帰は小規模であり、国内販売が継続的に減少している現状では、国内工場の稼働率には大きな影響が出にくい筈です。

ただ経営の合理性から考えると仕方が無い面もあるのでしょう。販売が好調で利益率も高く、市場全体が遥かに大きい米国と中国、ここに優先的に資源を配分するのは当然と言えば当然です。一方で、市場が今後共縮小し続け、MIXも軽自動車や小型車に移行、利益が殆ど見込めない、このような市場に新車を積極的に投入する必然性は無い、マーケティング理論から言えば当然かもしれません。

国内工場は限界利益が出る水準を維持出来れば結構、営業利益での貢献は期待しない、赤字が拡大しては困るが、固定費をカバーできうる水準の生産台数を、輸出の力も借りて維持できれば結構、日本市場に科せられた責任と期待は、こんな割り切り方をされていると、少なくとも外部からは伺い知れます。日本人としては寂しい限りですが、グローバル企業の舵取りをする経営陣から見れば、至極当然の結論かもしれません。ゴーン社長はまだ4年ほど、経営トップに君臨します。よほどの外部環境の変化が無い限り、日産における日本の立ち位置に、大きな変化は無いように見えます。間違っていて欲しいと思うのは日本人だけでしょう。

(この記事は、

【配当性向はダントツでも利益は低水準】~大手自動車会社の決算と今後の課題 日産自動車 1~
【“ルノーの財布”であり続けるのか?】~大手自動車会社の決算と今後の課題 日産自動車 2~
の続きです。本シリーズ全3回)

タグ遠藤功治

copyright2014-"ABE,Inc. 2014 All rights reserved.No reproduction or republication without written permission."