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.政治  投稿日:2026/5/4

国会もメディアも沈黙――辺野古修学旅行事故、官僚の訴えとご遺族の尊厳


Japan In-depth編集長 安倍宏行

【この記事のポイント】
・心ある官僚が伊藤事務所を訪ね「なぜ国会で質問しないのか」と訴え。
・継続報道で新聞は産経が一歩リード、テレビは報道量少なめ。
・ご遺族のnoteが拒んだのは「政治利用」だった。

辺野古沖の修学旅行ボート転覆事故で、同志社国際高校2年・武石知華さん(17)が亡くなってから1か月半。国会で本格追及した議員はごくわずか、テレビや全国紙の継続報道もほとんどない。2026年4月28日、Japan In-depthチャンネルに出演した国民民主党参議院議員・伊藤孝恵氏に「なぜ掘り込まないのか」と問うと、語られたのは、心ある官僚の訴えと、ご遺族のnoteが拒んだ「政治利用」という言葉だった。

番組動画はこちら(Japan In-depthチャンネル)
▶ あわせて読みたい:「『平和学習』でいいのか――辺野古修学旅行事故、公私で違う安全管理を問う」

なぜ国会議員は質問しないのか
伊藤氏は、4月16日の参議院文教科学委員会で、亡くなった武石知華さんを実名で呼び、文部科学大臣に徹底調査を求めた。文教科学委員会でこの事故を本格的に取り上げた議員は、極めて少なかった。
「国会の中での質疑も少なかったし、私も質問する前に、お先に触れている方はいらっしゃいましたけれども、掘り込まないですよね」
国会質疑には2種類ある。論点を出すだけで満足する質疑と、掘り込んで答弁を引き出す質疑だ。今回、後者は数えるほどしかなかった。
そんな伊藤氏の事務所に、ある日、心ある官僚が訪ねてきたという。
「ある心ある官僚が、私の事務所に訪ねてきて――『なぜ質問しないんだ』と。『国会議員はなぜ質問しないんだ。もっとこの問題こそ質問するべきである』と、おっしゃるんですよね」
驚くべきは、その官僚が、本来なら国会で追及される側の立場であることだった。伊藤氏が「私、がっつりやりますよ」と確認すると、官僚は「いや、なんて言いながら……それでも、あれはやるべきです」と答えたという。
質問する側の議員より、質問される側の官僚のほうが、この問題の重さを理解していた。それが、4月の国会の現実だった。
伊藤氏は、自分の質疑を「感情的になりすぎてしまった」と振り返り、批判もあったと認める。だが、その感情を支えていたのは二つのものだった。一つはご遺族のnote。もう一つは、この心ある官僚の言葉だ。
「やらなきゃいけない、やり続けなきゃいけないという風に最後に背中を押されたのは、お父様のノートであり、心ある官僚のその一言だった」
立法府の側に、最初から強い意志があったわけではない。背中を押したのは、ご遺族と、霞が関の中の良心だった。

メディアはなぜ継続報道しないのか
メディアの状況も、国会と似ている。
継続的に取材しているのは産経新聞である。校長の記者会見と自校発行冊子の矛盾を独自報道し(4月16日付)、亡くなった金井創牧師が自著で「本当に怖い海」と書いていた事実を発掘した(4月6日付)。継続的な調査報道がなければ表に出ない事実を掘り起こしてきた。
一方、テレビと全国紙の継続報道は乏しい。なぜか。伊藤氏は番組内で、こう言葉を選びながら指摘した。
「やっぱり、何かこう、触ってはいけないというか、触ったら色々なことが起こるっていう、そういうようなこと――もうみんなが感じている」
テレビは継続取材に向いていない。映像が必要で、しかも変わり映えする映像が要る。同じ映像は使えず、継続取材を許す体制も組まれにくい。一方、紙媒体には継続取材の蓄積がある。それでも、産経以外の全国紙が深掘り報道をしている例は乏しい。
結果として、武石さんが亡くなった事故の構造的問題は、ほとんどの日本人に届いていない。
番組で伊藤氏は、こうも語った。
「国会の悪いところ、何かこうメディアがすごく取り上げている事件や事故は、なんかみんな取り上げたがるんですけど、それが一旦落ち着くと、なんか何もなかったように追わない――それこそ継続取材をしないですよね、国会議員って」
メディアが継続報道しなければ、国会議員も追わない。国会議員が追わなければ、メディアもさらに動かない。沈黙は連鎖する。
Japan In-depthチャンネルが今回、伊藤氏を迎えてこの番組を放送した理由はそこにある。継続取材という、本来あるべき報道の役割を、誰かが引き受けなければならない。伊藤氏自身も「ご遺族にお約束しましたので、これからもやっていきます」と、立法府としての継続的取り組みを表明している。
番組では、これまでの取材で確認できた事実と、未確認のままの核心論点を整理したスライドも提示した。

【スライド】金井牧師に「旅客運送」の資格はあったのか(番組内で使用)
ⒸJapan In-depth編集部

亡くなった金井創牧師が旅客運送に必要な「特定操縦免許」を保有していたかは、現時点で確認されていない。海上保安庁第11管区が業務上過失致死傷罪・海上運送法違反容疑で捜査中だ。学校側は船舶の事業登録の有無も保険加入の有無も把握していなかったと、3月17日の記者会見で校長自身が認めている。これらの基本的な事実すら、継続取材なしには見えてこない。

ご遺族のnoteは何を訴えているのか
ご遺族の発信は、事故12日後の3月28日に始まった。武石知華さんの父親が、妻と長女と相談しながら執筆する「辺野古ボート転覆事故遺族メモ」というnoteである。
そこに繰り返し書かれているのは、「政治利用しないでほしい」という訴えだ。
武石さんが選んだコースは、Fコース「辺野古ボート」。父親のnoteによれば、知華さんは綺麗な珊瑚礁を友人と見たいという理由でこのコースを選んだ。政治的意図は皆無だった。だが事故後、一部メディアやSNSで「抗議活動のため乗船した」かのような誤った認識が拡散され、ご遺族はさらに苦しめられた。
ヘリ基地反対協議会のホームページには、生徒たちが乗船したプログラムについて、こう記されている。
「沖縄が抱える社会課題や現状を直接見学し、多角的な視点から学ぶための純粋な社会科見学を目的としたものでした」
これに対し、武石さんのお父様はこう応答した。
「『純粋な社会科見学』の前の『多角的な視点から学ぶため』の方が重要。多角的な視点として、ヘリ基地反対協議会が何を生徒に説明していたかで、純粋な社会科見学と言えるかどうかが決まると思います」
お父様のこの応答について、伊藤氏は「純粋に珊瑚を見たいと来た子どもたちに対して、『自分たちの仲間である、一緒に平和を訴えてくれた』というようなラベリングをすることは絶対に許されない」と語った。
安倍編集長が、事故直後に一部国会議員から「(生徒は)分かって(抗議船に)乗ったんだろう」という趣旨の発言が出て、後に謝罪した経緯を指摘すると、伊藤氏は「ありえない」「おかしい」と強い口調で反応した。伊藤氏自身、二人の娘の母親である。


「政治利用」とは何か
番組の中盤、安倍編集長が、事故をめぐって「学生たるもの主体性を持って考えなきゃいけないんじゃないか」という議論が一部にあることをただすと、伊藤氏は強い口調で反論した。
「学生を大人として見ることはもちろん大事だが、高校生がどこまで主体性を持って、しかも学校が用意したプログラムで――お父さんの言うことを信じるんだったら、綺麗な珊瑚礁から見たかったって、娘出てった、という話ですよ」
「クーラーの効いた部屋から、何かこう平和学習を論じたり、『正義』や『批判的思考』や、子どもの(こう)あるべき問いを語るのは、本当にいい加減やめていただきたいんですよね」
伊藤氏が問題視したのは、論者が安全な場所から、亡くなった生徒に「主体性が足りなかった」と問う構図そのものだ。
「自分なんかこの事故をなんか自分の論を補強するためのストーリーにみんな使わないでいただきたいし、自分も使うものかと思ってます」
「政治利用」という言葉は曖昧だ。だが、伊藤氏の発言を整理するとこうなる。
第一に、亡くなった生徒の選択を「政治的な意図があった」と一方的にラベリングすること。第二に、特定の組織や活動を批判するために、知華さんの死を素材として使うこと。第三に、自分の論を補強するために、生徒の主体性の有無を論じること。
これらは立場の左右を問わず、すべて「政治利用」に該当する。伊藤氏が拒んだのは、そのいずれでもあった。
「事故の中に不正義を見出すとすれば、ご遺族の立場になってみたら――一番は時計の針を戻したい、生き返ってほしい。でも、それが叶わないのであれば、なぜ起こったのかの真実が知りたいと思うし、その真実を知った上で、自分と同じような悲しみを二度と誰にも味わせたくないと思う。それを、私たちは作って、ご遺族や知華さんに報告をする――それでしか、ご遺族の気持ちに寄り添うことはできないんじゃないかと」
立法府ができることは、真実究明と制度改正でしかない。それ以外のすべての言説――誰かを糾弾し、誰かを擁護し、誰かを「仲間」だと主張する言説――は、ご遺族を傷つける。それが、伊藤氏の立つ場所である。

編集長の視点
国会議員は英語で”lawmaker”という。法律を作る人ということだ。今回のような事件を二度と起こさないためにどのような法律が必要なのか、もしくはどのような社会的な制度が作られるべきなのか、問うべきだろう。前者は国会議員が、そして後者がメディアの役割だ。だが、その双方が機能不全に陥っている。オールドメディアの凋落が叫ばれて久しいが、この10数年間、彼らは手をこまねき、変革を進めることができないでいる。翻って私たちニューメディアはどうか?XやYouTubeで切り抜きの政治コンテンツを消費し、アテンションエコノミーとレイジベイティング(怒り炎上商法)に翻弄され、本質を見失ったまま自らを圏外に置く――そんな現代人に、ジャーナリズムは何ができるのか。Japan In-depthチャンネルは、1対1、60分、本人の声をじっくり聞く――その地味なスタイルで、その問いの答えを探し続けていく。

【よくある質問(FAQ)】
Q1. 参議院文教科学委員会とは何か?
国会法および参議院規則に基づき設置される常任委員会の一つで、文部科学省所管の事項(教育、学術、文化、スポーツ、科学技術等)を審議する。委員会では大臣への質疑、法案審査、参考人招致、集中審議の開催などが行われる(参議院)。
Q2. 第三者委員会とは何か?
学校・企業・自治体などで重大な事故や不祥事が発生した際に、利害関係を有しない外部の有識者(弁護士、学識経験者等)で構成される独立調査機関のこと。今回の事故では、学校法人同志社が3月28日に弁護士による特別調査委員会の設置を発表している。第三者委員会の調査結果には法的拘束力はないが、組織が説明責任を果たす重要な手段とされる。
【関連リンク】
▶ 番組動画「【辺野古修学旅行事故】『平和学習』でいいのか 辺野古修学旅行事故を問う!国民民主党 伊藤孝恵参議院議員」(Japan In-depthチャンネル、2026年4月28日配信
▶ あわせて読みたい:『平和学習』でいいのか――辺野古修学旅行事故、公私で違う安全管理を問う(前回記事)
▶ ご遺族のnote「辺野古ボート転覆事故遺族メモ」
参議院文教科学委員会(参議院公式)

冒頭写真)国民民主党伊藤孝恵参議院議員とJapan In-depth編集長安倍宏行
ⒸJapan In-depth編集部




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