UAE脱退と米中「制裁」の火種ーーイラン危機を冷徹に見つめるロシアの視線
宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)
宮家邦彦の外交・安保カレンダー 2026#17
2026年4月27日-5月3日
【本稿のポイント】
- OPEC第3位の産油国UAEが、増産能力拡大を掲げ脱退を表明。産油国連合の地政学的転換点となる可能性。
- イラン危機が中国に与える影響を、ロシアメディアがどう報じたかを紹介。
- 米国が中国の製油所に制裁を拡大。米中首脳会談を前に、中国によるレアアース輸出制限などの対抗策が懸念される。
ゴールデンウイークに沸く日本を尻目に、中東ではイラン戦争の出口が見えない「我慢比べ」が続いている。今週の最大の衝撃は、主要産油国UAEのOPEC脱退表明であった。このエネルギー秩序の激変に加え、米国による中国製油所への制裁拡大は、5月の米中首脳会談を前に新たな外交的火種を投げ込んでいる。こうした中、ロシアメディアは、イラン危機の中国への影響をどう報じたのか。中東、中国、そしてロシアの視線が交錯する国際情勢の深層を読み解きといていく。(Japan In-depth 編集部)
■ 昭和百年の感慨:激動の過去と「韻」を踏む現在
今週日本はゴールデンウイークの真っ最中だが、個人的には、中東ではイラン戦争「停戦」の気配が全く感じられず、ワシントンでの英国王夫妻の米国国賓訪問にも全く興奮しなかった。日本では4月29日に武道館で「昭和百年を記念する式典」が開催されたが、最近鈍感になったせいか、筆者にはあまり大きな感慨はなかった。
何故なのかなぁ、歳を取ったのかなぁ、などと考えていたら、筆者なりに理由が見えてきた。昭和とは、実に波乱万丈な時代だった。最初の20年と最後の20年ではまるで別の国のように違うからだ。だから「昭和百年記念」と言われても、あまりピンと来なかったのかもしれない。少なくとも人によって感じ方は大きく異なるだろう。
誤解のないよう申し添えるが、筆者は昭和の「最初の20年」が悪くて、「最後の20年」が良かったなどと言っている訳ではない。我々日本人は昭和の歴史をまだ十分咀嚼できていないのではないか。もし、今の時代が昭和の「最初の20年」と歴史の「韻を踏む」のだとしたら、猶更である。式典のニュースを見ながら、そう考えた次第だ。
■ UAEのOPEC脱退という衝撃
今週筆者が最も気になったのはアラブ首長国連邦(UAE)のOPEC脱退のニュースである。UAE脱退は5月1日付で、OPEC+からも脱退する。UAEはOPEC第3位の産油国。この決定は産油国グループにとって大きな転換点となるかもしれない。イラン戦争ではホルムズ海峡での海上輸送が混乱し、UAEもイランによるミサイル・ドローン攻撃を受けた。これらを踏まえての政治決断なのだろう。
UAEによれば、脱退の目的は2027年までに同国の原油生産能力を1日当たり500万バレルまで拡大していくためだそうだ。同国エネルギー相は「この措置は市場の混乱を最小限に抑えるタイミングを計った」結果であり、「価格への影響は最小限にとどまる」と強調したという。UAEが市場安定に動いたことは非常に重要である。
■ イラン危機が中国に及ぼす影響
次は、吉岡明子主任研究員によるロシア関連コーナーだが、今週は同研究員がまとめた「イラン危機が中国に及ぼす影響とは――ロシア・メディアから」を以下の通りご紹介する。ロシア・メディアがイランと中国を如何に見ているか知る上で実に興味深い。
米トランプ政権は、5月に米中首脳会談を控える中、4月24日には対イラン制裁の一環として、中国の石油精製企業「恒力石化」を制裁対象に追加。イラン産原油を運ぶ「影の船団」の船舶約40隻なども対象とした。
今回の米・イスラエルによるイラン攻撃について、一部の識者の間では、米国の真の狙いは中国の弱体化ではないかとする見方が存在してきたが、逆に、現実にはイラン攻撃は結果的に中国を利することになるとの見方もある。
今週は、イラン危機の中国への影響についてロシアのメディアがどのように報じているか、ロシアの大手紙「独立新聞」と広い読者層を持つ大衆紙「論拠と事実」の最新の論調をそれぞれ紹介する。
■「米国によるイラン攻撃は中国にも影響―米国の制裁が中国の海上輸送に及ぶ」、4月26日付「独立新聞」(要約)
- 米国はイラン産原油の輸出を止めるため、圧力を拡大している。今回、米中首脳会談直前というタイミングで、中国向け輸送に関与する船舶や、中国国内の製油所にまで制裁を拡大した。
- 中国はイラン産原油の最大の購入国であり、この取引は、海上での積み替えや仲介会社を通じた「影のネットワーク」によって維持されている。イランは見返りとして、軍が使用する化学物質や関連装備を受け取っている。
- 先週には、米国はイラン産原油を運搬していた2隻の船舶を拿捕したほか、中国の港でロケット燃料の成分を積載した船舶「トゥスカ」もオマーン湾で拿捕した。一方で、こうした取り締まりの拡大には負担が大きく、限定的な運用にとどまっている。
- ロシアの中国専門家アレクサンドル・ルキーンは、中国側は米国から対外取引を制約されるいわれはないとの立場にあると指摘。今後については、中国が米国に対して対抗措置を取る可能性があり、レアアースなどの輸出制限や、台湾に関連する措置が検討され得ると指摘した。
■「ドラゴンを怒らせるな。イランとの戦争を開始することで、米国は中国に手を伸ばそうとした」4月27日付「論拠と事実」、ワシリー・カシン高等経済学院・包括的欧州国際研究センター所長へのインタビュー記事(要約)
- 【予定される米中首脳会談】:イラン攻撃が数日以内に決定的な成功で終わっていれば、3月末には当初の予定通りトランプの北京訪問が実行され、米国に有利な形で協議が進められただろう。だが、中東での不成功で、トランプは政治的に弱体化した状態で北京に到着することになる。これは交渉結果に反映されることになるだろう。
- 【中国のエネルギー事情】:中国の石油備蓄量は公表されていないが、推計によればおよそ4カ月分とされ、現時点での状況は安定していると分析できる。一方で、中東危機は、中国の電気自動車メーカーに大きな利益をもたらす可能性がある。もちろん、ロシアとの協力関係、特に「シベリアの力2」のようなプロジェクトの実現性にも影響を与え得るだろう。5月にはプーチン大統領の訪中も予定されている。
- 【中国の対イラン軍事支援】:中国は、最も良好な時期でさえイランへの武器供給については非常に慎重で、致死性兵器の直接的な大規模供給は長い間行われていない。一方で、中国は、イランにとって産業機器や部品の重要な供給源であり、それらがイランの軍産複合体で大きな役割を果たしてきたのは事実である。
- 【中国が得る軍事的教訓】:中国は外国の軍事経験を重視しており、今回も戦争のあらゆる技術的側面を研究していることは間違いない。数カ月以内にも中国軍の装備や運用に新たな軍事技術的変化が現れることになるだろう。
■今週の国際カレンダー
続いては、いつもの通り、欧米から見た今週の世界の動きを見ていこう。ここでは海外の各種ニュースレターが取り上げる外交内政イベントの中から興味深いものを筆者が勝手に選んでご紹介している。欧米の外交専門家たちの今週の関心イベントは次の通りだ。
4月27日 月曜日 スウェーデンのSIPRIが軍事費に関する年次報告書発表
英国王夫妻国賓として訪米(4日間)
4月28日 火曜日 ASEAN・EU閣僚会議(ブルネイ)
4月29日 水曜日 日本、ゴールデン・ウィーク始まる
4月30日 木曜日 アンティグア・バーブーダで総選挙
5月1日 金曜日 メーデー
英国王夫妻、バミューダ訪問(2日間)
5月3日 日曜日 OPEC+月例会合
最後はガザ・中東情勢だが、イラン戦争については米国とイランの「チキンゲーム」、というか「我慢比べ」が続いている。報道によれば、米諜報機関はイランの原油貯蔵施設が今後2-3週間で満杯になると見ており、その後イランは対米譲歩するか、原油生産を停止するか、という究極の選択を迫られるのだそうだ。
後者であれば、イラン油田の生産能力が激減する恐れもあるらしいが、本当なのかね。あのイラン人がそのための準備をしていないはずはない、少なくとも、その程度の犠牲で怯むような民族ではないと思うのだが・・・。イランに現実派と強硬派と中間派などの派閥対立があるなんて、米国の希望的観測に近いと思うのだが・・・。
これって最後にはイランがblink(まばたきする、すなわち譲歩)するか、それとも米側がblinkするかの戦いなのか?こんな神経戦が今後2-3週間続く可能性があるのだろう。先週も書いたことだが、トランプ氏にそこまでガチンコをやる気概はあるかね?筆者は今も疑問である。
いずれにせよ、仮に米側が妥協して停戦が延長され、一時的にホルムズ海峡が開通したとしても、イランの核開発という火種は燻ぶり続けるだろうから、いずれ、そう遠くない将来、第三次イスラエル米・イラン戦争は再発する、という従来の筆者の見立ては今も変わらない。
今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きは今週のキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。
トップ写真:海上の石油タンカーと戦闘機
出典:Photo by Anton Petrus/Getty Images
■よくある質問(FAQ)
Q1:UAEの脱退は原油価格にどう影響しますか?
A:短期的には供給増加への期待から価格抑制要因となりますが、OPECの結束が弱まることで、中長期的な市場の不安定化を招くリスクがあります。
Q2:米国はなぜ米中首脳会談直前に対中制裁を強化したのですか?
A:イランの資金源を断つ実効性を高めると同時に、首脳会談における中国側への交渉カード(ディール)を増やす狙いがあると考えられます。
Q3:中国が米国に「対抗措置」を取る可能性はありますか?
A:ロシアの専門家は、レアアースの輸出制限や台湾に関連する措置など、米国に打撃を与える対抗手段が検討され得ると指摘しています。
Q4:ロシア・メディアがイラン危機 を歓迎しているように見えるのはなぜですか?
A:米国の資源や関心が中東に分散することで、ウクライナ支援の弱体化や、西側諸国による対露包囲網の綻びを期待しているためです。
Q5:記事にある「歴史の韻を踏む」とはどういう意味ですか?
A:歴史は全く同じ形では繰り返さないが、似たようなリズム(構造や展開)で現れるという考えです。昭和初期の行き詰まりと現在の国際情勢の相似を警告しています。
(本校のポイント、リード、FAQの文責:Japan In-depth編集部)
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この記事を書いた人
宮家邦彦立命館大学 客員教授/外交政策研究所代表
1978年東大法卒、外務省入省。カイロ、バグダッド、ワシントン、北京にて大使館勤務。本省では、外務大臣秘書官、中東第二課長、中東第一課長、日米安保条約課長、中東局参事官などを歴任。
2005年退職。株式会社エー、オー、アイ代表取締役社長に就任。同時にAOI外交政策研究所(現・株式会社外交政策研究所)を設立。
2006年立命館大学客員教授。
2006-2007年安倍内閣「公邸連絡調整官」として首相夫人を補佐。
2009年4月よりキヤノングローバル戦略研究所研究主幹(外交安保)
言語:英語、中国語、アラビア語。
特技:サックス、ベースギター。
趣味:バンド活動。
各種メディアで評論活動。

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