「平和学習」でいいのか――辺野古修学旅行事故、公私で違う安全管理を問う
Japan In-depth編集長 安倍宏行
【この記事のポイント】
・公立と私立で修学旅行の安全管理ルールに大きな差。
・私学助成を受ける以上、私立も公立並みの安全管理義務を。
・伊藤孝恵参院議員、立法による制度改正を表明。
沖縄・辺野古沖で発生した同志社国際高等学校の修学旅行ボート転覆事故から1か月半。死亡した武石知華さん(17)の死は、日本の教育行政の構造的な歪みをあぶり出している。Japan In-depthチャンネルでは2026年4月28日、国民民主党参議院議員・伊藤孝恵氏を迎え、「同じ高校生の命なのに、公立と私立で守り方がこれほど違っていいのか」という問いをめぐって聞いた。
修学旅行のルールは公立と私立でどう違うのか
修学旅行をめぐる安全管理ルールは、公立校と私立校で、驚くほど違う。
公立校の場合、事前下見は教育委員会要領で義務付けられ、危機管理計画の策定義務がある。引率教員体制は細かく規定され、保護者への同意取得も義務付けられている。自治体への報告も義務化されており、教育委員会が直接監督する。
一方、私立校はどうか。事前下見の義務はなく、危機管理計画の策定義務もない。引率教員体制は「学校の裁量」に委ねられる。保護者への同意取得義務もなく、自治体への報告義務もない。監督主体は都道府県を経由した間接的なものにとどまる。
つまり、私立校の修学旅行については、「事前にどんな下見をしたか」「波浪注意報下で出航した判断は誰が下したのか」「引率教員はなぜ船に乗らなかったのか」――こうした基本的な安全管理が、外部から検証できる仕組みがそもそも存在しない。
伊藤氏はこの非対称性を、立法府の側から正面から指摘した。
「(私立校では)報告をしなくてもいいので、それは誰にもばれないというか、誰にも咎められないので、そのまま行ってしまった。義務がないので、そういう部分での……今、いろいろ言われていますけど、じゃあ旅行会社というのは、あの時何してたんだ、なぜ止めなかったんだという指摘をされる方もいるが、最近の修学旅行は『ここは学校から別行動です』『送り迎えだけしてくれればいい』というケースが多い」
旅行会社が手を引いたところで、コスト削減のために無償の「学校自主プログラム」が組み込まれる。受け皿は地元のボランティア団体や宗教団体、民泊先である。これらの先に、旅行業法で定められた厳格な安全管理チェックは効かない。「学校がプログラムなんです」「平和教育なんです」と言われれば、対等に問いただせる立場でもない。
伊藤氏は実際に、修学旅行を担当する旅行会社にも自ら取材したという。返ってきた言葉は重い。
「修学旅行のコストと安全性が、バーターになっていないか――旅行会社の方は、そう強くおっしゃっていた。商習慣として学校にものを言ったり、『そこはやっぱり危ないですよ』ということすら、やっぱり許されないというような弱い立場。本当に悔しいとおっしゃっていた」
修学旅行の現場で、安全に最も知見を持つはずの旅行会社が、発注元である学校に対して安全上の懸念を口にできない。これが、ボート転覆事故の構造的な背景にある。
私学助成を受ける学校に、なぜ公立並みの安全管理は求められないのか
では、なぜ私立校だけが、これほど自由なのか。
背景には、私立学校法が掲げる「建学の精神」と教育の自由がある。各学校が独自の教育理念のもとで運営できる仕組みは、戦後日本の教育多様性を支えてきた。伊藤氏自身、私立学校で学んだ経験から、その意義は十分に理解しているという。
だが、伊藤氏が文教科学委員会で問題提起したのは、そこではない。
「教育内容ではなく、安全性に関して自由度を持たせるということ。そして実際にこのような事故が起こったこと。この事実をもってして、それでもなお、法律に義務化されている、公立では担保されている安全性が、私立では担保されていない。この状況を放置することに、合理性が見出せない」
安全性は、建学の精神とは無関係だ。生徒の命を守るルールは、公立も私立も同じであっていいはずだ。
さらに伊藤氏は、私立学校が受け取っている公的支援に踏み込んだ。
「私立学校だって、私学助成というのがありますよね。これは国とか地方公共団体からの公金、つまり税金ですから。そして彼らは、その私学助成をもらうにあたって、自分たちは公立と同じ公共性を担保しているんだと自分たちで言っているんですから。だとしたら、公立と同じような安全管理義務をかけるということに、なんでだよって、それは言ってはいけません」
私立学校振興助成法に基づく私学助成は、文部科学省の資料によれば、私立学校の経常的経費に対する補助として国・地方公共団体が支出している。私立学校が「公共性」を根拠にこの助成を受けている以上、安全管理面でも公立と同等の責任を負うべきだ――というのが伊藤氏の論理だ。
加えて、私立高校授業料の実質無償化が国会で議論されている現在、この論点はますます重みを増す。税金で授業料を支えるなら、安全管理ルールも統一すべきではないか。それが、伊藤氏の問いかけだ。
なぜ文科省は直接調査に踏み切ったのか
【スライド】文科省・教育行政の課題(番組内で使用)
ⒸJapan In-depth編集部
今回の事故で、教育行政のもう一つの構造的問題が露呈した。監督権限の二重構造である。
私立学校の監督は、本来、都道府県が担う。今回の事故についても、所管の京都府が学校法人同志社への調査を進めていた。だが、十分な回答が得られなかった。その結果、4月24日、文部科学省自身が現地調査に踏み切ることになったのだ。
これがいかに異例の事態か、伊藤氏は文科委員会で松本洋平文科大臣に直接ただした。
「何をもってしたら自分たちが出ていこうという所感になるのか――でもそれは、言えないと言われた」
文科省が私学の現場に直接乗り込むには、相応のハードルがある。それを超えたということは、京都府経由のやり取りで解明が進まない異例の事態だったと推察される。実際、現地調査は4時間に及び、なおかつ文科省は調査を続ける構えだ。
同じ4月24日、京都府は同志社国際高校に対し、危機管理マニュアルの不備を指摘して校外活動の自粛を要請する通知を出している。
国――都道府県――学校法人。この構造が機能しない場合、誰が子どもの命を守るのか。今回明らかになったのは、その問いに制度として答えが用意されていないという現実だ。
立法で何を変えるべきか
では、何を変えるべきか。伊藤氏は具体的な立法ターゲットを複数挙げた。
第一に、学校教育法の私立校への適用拡大。安全管理について、私立校にも公立並みの義務付けを行う。事前下見、危機管理計画、引率体制、保護者への同意取得、自治体への報告――これらを私立校でも義務化する。
第二に、特別活動・修学旅行を規律する法整備。修学旅行という特殊な学校活動を切り出して、必要な認可・チェックの仕組みを整える。
第三に、海上運送法の運用見直し。
「船に乗るんだったら、その先に関する法律で、今回のような抗議船みたいなところに関しても、資格がないと乗れない――まさに今回は『旅客を運送していないから』という逃げでしたけれども、実際に生徒たちが乗っているわけですから。資格は本当にいらないのか」
知床遊覧船事故(2022年4月)を受けた海上運送法等の改正では、小型の非旅客船であっても、他人の要望に応じて人を運んでいたのに事業登録をしていなかった場合は刑事罰の対象となった。伊藤氏は、この改正後もなお抜け穴があるのではないかという問題意識を示している。
第四に、立法府としての継続的な調査・追及。同志社への調査結果、京都府の対応、参議院文教科学委員会への報告、集中審議の開催。これらを通じて、断片的にしか見えていない実態を立法の出発点まで詰めていく。
伊藤氏は、立法のための要素がまだ足りないと率直に認めた。文科省の調査結果も、同志社の自主調査も、京都府からの報告も、現時点では国会議員の手元にない。だが、調査が進むにつれて、何を変えるべきかが見えてくるはずだとして、それを待ち、制度改正の準備をする考えを明らかにした。
「リスタートできない命」のために

【スライド】同志社国際高校の何が問われているのか(番組内で使用)
ⒸJapan In-depth編集部
番組で印象的だったのは、伊藤氏の次の一言である。
「変わりゆく修学旅行という、本当に私たちの時代の修学旅行とはまた全然別の、体験格差を埋めたいみたいな、先生方が一生懸命考えてくださるのは分かる。でも、そこと『体験』というものの美名のもとに、安全がおきざりになっていないか――もう一度問い直したい」
民泊、地元団体との交流、自主プログラム化。修学旅行の内容は確かに豊かになった。だが、その豊かさの裏で、旅行業法に基づく厳格なチェックの外側で、子どもの命が預けられる場面が増えている。
武石知華さんが亡くなった3月16日、辺野古の海には波浪注意報が出ていた。海上保安庁の警告は無視され、引率教員は乗船しなかった。船は事業登録されていなかった。船長は旅客運送の資格を持っていたかも確認されていない。保険加入も学校側は把握していなかったようだ。
これらすべてを「今までは大丈夫だったから」で済ませてきた制度を、立法府がどう書き換えるのか。それが、知華さんとご遺族に対して、社会が示せる唯一の答えである。
伊藤氏は番組の最後に、こう語った。
「ご遺族にとって、一番は時計の針を戻したい、生き返ってほしい。でも、それが叶わないのであれば、なぜ起こったのかの真実が知りたいと思うし、その真実を知った上で、自分と同じような悲しみを二度と誰にも味わせたくないと思う。それを、私たちは作って、ご遺族や知華さんに報告をする――それでしか、ご遺族の気持ちに寄り添うことはできないんじゃないかと」
立法府が出すべき答えは、その真実究明と制度改正の二つしかない。
【よくある質問(FAQ)】
Q1. 修学旅行の安全管理は公立校と私立校で何が違うのか?
公立校は教育委員会が定めた要領に基づき、事前下見、危機管理計画の策定、引率教員体制、保護者への同意取得、自治体への報告がそれぞれ義務付けられている。一方、私立校はこれらの安全管理ルールに法的義務がなく、各学校の裁量に委ねられている。監督主体も、公立校は教育委員会が直接、私立校は都道府県を経由した間接的なものとなる。
Q2. 私学助成とは何か?
私学助成は、私立学校振興助成法(1975年公布)に基づき、国および地方公共団体が私立学校の経常的経費に対して交付する公的補助のことである(文部科学省)。教育条件の維持向上、保護者の経済的負担の軽減、私立学校の経営の健全性向上を目的としている。
Q3. 海上運送法の事業登録とは何か?
海上運送法に基づく一般不定期航路事業の登録制度のこと。代表者氏名や航行水域などを地方運輸局へ登録する必要がある。2022年4月の知床遊覧船事故を受けた海上運送法等の改正(令和6年4月施行)により、小型の非旅客船であっても、他人の要望に応じて人を運んでいたのに事業登録をしていなかった場合は刑事罰の対象となった。
(続編「国会もメディアも沈黙――辺野古修学旅行事故、官僚の訴えとご遺族の尊厳」に続く)
この番組の動画URL
https://www.youtube.com/live/WO4q5BkbSKI?si=TlWWH9s45lIUHnLi
冒頭写真)国民民主党伊藤孝恵参議院議員
ⒸJapan In-depth編集部





























