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.政治  投稿日:2026/4/24

9条2項は「国民の宝」——小西洋之議員の改憲阻止論


安倍宏行(Japan In-depth 編集長・ジャーナリスト)

※本稿は2本構成の第2回です。第1回(野党・政局篇)はこちら。

■ 本稿のポイント

・参院憲法審査会で小西議員が3年かけて進めた「緊急集会論争」により、自民党内で衆参の見解が分裂。「改憲の時は来た」という高市総理の主張には根拠がない。

・9条2項は「政治家が無用の戦争を起こせない」「外国の侵略を跳ね返せる」という2つの力を国民に与えている。自衛隊を憲法に明記するとこの規範力が失われる。

・台湾有事でアメリカのために集団的自衛権を発動しないと明言。高市総理の「存立危機事態」発言は実は存立危機事態に当たらない。

 

自民党が衆院で単独3分の2を確保し、憲法改正論議が加速する中、立憲民主党の小西洋之参議院議員(千葉選挙区、3期)は改憲阻止の最前線に立つ。元総務官僚として憲法を長年研究してきた小西議員は4月22日、Japan In-depthチャンネルに出演し、安倍宏行編集長の問いに答えた。自民党内での改憲論の分裂、9条2項の「規範力」、台湾有事への対応、そしてイラン・ホルムズ問題での日本の役割について語った。(Japan In-depth編集部)

 

■ 参院緊急集会論争——自民党内で「改憲の根拠」が分裂しているのはなぜか?

小西議員が最も力を込めて語ったのが、参院憲法審査会での3年間の論争だ。高市早苗総理は「年度内に改憲発議」という意向を示しているが、小西議員はその前提が崩れていると指摘する。

焦点は「参議院の緊急集会」だ。改憲勢力が緊急事態条項の新設を求める根拠の一つが「衆院解散中は緊急集会では対応できない」という主張だが、小西議員は2023年からこの論理を崩す戦略的な議論を参院で展開してきた。

「衆議院でたらめな議論をしてるので、わざと参議院で2023年通常国会から緊急集会を議題にしたんです。そこで参議の自民党の皆さんは、衆議で間違ってる議論をしてることに気づいていただいて、2023年が終わる頃には衆参で見解が分裂したんですね」

その結果、2024年に自民党が党内統一見解をまとめた。「緊急集会は70日以内しか開けない」「扱える議案が限られる」という衆院側の主張を退け、参院側の正しい解釈が採用された。ところが翌2025年の通常国会で、衆院の船田元(ふなだ・はじめ)筆頭幹事が再び統一見解と異なる従来の誤った主張を展開し始めた。参院自民党の佐藤正久前筆頭幹事はこれに怒り、会議録に残る形で正しい見解を主張したという。

小西議員はこの状況を「自民党は改憲を主張する資格もない」と断じる。参院自民党の中西祐介筆頭幹事は自ら作った統一見解を守る立場にあるとして、引き続き連携を求めていくと語った。

■ 9条2項を守る理由——「規範力」とはどういう意味か?

9条改正をめぐる議論の核心は2項の扱いだ。自民党は2項を維持したまま自衛隊を明記する案を主張しているが、小西議員は2項の維持も自衛隊明記も両方反対する。その理由として「規範力」という概念を提示した。

「現在の憲法9条はあの国民を2つの意味で守り抜くという意味で本当に根本的に日本国民にとって重要で、日本国民の皆さんの宝と言っていい条文だと私は思っている」

小西議員によれば、9条が持つ2つの力とは、第1に「政治家が無用の戦争を起こせない」力、第2に「外国の侵略を跳ね返せる」力だ。

第1の力については、歴代政府の9条解釈を「分離解釈」と呼ぶ。条文を素直に読めば「国際関係において一切の実力行使が禁じられているように見える」ため、時の権力者が好き勝手に自衛隊を使えないという歯止めになっているという。

第2の力については「論理解釈」として説明する。9条で武力行使を全否定しつつ、13条が「国家は国民の生命を守らなければならない」と定めているため、現実に侵略を受けた時にだけ個別的自衛権として跳ね返すことが許されるという論理だ。

「自衛隊ができるのは日本が現実に侵略を受ける危険がある時。それ以外は自衛隊は実力組織ですけれども、政治家が好き勝手に使えない。政治家が起こす戦争によって国民が殺されることがないということなんです。こんな素晴らしい憲法を持ってる国は日本だけなんです」

■ 自衛隊明記はなぜ危険なのか——憲法解釈が根本から変わる

自衛隊を憲法に明記すると何が変わるのか。小西議員は次のように説明する。

憲法に「自衛隊」と明記すると、武力行使ができる組織としての自衛隊と、9条が禁じている武力行使との関係が曖昧になる。その結果、9条の規範力が失われ、自衛隊が使える範囲の解釈が広がってしまうというのが小西議員の懸念だ。

「分かりやすく言うと、政治家が無用の戦争を起こすことを永久に阻止してる力が失われてしまうことになる。そういう結論になると私は思います」

■ 台湾有事で集団的自衛権は発動しない——では日本はどう動くのか?

台湾海峡有事が現実となった場合、日本はどう対応すべきか。小西議員は明確な立場を示した。

「台湾海峡有事が起きてアメリカ軍と中国軍が戦争になった時に私が総理大臣だったら、アメリカ軍を守るための集団的自衛権の発動はしません。日本が武力行使して中国と戦うということは私は総理大臣の判断としてしません」

理由は2つだ。第1に集団的自衛権の行使は憲法違反であること。第2に日本国民への甚大な被害が生じることだ。一方、在日米軍基地への攻撃については個別的自衛権で対応しうるとした。

「在日米軍基地は日本の領土領域ですから、そこに対する武力攻撃は日本に対する攻撃とみなして、それを個別的自衛権で排除することができるという解釈で、私もそれは正しいと思うんですね」

その上で、台湾有事を起こさせないための首脳外交こそが最重要だと強調した。日中平和友好条約のもとで武力行使によらない紛争解決を相互に約束していること、中国が日本と戦争するメリットがないことを冷静に分析すべきだとした。

■ 高市総理「存立危機事態」発言の矛盾——初めて明かした独自解釈

番組では、高市早苗総理が昨年の臨時国会で「存立危機事態」に言及した発言をめぐる独自解釈が初めて公表された。

「高市さんが言っている事態というのは実はそもそも存立危機事態に当たらないような事態を言っていたんですね。これを表で言ったのは初めてです」

小西議員によれば、安保法制における存立危機事態の要件は「国の存立が脅かされ日本国民の生命が根底から覆されるような事態」であり、台湾有事でアメリカの船に乗っている日本人の命が危険にさらされるだけでは、この要件を満たさないという。

さらに高市総理が2026年1月26日の衆院選期間中の討論番組で「あれは邦人避難の話だった」と説明し直したことについても、「誰もそうは聞こえなかった」と指摘した。

■ イラン・ホルムズ問題——日本が和平仲介できる根拠はあるのか?

中東情勢についても小西議員は独自の外交論を展開した。イランの駐日大使と直接会談し、驚くべき情報を得たという。

イランの駐日大使は、首脳・外相レベルで話し合えば日本のタンカーのホルムズ海峡通行について交渉できると小西議員に伝えたという。小西議員は「2回3回確認した」と強調し、4月6日の予算委員会でこの提案を高市総理にぶつけたと述べた。

イランはホルムズ海峡を封鎖しているが、小西議員はこれを国際法違反と断じた上で、平和国家・日本が和平の仲介役を果たすべきだと主張した。

「ホルムズ海峡を1日も早く開通してそこからエネルギー供給を確保するのが日本のまさに死活問題ですから」

■ 記者の目

小西議員は自身の憲法論について、単なる護憲派の感情論ではなく、法律家としての精緻な論理構成に基づいていると主張する。

「分離解釈」「論理解釈」という概念を使って、9条がいかに戦争抑止に貢献しているかを語った。かつ自衛隊明記がなぜ危険かを法的に論じた。

また小西議員は、参院に認められている緊急集会に関し、参院憲法審査会での3年間の「戦略的議論」の中で、一度は自民党内で合意した内容が、時間の経過とともに振出しに戻り、党内の見解が現状分裂していると説明した。それが事実なら、今後の改憲論議を複雑にする要素だ。

台湾有事における個別的自衛権の発動に関し、日本にある米軍基地が他国から攻撃された場合、反撃することは「総理大臣の判断としてありうる」と明言した点も注目に値する。また、高市総理の「存立危機事態」発言に関する独自解釈の初公表もあった。

憲法審査会は衆参同時に開かれている。各党が具体的で実のある議論を進め、そのプロセスを広く国民に公開してもらうことを願う。

 

アーカイブ動画はこちら

【Japan In-depthチャンネル】2026年4月22日(水)19:00~ライブ配信 「改憲の波にどう抗う!? 」 ゲスト:立憲民主党 小西洋之 参議院議員

https://www.youtube.com/live/u56L-0HvvHI?si=QePTpEb8yfaJoseX



■ FAQ

Q.参議院の緊急集会とは何ですか?

衆議院が解散中または任期満了後の総選挙期間中に、国家の緊急事態に対処するため参議院だけで開かれる会議です。日本国憲法第54条に規定されています。改憲勢力は「緊急集会では対応できることに限界がある」として緊急事態条項の新設を主張していますが、小西議員はこの主張を「でたらめな解釈」として参院憲法審査会で3年間にわたり反論してきました。

Q.個別的自衛権と集団的自衛権はどう違うのですか?

個別的自衛権とは、自国が武力攻撃を受けた際に反撃する権利です。集団的自衛権とは、自国と密接な関係にある他国が攻撃を受けた際に、自国への攻撃とみなして反撃する権利です。日本政府は2015年の安保法制で集団的自衛権の限定的な行使を容認しましたが、立憲民主党はこれを憲法違反と主張しています。小西議員は台湾有事でアメリカのために集団的自衛権を発動しないと明言する一方、在日米軍基地への攻撃は日本への攻撃として個別的自衛権で対応しうるとしています。

Q.存立危機事態とは何ですか?

2015年の安保法制で新設された概念で、「日本と密接な関係にある他国への武力攻撃が発生し、国の存立が脅かされ、国民の生命・自由・幸福追求権が根底から覆される明白な危険がある事態」と定義されています。この事態に該当すると政府が判断した場合、集団的自衛権の行使が可能となります。小西議員は高市総理が言及した事態はこの要件を満たさないという独自解釈を番組で初めて公表しました。

 

写真)Japan In-depthチャンネル 2026年4月22日配信 より

ⓒJapan In-depth編集部

 




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