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.国際  投稿日:2026/4/28

アメリカ、日本、そして国際秩序とは『下』 日本の針路


執筆:古森義久(ジャーナリスト/麗澤大学特別教授)

古森義久の内外透視」1066回

 

■本稿のポイント

・トランプ政権の国際秩序への姿勢は、中国・ロシア・北朝鮮・イラン等の反米勢力の拡大を抑止し巻き返すことが基盤である。

・国際法には執行機関がなく、主権国家の言動を拘束する力は乏しい。

・高市政権発足後の中国側の過剰反応は、中国が日本を敵性国家として扱う実態を明示し、日本側の対中認識に「真実の時」をもたらした。

 

国際秩序が激動するなか、日本はどう動くべきか。国際ジャーナリスト古森義久氏が、トランプ政権下の米国の対外姿勢と反米勢力の攻勢を整理したうえで、日本が取るべき針路として日米同盟の強化、独自防衛力の整備、憲法改正、普通の主権国家化、対中政策の正常化――の5項目を提示した。(Japan In-depth編集部)



■反米勢力の攻勢と「国際法」の限界

さてアメリカの現政権が国際秩序に対してこうした姿勢をとることの最大基盤は反米勢力の攻勢への抑止、さらには巻き返しだといえよう。これまで詳述してきたように、アメリカや日本にとっての近年の国際秩序の衰えや崩れは、中国、ロシア、北朝鮮、イラン、ベネズエラなどの反米勢力の拡大によって引き起こされたのである。親米が数歩、引けば反米が数歩、前進するというゼロサムゲームでもあった。

 いまトランプ大統領が実施しているのはその衰退を埋めて、跳ね返すという作業なのだ、その方法の強引な部分には反対派からは「国際法に違反する」という非難の声を浴びせられる。

だが国際法とはなんなのか。いまの世界には世界政府も世界連邦もない以上、完全な拘束力を持つ国際法というのは存在しないともいえる。国連の憲章、あるいは国連管轄下の国際司法機関の判決は現実の紛争のなかではなんの強制力も発揮しない。国際法なる規範の執行機関が存在しないのだ。

中国政府の南シナ海での九段線の主張を違法だとした国連関連機関の国際仲裁裁判所の判決が好例である。中国が自国の歴史だけを理由に南シナ海の海図の九本の断続線を引き、その内部はすべて中国の領海だとする主張を同裁判所は完全に不法だとする判決を下した。2016年7月のことだった。だが中国政府はこの国際機関の国際法に基づく裁定を『一片の紙切れに過ぎない』として完全に無視したのだった。

だから国際法なる存在によって個々の主権国家の言動を拘束することはできないのだ。

 

■日本の針路――日米同盟の強化

さてこうした国際秩序の激動のなかで、わが日本はどう動くべきか。

 第一には当然ながら日米同盟の強化だろう。

日本にとってのいまの危機は中国の軍事がらみの攻勢、威圧である。なにしろ中国は自国の欲求の達成には軍事力の脅しや行使をためらわない軍事国家である。日本の国のあり方を領土の奪取を含めて根幹から変えようとしている敵性国家なのだ。

 中国は日本領土を射程に納める核、非核の各種ミサイルを数百基も配備している。日本側は抑止の手段としても中国に届く兵器はまだにも保持していない。その中国が日本への実際の軍事攻勢に出てこないのは、ひとえに日米同盟による米軍の抑止力のためである。

 幸いトランプ政権も日本との同盟の効用をアメリカ自身の安全保障への貴重な礎石だとしている。トランプ、高市両首脳の保守主義を共通項とする絆もすでに堅固となった。だが日本側の識者にはトランプ大統領をとにかくけなす主張が多い。最近まで外務省幹部を務めたような人物が「トランプ氏はとにかく無能なのだ」とか「トランプ氏は日本にとっても頼れない」などという断定を頻繁に口にする。

 だがトランプ大統領は1期目から現在まで一貫して日本との同盟の保持と強化を重視している。個人のレベルでも安倍晋三首相の影響もあって、日本には友好的なのだ。そのわかりやすい例証はトランプ氏の長年にわたる北朝鮮による日本人拉致事件の解決への支援である。だから日本側では対米同盟の強化にはトランプ政権の対日政策についての客観的で正確な認識が必要である。

 

■独自防衛力の強化と専守防衛の制約

 第二には日本独自の防衛力の強化である。

日本の防衛力は脅威となる中国の軍事能力とくらべると、あまりに弱小である。日本は自国の防衛のため、さらには日本独自の対中抑止力を強めるために、アメリカへの依存とは別個に自前の防衛力を強めることが緊急の課題だろう。

日本と中国との全面戦争などという最悪のシナリオの回避は米軍の抑止力に頼れるにしても、米軍の介入の期待できない局地戦争や限定攻撃の可能性は否定しきれない。そんな事態では日本独自で中国と戦うという危険も想定できるのだ。

たとえば中国が領有権を主張する日本の尖閣諸島への局地的な電撃攻撃をかけてきたような場合、米軍の支援は即時には期待できない。日本の自衛隊だけが短期にせよ、中国の人民解放軍と戦闘せざるを得ないことになる。そんな短期かつ局地の小規模な戦闘でも日本独自の戦闘能力はきわめて低いだろう。

日本の最新の防衛費は年間約9兆円となる。この金額はアメリカの国防費の17分の1、中国の国防費の5分の1ほどである。ただし中国の国防費はあくまで公式発表分だけで実際にはその2倍近い額だとされる。外国からの兵器の調達の経費などは国防費に含まれないという独特のシステムなのだ。

そのうえに日本の防衛政策には「専守防衛」という異端の自縄自縛の制約がある。兵器類も日本の領土や領海を防衛する性能に限られ、攻撃をしかけてくる敵国の基地などを抑止でも反撃でも攻撃できる能力があってはならないという奇怪な制限なのである。

 

■憲法改正と「普通の主権国家」への転換

第三はやはり憲法改正である。

日本はアメリカの占領軍が起草して押しつけた現行憲法により自国の防衛も含めて軍事能力の保持を禁じられた。だから国家の安全保障とか自国防衛に関しては世界中の他の主権国家とくらべるとなお異端のハンディキャップ国家なのだ。このままでは普通の主権国家としての自国防衛やアメリカとの緊密な同盟に必ず支障が出てくる。

 私は日本国憲法作成の実務責任者だったチャールズ・ケーディス元陸軍大佐にニューヨークで長時間、インタビューした体験がある。その際に日本占領中に作った日本憲法の最終の目的はなんだったのかと問うてみた。

彼の答えは「日本を無期限に非武装にしておくことだった」と淡々と答えた。

 この憲法が戦後の日本では多数派の国民に支持され、経済繁栄を早期にもたらすなどお実益があったことも否定できない。だが日本は自国の防衛も含めて軍事力の保持も行使もできない国とされたのだ。その後に憲法九条の解釈の変更などで自衛隊が誕生した。だが憲法による日本の防衛力、軍事力の保持の禁止はそのままなのである。前記の専守防衛という奇妙な制約もこの憲法の規定の産物なのだ。

 トランプ氏が大統領に就任する前に批判的に述べた『いまの日米同盟ではアメリカは日本が攻撃されれば守るが、日本はアメリカが攻撃されてもなにもしない』という片務性の指摘も日本側のこの特殊な憲法の呪縛に起因している。

 

 

 第四は日本を普通の主権国家にすることである。

 現在の日本は他の通常の独立国家にくらべて防衛に限らず、異様な部分が多々ある。たとえば日本国内での外国のスパイ活動は違法ではないという状態である。そんな独立国家は他に類例がない。外国政府の秘密工作員が日本の国家機密を盗んだり、政界に政治工作をしかけたりしても、その行為自体は違法とされない。それどころかスパイの禁止法、防止法を作ろうとする側が逆に大手メディアなどによって『国民の思想や言論の自由を弾圧する』と非難されてしまう。

 

 国際的な情報を集め、同時に日本に対する外国の諜報機関の活動を監視するインテリジェンス機関が正規の組織として存在しないことも戦後の日本の特殊性である。多様な政府機関に個別のインテリジェンスを扱う組織こそあるが、政府統一の機関はない。アメリカの中央情報局(CIA)の職員から「日本側との折衝では同じ情報を複数の機関に何度も重複して伝えねばならないことが多い」という不満を聞いたことがある。

 その他、いまの日本には国家の主権を明確に認め、その保護や防衛を法律で定めるという国際基準では普通の領域に欠落や欠陥が多いのである。

 

■対中政策の正常化――「真実の時」を迎えた日本

 第五は中国への対処の正常化である。

今後の日本とって国家の根幹を揺らがせるほとの圧力や脅威を及ぼしてくる国は間違いなく中国だろう。高市早苗首相の国会での発言に対して中国が牙をむくように多方面での日本への糾弾を展開してきたことは中国の真の姿を日本国民の多数派にまざまざとみせつけるという効果があった。中華人民共和国という国家が日本を本当はどうみているかを国際的にも明示する効果でもあった。

中国は日本の国家や国民のあり方を否定し、日本を自国の覇権下に置こうと意図している敵性国家なのだ。だがこれまでは日本側ではその中国の敵性への言及を避け、『戦略的互恵関係』などという意味のない用語で中国の反日の真実を直視することを避けてきた。だが中国側は高市政権への悪口雑言や理不尽な貿易規制などでその真実を日本側一般にきわめてわかりやすく見せてくれたのだ。

だから日本側でも経済的な利得のために中国と関与してきた実業界、各種企業も一気に警戒を強めたようだ。またレアアースのような特殊品目での中国への過度な依存は日本にとって国難をももたらすという危険までが明示された。

いまの日本が中国のとの経済交流などを全面的に断つことはもちろんできない。だが中期、長期の対中関与には経済だけに限っても大きなリスクが潜在していることは明白となった。中国との関係はその意味でいまや『真実の時』を迎えたともいえるだろう。

 

(終わり)

#この記事は日本戦略研究フォーラムの2026年4月の季報に掲載された古森義久氏の論文の転載です。

 

トップ写真:2026年1月15日- ピート・ヘグセス米国陸軍長官(右)は、小泉進次郎防衛大臣(左)をペンタゴンに迎えた。

出典:Photo by Alex Wong/Getty Images

 




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