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.国際  投稿日:2015/8/16

[大原ケイ]【米大統領選、暴言トランプ旋風止まず】~真夏のホラー、まさかの大統領が生まれかねない?~


大原ケイ(米国在住リテラリー・エージェント)

「アメリカ本音通信」

執筆記事プロフィール

ドナルド・トランプと聞いて、どんなイメージを思い浮かべるだろう?ニューヨークの不動産王として、ヤンキースの選手らセレブが住む高層マンションのオーナーだったり、目抜き通りフィフスアベニューにそびえる金ピカのトランプタワーだったりするのではないだろうか。

あるいは10年前に一世を風靡したリアリティー番組『アプレンティス』で、You’re Fired!(お前はクビだ!)と毎週威勢のいい怒号を飛ばしていた姿だろうか。それとも、どうやって造形されているのかわからない不思議な髪型の男性だろうか。

地元ニューヨーカーにとっては、3度の略奪泥沼結婚&離婚に、歳下のモデル崩れとの数々の浮名、ゴルフ場にカジノをオープンさせる度にゴシップ欄を賑わしてきたつまらないお騒がせセレブなのだが、2008年にオバマ大統領が就任した頃から、政治的野心を持ち始めたのか、ここ数年は、バラク・オバマは実はケニア国籍でアメリカ人ではないなどと主張する「Birther バーサー」と呼ばれる陰謀論をブチ上げる“珍獣”扱いだった。

彼が起こす一連の騒ぎは『アプレンティス』放映中は、視聴率をとり、保守チャンネルで知られるルパート・マードックのフォックス局との契約を更新するためのギミックと理解されていたが、その番組も打ち切りとなった今、どうやら自ら大統領に、少なくとも共和党の大統領候補として指名される野心があるらしい。

共和党の幹部の間では、民主党候補指名は確実と言われるヒラリー・クリントンに対抗できうる候補として、早くからジェブ・ブッシュに白羽の矢を立てたがってきた。だが、共和党中道派の彼では、いくら父親や兄から譲り受けたネオコンで周りを固めても、「プライマリー」と呼ばれる候補指名選挙で、お茶会系保守派の支持は得られず、そこを10数人もの立候補者が争い、ディベートをするにも舞台の上に収まり切らない珍事となった。

以下、反響が大きかったトランプの爆弾発言を2つ紹介すると、

 

1. 改定が叫ばれて久しい移民問題について:「メキシコから違法に入国しているのはレイピストや麻薬の売人など犯罪者ばかり」

その結果:彼がスポンサーとなっている「ミス・ユニバース」コンテストから南米代表が何人も棄権、コマーシャルのスポンサー企業が離脱、トランプの名を冠したビジネススーツなどを販売していた大手デパート、メイシーズもライセンス契約を打ち切った。

2. 米海軍のパイロットとしてベトナム戦争時に捕虜となり、英雄扱いのジョン・マケイン上院議員(2008年、共和党大統領候補でオバマに敗れた)をして「彼はヒーローじゃない、俺は敗者は嫌いだ)とこき下ろした。

その結果:同じく共和党の指名戦に再度名乗りを上げているリック・ペリーテキサス州知事ら、他の候補者から袋叩きに合った。(彼を批判しなかった候補者は同じく極右保守のテッド・クルーズ、スコット・ウォーカーのみ)

 

ここまでヒドイ罵詈雑言にもかかわらず、最初の共和党候補者によるディベートに向けて支持率が急上昇、意識調査で3%にも引っかからない候補者が多い中で、ダントツ20%以上の人気となっていた。

このことに慌てた共和党幹部は、ディベートでもまずトランプをターゲットにきつい質問を当ててきたのだが、それさえも彼の癇に障ったらしく、後日のツイートで司会を務めた女性アナウンサーを指して「彼女は小物。俺の答えに怒り狂って、目からも“あそこ”からも血が噴き出していただろう」とつぶやいたものだから、人種差別、帰還兵蔑視に、今度は女性差別発言でこれまた上を下への大騒ぎとなり、フォックスTVの番組総責任者であるロジャー・エイルスが自らトランプと話合うまでになった。

傍から見て呆れるしかないような発言続きで、どうにもこうにも「謝らない」トランプを支持しているのはズバリ、彼と同じことを感じて怒りを感じているアメリカ中の白人男性に他ならない。トランプもそのことを知りながら(人格はさておき、優秀なビジネスマンであるのだろうし、決して頭の悪い人ではないので)、そしてフォックスTVもそれを利用し、ディベートを2400万人が視聴という驚異的な数字を叩き出した。

誰がどう批判しても謝りもしなければ、支持率も下がらない、この珍獣の暴走に共和党の幹部や中道派は恐れおののいている。既にクリントン上院議員で候補がほぼ決まっている民主党から見れば、これほど面白い対岸の火事もないだろう。保守系のネットメディアは「もしかしたら、トランプはクリントン候補が共和党の予備選を引っ掻き回そうとして送り込んできた刺客ではないのか?」と半分本気で疑いだしているのも一興かな。

だがそうではない。ドナルド・トランプは、こういう偏見に凝り固まった保守派を「お茶会」という党内党で奨励し、彼らに母屋を取られそうになっているに過ぎない。そして無理矢理にトランプを大統領選から降ろそうとすれば、彼は、共和党ではなく独立候補として出馬するという懐刀をチラつかせている。そうなれば共和党が大統領選で勝てる見込みは全くなくなる。アメリカ各地でも異常気象が続き、暑い夏になっているが、共和党の人たちは、さぞ肝の冷える思いをしているだろう。

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