[朴斗鎮]【北朝鮮による安倍総理罵倒の狙い】~拉致問題での譲歩と韓国対日融和路線へのけん制~
朴斗鎮(コリア国際研究所所長)
北朝鮮国防委員会政策局のスポークスマンは8月19日、安倍総理が発表した14日の「戦後70年談話」を糾弾すると共に、安倍総理個人に対しても口汚く罵倒する「談話」を発表した。「談話」では、「傲慢無礼な安倍」「罪悪を隠ぺい、縮小、認めなかった安倍」などと呼び捨てにし、「安倍は敗戦国の首長として、申し訳ないと頭を垂れるのではなく、まるで鎌首を持ち上げて毒を吹きつける日本産毒蛇そのままだった」とこれまでにはない下品な表現で罵倒した。
14日に北朝鮮外務省スポークスマンが発表した談話では、「安倍談話」に対する非難はあったものの、安倍総理個人を名指しした非難がなかっただけに、その対応急変の背景と狙いに関心が集まっている。
この背景としてまず考えられるのは、7月から8月にかけて進められた「日朝協議」で、日本側が「拉致問題優先」を譲らなかったことがあると思われる。特には8月6日のマレーシア・クアラルンプールでの日朝外相会談で、「拉致優先」を主張する日本側と「その他懸案との並行推進」に固執する北朝鮮側との間で接点を見いだせなかったことが大きかったようだ。また、韓国の朴槿恵大統領が「安倍談話」に抑制的であったことも関係しているだろう。
ではその狙いは何なのか?
まず、拉致問題での安倍総理に対する「譲歩」を迫ることにある。いま北朝鮮は、「ストックホルム合意」(注1)から「降りることができなくなった」安倍政権が「安保法制問題」で弱体化するのを待っている。「拉致優先でなくてもよいから」と助けを求めてくるまで待とうというのだ。今回の国防委員会政策局談話で、北朝鮮側からの歩み寄りはないとの強い意思を示すことで安倍総理の「譲歩決断」を引き出そうとしているのだ。
もう一つの狙いは、朴槿恵大統領の対日融和策の流れをけん制することにある。従軍慰安婦問題で韓国の親北朝鮮勢力を焚き付けて反日を煽り、日韓分断を図ってきた北朝鮮は、韓日接近で韓米日の結束が強まることを恐れている。今回の「国防委員会談話」で強烈な安倍叩きを行ったのも「抑制的」に対処した朴大統領の姿勢を「親日への傾斜」と印象付け、「挺対協(韓国挺身隊問題対策協議会)」などによる反朴闘争を強化させようとするものだ。
独りよがりの民族主義を利用して民主主義勢力の分断を図るのは、北朝鮮の一貫した政策である。大局的見地に立たず、民族的感情に押し流されれば、北朝鮮のこうした策にはまることになる。今回の北朝鮮「国防委員会談話」にもそういった仕掛けが読み取れる。
(注1)ストックホルム合意
5月26日から28日まで,スウェーデン・ストックホルムにて開催された日朝政府間協議における合意。(日本側代表:伊原純一アジア大洋州局長,北朝鮮側代表:宋日昊(ソン・イルホ)外務省大使)