文谷数重(軍事専門誌ライター)
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本日午後、横浜市磯子のJMU横浜造船所において護衛艦
「かが」
が命名・進水式を迎えた。今年3月に就役した「いずも」
型護衛艦2番艦にあたる。進水後は岸壁での艤装に入るが、
平成29年3月に完成・就役する見込みである。
「かが」は旧加賀国(現石川県)に由来する名前であり、旧海軍の軍艦加賀を襲名した形である。加賀は当初戦艦として計画され、ワシントン条約によって空母に改装された経歴を持つ。日華事変での日本海軍主力であり、ハワイ攻撃等、太平洋戦争初期での大活躍が知られている。海自はその活躍にあやかろうと艦名を継承するものである。
本艦は実質的にヘリ空母である。海自はDDH(ヘリコプター搭載駆逐艦)として分類している。だが軍艦としては駆逐艦に相当する武器を持つものではない。戦闘能力は搭載ヘリコプターに依存している点で、ヘリ空母である。
その能力もヘリコプター運用、旗艦としての指揮通信能力に焦点が置かれている。進水後の艤装としても、攻撃的武器は自艦防御での最低限に水準に抑えられている。飛来する敵ミサイルを撃ち落とすための小型ミサイルRAMや機関砲CIWSに限定されており、駆逐艦のように積極的に敵潜水艦や航空機に対抗する軍艦ではない。
2年後の本艦就役により、日本は複数のヘリ空母を保有する体勢となるということだ。「いずも」型の2隻体勢、あるいは小さな「ひゅうが」型2隻を足した計4隻体勢となる。
見方によっては、これは中国海軍力に対しての有利でもある。中国海軍は正規空母であるものの、実質は試験用の空母を1隻しか持たない。一品下るヘリ空母であっても2-4隻を保有することは、外見上での優位でもある。2隻建造中とされる中国本格的空母が就役するまでは、本艦は空母戦力での日本優位を示す道具としても利用できるだろう。
■ 格納庫に入れるヘリが足りない
ただし、海自ヘリ空母の整備にも問題がある。「いずも」型、「ひゅうが」型を合わせた4隻体勢の完成により、海自水上艦隊のヘリコプター搭載可能数は従前から飛躍的に向上する。だが、搭載すべきヘリコプターの数は以前とほとんどど変わらないためだ。
本艦が就役する平成29年度末、海自護衛艦のヘリ搭載能力は113機程度* となる。転籍練習艦も含め、搭載可能な護衛艦は50隻あり、その格納庫能力で計算するとそうなる。
しかし、搭載できるヘリはいまのところ85機しかない。しかも10機程度は津軽海峡防備等の陸上運用分である。実際に搭載できるヘリの数は75機程度である。海自は護衛艦に格納庫を113機分作ったが、肝心の搭載ヘリは75機しかないということだ。これはあまりにも少ない。** 格納庫を作っても、搭載ヘリに苦労するようでは「仏作って魂入れず」のようなものだ。
自衛隊は護衛艦のヘリ搭載能力と、搭載用ヘリコプター数のミスマッチを解決しなければならない。SH-60Kのような新鋭ヘリは飛行中には、水上艦とほぼ同じかそれ以上の能力を発揮できる。このため、ヘリ増勢は護衛艦の数を増やしたことと同じ効果を見込める。水上艦保有数で対中劣勢になりつつある海自にとって、外洋で中国に優位に立つ唯一の方法である。また、今後より本格・高度化する国際貢献のためにも増勢が求められる戦力でもある。優先順位は高く、戦力余剰な陸上戦力での、戦車や装甲車の無意味な新型更新をやめてでも実施しなければならない施策である。
また、簡易型ヘリやUAVの導入も必要になる。海自はヘリ空母用に大型ヘリを新規導入するが、当然、高価であり取得数も限定される。このためヘリ不足問題の根幹的な解決とはならない。米海軍MH-60Sのような雑用を負担する簡易型ヘリの並行導入や、MQ-8B/-CのようなUAV(ドローン)の並行調達も必要である。
* 計算のやり方で変わるが、拙記事での計算法にあわせた。詳細は拙記事、文谷数重「海自『艦載ヘリ』重点増強案!」『軍事研究』593(ジャパン・ミリタリー・レビュー,2015.8)pp.106-117.
** 海自は、護衛艦は常にヘリを搭載するわけではなく、任務に応じて、必要な数のヘリを派遣する方法をとったっため、工夫で今まではヘリコプター繰りは破綻しなかった。だが、今後はヘリコプター不足が表面化するだろう。