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.政治  投稿日:2015/7/20

[清谷信一]【自衛隊を縛る法律の改正が先だ】~安全保障論議の前に 1~


 

清谷信一(軍事ジャーナリスト)

執筆記事プロフィールWebsiteTwitter

集団的自衛権の限定行使を容認する安全保障関連の法案が衆議院を通過した。筆者は国会の「論戦」を冷めた気分で見ていた。それは与党も野党も自衛隊の現実をみていないこと、我が国の政府や行政機関に遵法の精神が乏しいからだ。このような現状で議論をするだけ不毛である。

自衛隊は通常の軍隊が縛られないような、多くの法律によって縛られている。それらの規制の撤廃や緩和の多くは改憲も憲法解釈の変更も必要ない。小泉内閣で有事法制が整備されたが、それでも多くの問題が残っているが、その民主党時代も含めて政府、与党はこれらの問題を解決する努力を行ってきた。率直に申し上げて政治の怠慢である。

このような一見地味だが、さして難しくもない法改正を放置して、憲法解釈云々をするのは草ぼうぼうで穴だらけの、荒れ放題のグラウンドの整備もしないで、いきなり野球の公式試合をやるようなものだ。

自衛隊は多くの通常の法律を超越する軍隊とは異なり、法律的には単なる行政機関に過ぎないからだ。消防や警察ならば可能な活動も自衛隊は行えない事が多い。一般人が他人の家屋に放水して水浸しにすれば、器物損壊などの罪に問われるが、消防がそのような罪に問われることはない。だが自衛隊が自らの職務を遂行しようとすれば、法的な規制が多く、誠実に任務を遂行しようと思えば「犯罪集団」になってしまうのだ。

率直に申し上げて自衛隊はまったく戦時や実戦を想定してない。このため自衛隊は現実離れしたファンタジーの世界にいるようなものだ。法的に自衛隊が戦闘行動を行うのは極めて困難である。そのため自衛隊はあたかも戦闘ができるかのような、他国には全く通じない、組織内にしか通じない理屈をでっち上げて、あたかも軍隊のように振舞っている。平和ボケである。自衛隊が想定しているのは実戦ではなく、都合のいい演習をこなすことだけだ。

端的に申し上げて「自衛隊の常識は軍隊の非常識」である。

そして政治家たちは軍隊と自衛隊の大きな差も知らず、軍事に関して「専門家」である自衛隊の「ご説明」を真に受けて国防の議論をしている。これで地に足のついたまともな議論が出来るはずはない。つまり、国会での議論は現実性の乏しい論拠を元にした空理空論にすぎない。

自衛隊の持つ法的な問題の一例を挙げてみよう。

自衛隊の衛生要員は、他国の衛生兵と異なり、看護師と同様な法的な地位にある。このため医官(軍医)の指示がなければ、傷口の縫合のような簡単な手術は勿論、注射、投薬も行えない。衛生要員は一個中隊あるいは中隊を基幹とする部隊(約120~150)名程度に1~3名しかいない。通常医官は派遣されない。つまり最前線で戦闘が行われ、負傷してもまともな応急処置は受けられない。米軍なら戦死が1名で済むところ、自衛隊ならばその何倍あるいは1桁多い損害を出す可能性が極め高い。

見本市で展示されたメディック用品1

陸自の個人用のファースト・エイド・キットにしても国外用と国内用があり、国外用がポーチ含めて8アイテム、国内用はポーチ含めて3アイテム、内容は止血帯と包帯が各一個しかない。とても実戦を想定しているとは思えない。防衛省や陸幕は戦時には国内用に国外用と同じアイテムを補充するといっているが、それは備蓄が殆どなく、流通在庫を当てにしている。これらのアイテムの多くは輸入品であり、使用期限もあるので業者は在庫を大量に抱いてはいない。戦時に補充するなど机上の空論である。これで実戦が出来るわけがない。この辺りの事情は以下の記事を参照して欲しい。

 

【陸自ファースト・エイド・キットが貧弱な件 1】~陸幕広報は取材拒否~

http://japan-indepth.jp/?p=17056

【陸自ファースト・エイド・キットが貧弱な件 2】~中谷防衛大臣の答弁に違和感~

http://japan-indepth.jp/?p=17059

 

自衛官を国際貢献で犬死にさせていいのか

海外派遣の前に考えるべきこと(下)

http://toyokeizai.net/articles/-/73521

<自衛隊員の命は、ここまで軽視されている

海外派遣の前に考えるべきこと(上)

http://toyokeizai.net/articles/-/73492

米軍用の止血帯。先端が赤く着色されている。

陸自では途上国の軍隊でも当然のように装備している、装甲野戦救急車すらまったく装備していない。1両たりとも持っていないのだ。それでこれまでもPKOなどの任務に付いている。全く正気とは思えない。

幅の広い包帯やガーゼは止血に必要だ提供:米陸軍7393521002_db5434125e_z

実戦で死傷者がでることを想定していないのはゴッコにすぎない。戦争ごっこが「常識」の組織からの「ご説明」を鵜呑みにした政治家が、実際の戦争や戦闘についての議論を行っても虚しいだけで、まともな結論がでるわけもないだろう。戦争で死者やけが人がでることを想定してない組織が、国会で議論されてきたような「実戦に投入されればどうなるのか。子供でも想像が付くだろう。

兵站を後方支援と称するのは買春を援助交際とか、敗戦を終戦と言い換えるような、自分で自分をだます行為以外のなにものでもない。兵站活動は軍事行動そのものである。「安全な後方」で行うならば「軍事活動ではない」。だから、仮に「後方支援中」に敵対勢力につかまっても「捕虜ではない」と外務大臣が答弁したが、国際的には全く通じない。

このような発言は敵対勢力に「自衛隊は捕虜扱いしなくていい」、と言っているのも同然だ。ジュネーブ条約で原則的に軍隊以外の交戦行為は禁じられているが、「捕虜扱いしなくていい」なら、捕まった自衛官の権利は保証されない。単なる「犯罪者」として処刑されても文句は言えない(言えるだろうが先方は気にしない)。不思議なことにマスメディアは殆どこのことを報道も議論もしていない。

*写真1:見本市で展示されたメディック用品。

*写真2:米軍用の止血帯。先端が赤く着色されている。

*写真3:幅の広い包帯やガーゼは止血に必要だ。

【国連加盟がナンセンスなわけ】~安全保障論議の前に 2~  に続く)

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