[大野元裕]【安保法制、武器等防護規定に問題】〜自衛隊員にリスク負わす可能性も〜
大野元裕(参議院議員)
|執筆記事|
参議院で、安保法制に関する議論が、連日行われている。議論の焦点はもっぱら集団的自衛権の行使に偏っているようだ。しかし、他にも問題があるものが多く、その上、法案が難解にして出来が悪い。そこで今回は、自衛隊法改正による武器等防護を取り上げたい。自衛隊法が定める現行の武器等防護の規定は、自衛隊が保有する武器等は日本の防衛力を構成する重要な物的手段であり、これが奪われれば大きな危険となりかねないことから、防護のために武器の使用を自衛官に認めるというものである。
この武器等防護のための武器使用には、武器を相手の攻撃から回避するための義務が課され、それでもなお守れない時に使用が許されている。当初は攻撃力のある、いわゆる「武器」に限定されていたが、その後、レーダーなども対象になった。今回の自衛隊法95条に第二項を追加する改正では、自衛隊と連携して我が国の防衛に現に従事している米軍等の武器をも日本を守る防衛力を構成する重要な要素の一つであるとみなし、平時において守れるようにしようとするものである。
この改定、レーダーに防護の対象が拡大した際のように範囲が拡大しただけではない。質的に我が国に対するリスクを高める可能性があると同時に、自衛隊員を国内法で裁かせる可能性もある。
具体的に見てみよう。第一に、米軍の武器には前述の「回避義務」が課されていない。米軍が回避行動をとらずに攻撃され、自衛隊員が武器を使用すれば、攻撃国との交戦につながる可能性が高い。それは、自衛隊の武器への攻撃の場合とは質的に異なるのである。
第二に、この武器使用権限は、そのまま放置すれば我が国の安全に深刻な影響を及ぼしかねない重要影響事態時(現行法で言う周辺影響事態)でも適用可能であることだ。例えばこのような事態の際に、周辺地域で米軍哨戒機とともに自衛隊機が監視活動を行っている。この米軍機に攻撃が仕掛けられれば、米軍機が回避行動を取らずとも、友軍たる日本の自衛隊機は、武器を使用して米軍機を守ることになるかもしれない。放置すれば我が国の安全に深刻な影響を与える事態において自衛隊機が応戦すれば、それは、遠い地域における事態よりも、より一層深刻な全面的な紛争に陥る可能性をはらんでいる。
第三に、この武器等防護のための武器使用の主語が自衛隊員個人であり、自衛隊員個人がその責任を問われる可能性がある。そもそも自衛隊員は警察機関と異なり組織で動くものであり、通常は上官の命に従っており、個人で武器を使用する判断を迫られるケースが限定的である。また、武器使用が限定的な被害にとどまらず、戦争を招いたり、国益を大きく損なう場合も考え得る。だからこそ、自衛隊員個人の武器使用が認められているPKOや邦人輸送のケースなどの場合は、部隊司令官の関与が義務付けられているのだ(自衛隊法89条第二項の準用)。仮に第二のケースのような事態を一個人が招く場合、その自衛隊員は責任を取り得るのか。しかし、武器等防護のための武器使用の場合、その導入の経緯から、このような制限がない。かりに良かれと判断した隊員個人の友軍に対する応戦という行動が、我が国を大規模な紛争に導く場合、この個人が責任を取らされるのであろうか。
第四に、自衛官個人は刑法上の責任を問われる可能性がある。平時の武器使用は、違法性を阻却する理由を必要とする。この違法性を阻却する根拠は法律に求められることとなるが、例えば警戒監視措置については、一義的には防衛省設置法に『調査・研究』に法的根拠があるために、直接警戒監視を米軍と行う根拠となる法律がない。それどころか、例えば南シナ海での警戒監視などの特定の活動や地域の指定は、防衛大臣命令付属書によるもので、法律にすらなっていない。そしてこの命令及び付属書は秘密指定がかけられているため、隠されて見えない。
武器等防護のための武器使用は、極めて使い勝手のよい項目で、今回の改訂により、海外に展開する自衛隊が、米軍等演習等を含めた機会に互いを守り合うための信頼醸成をするためにも用いることができるようになるだろう。しかし、最悪のケースをも想定し得る条項であり、且つその場合、自衛隊員にリスクを負わせる可能性がある。使い勝手が良いからと言って、このようなリスクを放置する法案は、果たして責任ある立法府の選択肢として適切であろうか。
※トップ画像:出典 Japan Ground Self-Defense Force facebook