与党過半数割れで示唆されるポピュリズムの影
宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)
宮家邦彦の外交・安保カレンダー 2024#44
2024年10月28-11月3日
【まとめ】
・ 自公連立の過半数割れを引き起こし、新興勢力の台頭を示した
・「れいわ」や新興保守政党が議席を伸ばし、現状不満層の支持が浮き彫りになった。
・ 政治の安定に向け、議員はポピュリズムに流されず統治を重視すべきである。
10月27日の日本の総選挙の結果は、ある意味で、多くの読者にとって予想されたものではなかったか。筆者の場合、投票4日前までは、自公連立が何とか(つまり追加公認も含め)ギリギリで233の単純過半数を確保するのではないかと、勿論、確信はなかったのだが、思っていた。
しかし、その後、自民党が非公認候補の属する支部に対しても、公認候補と同額の2000万円を支給した、との赤旗の報道が出るに至り、もうこれで過半数すら難しいだろうと「匙を投げ」た。選挙戦最終段階でのこうした「判断ミス」は致命的だっただろう。しかし、今回の大敗の原因は「政治とカネ」だけではなかったと思う。
先週は今回の選挙結果が、筆者の「仮説」を証明するか否かに関心がある、と書いた。その「仮説」とは、欧州の「極右」躍進と米国のトランプ現象に似た状況が実は日本でも起きているのでは、というものだ。IT革命と「新自由主義」グローバル化経済に乗り遅れた「忘れ去られた」人々の不満と怒りは日本にもあったと思うからだ。
でも、やはり、日本は欧米とは違った。幸い、少なくとも今の日本に欧州の「極右」勢力やトランプのような天才的ポピュリストはいなかった。多くの有権者は立憲・国民の両民主党を「受け皿」に選んだのだろう。されば、日本社会の分断は、欧米のそれよりも、まだ深刻ではないということなのか?そこは、正直、良く分からない。
それでも、日本の内政が「欧米化」する可能性はあるだろう。今回筆者が注目したのは、「れいわ」が9議席と、2つの新興保守政党が6(3+3)議席を獲得したことだ。欧州で「忘れ去られた」人々の不満と怒りが「極左」と「極右」に流れたことを考えれば、中長期的には、日本でもこうした傾向が進む可能性はあるのではないか。
いずれにせよ、今日本に必要なのは、現役の国会議員が「ポピュリズム」の誘惑に負けず、決して人気は取れないかもしれないが、「統治」の重要さを再認識して、新たな政治的安定に向け議論を尽くすことだろうと思う。この点については今週の産経新聞とJapanTimesにコラムを書いたので、お時間があればご一読願いたい。
続いては、いつもの通り、欧米から見た今週の世界の動きを見ていこう。ここでは海外の各種ニュースレターが取り上げる外交内政イベントの中から興味深いものを筆者が勝手に選んでご紹介している。欧米の外交専門家たちの今週の関心イベントは次の通りだ。
10月29日 火曜日 フィンランド大統領訪中、首脳会談
北欧首脳会議(アイスランド)
ロシア外相、ウズベキスタン訪問終了(2日間)
10月30日 水曜日 ボツワナで総選挙
ブラジル、G20教育大臣会合を主催(2日間)
10月31日 木曜日 米韓2+2会合
ミンスク・ユーラシア安全保障会議始まる(ベラルーシ)
ブラジル、G20保健大臣会合を主催
11月1日 金曜日 国連総会、人権委員会の年次報告を審議
11月3日 日曜日 モルドバで大統領選挙決選投票
11月4日 月曜日 インターポール総会(スコットランド)
中国全人代常務委員会(8日まで)
最後はいつものガザ・中東情勢だが、「いつ行われてもおかしくなかった」イスラエルの対イラン大規模直接報復攻撃がようやく(?)実施された。攻撃対象は、予想通り、軍事施設のみのようで、核施設や原油施設ではなかった。当然ながら、イラン側は「攻撃は限定的だった」としており、更なる報復攻撃を行う兆候はなさそうだ。
今回攻撃対象にはイランの弾道ミサイル・燃料の製造施設が含まれている。情報通によれば、かなりの数の弾道ミサイルが破壊されたというが、真偽は不明だ。いずれにせよ、イラン側防空網はイスラエルによって完全に封じられたらしい。今後もイスラエル側の航空優勢が続けば、イラン側も報復攻撃など容易にはできないだろう。
ガザなどパレスチナ方面で続く戦況に大きな変化はない。こうした状況は少なくとも11月5日まで続くだろうな。今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きは今週のキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。
写真)衆議院選挙の結果を見守る石破茂自民党総裁と自民党幹部ら 2024年10月27日 東京千代田区自民党本部
出典)Photo by Takashi Aoyama/Getty Images