[古森義久]【日米柔道交流、大きな効用】~東海大柔道部OB、ワシントンDC訪問~
古森義久(ジャーナリスト・国際教養大学 客員教授)
「古森義久の内外透視」
日本とアメリカの交流は多様をきわめるが、柔道交流の効用が大きいことは意外と知られていない。かつての世界の柔道覇者で現在は東海大学副学長の山下泰裕氏が理事長を務める国際柔道普及NPOの「柔道教育ソリダリティー」が10月中旬に東海大学柔道部OBの奥村達郎選手をアメリカの首都ワシントン地区に指導のために派遣したことはその代表例だった。奥村選手は全国学生大会団体戦での東海大学連続優勝の主力となり、卒業後に同大の大学院に進んでも全日本選手権個人戦に出場した気鋭の若手柔道家である。今回は首都地区のアメリカ海軍士官学校柔道部とジョージタウン大学ワシントン柔道クラブの両方を訪れ、米側の柔道家たちと練習し、指導をした。なかでも後者は総合大学の柔道部と全米でも名門の町道場が合体したクラブで、奥村選手が2週間、訪問するとあって、近郊の他のクラブからも有段者たちが集まってきた。
実は「柔道指導ソリダリティー」からジョージタウン大学ワシントン柔道クラブへの指導者派遣にはもう10年以上もの歴史がある。奥村選手は合計6日間、各2時間の練習に参加し、内股、大外刈、体落などの投げ技や抑え込み、絞めなどの固め技の基本に始まり、実際に自由に攻撃しあう乱取り稽古まで、多彩な指導を展開した。
同クラブ側は子供、学生から社会人までアメリカ柔道らしい多様な男女が毎回、50人ほど加わって、奥村選手の指導を受けた。社会人には医師、弁護士、軍人、エンジニアなど幅広い職業の男女がいて、みな同選手とともに激しく汗をかいた。南米のコロンビアでチャンピオンとなり、現在はワシントンで働くエドウィン・バレホ選手は最も激しく奥村選手に乱取りで挑んだが、何度もきれいに投げられて日本柔道の切れに感嘆していた。
異色だったのは目の不自由な女性ローリー・ピアース選手の参加だった。同選手はアテネのパラリンピックの女子柔道で銀メダルを獲得したベテランで、奥村選手の来訪を知り、近郊のメリーランド州の所属クラブから駆けつけてきた。この日の練習ではピアース選手は盲導犬を道場内に待たせて、奥村選手に技の手ほどきを受けていた。
奥村選手は「柔道がアメリカ社会のこれほど多様な層の人たちに普及していることには感銘した。日本の柔道の技や心を少しでも伝えたとすれば、うれしい」と語っていた。
※トップ画像:中央の黒帯白い柔道着が奥村達郎選手、組み合っているのがローリー・ピアース選手。 ⓒ古森義久