[西村健]【ラグビーW杯、西高東低を変えるきっかけに】〜東京都長期ビジョンを読み解く! その32〜
西村健(NPO法人日本公共利益研究所代表)
「西村健の地方自治ウォッチング」
国立競技場の建設問題、五輪のエンブレム問題で揺れ続けた東京五輪。ようやく騒動も一段落した穏やかな秋の季節。少しばかり肌寒くなった今日この頃。人々を元気にさせる出来事があった。ラグビー日本代表の活躍だ。五郎丸歩選手のキック、エディ・ジョーンズヘッドコーチのリーダーシップなど一躍話題をさらい、ラグビーの価値を世間に知らしめた。こうした盛り上がりにラグビーワールドカップを新たに建設される国立競技場で開催できないことを非常に残念に思っている人も多いだろう。ただし、国立競技場ではなく、東京スタジアムでラグビーワールドカップは開催されるのだ。
東京におけるラグビー。まずはその舞台装置を見てみよう。東京スタジアムがラグビー界の舞台となったことはあまり聞いたことがないが、秩父宮ラグビー場がラグビーの聖地としては有名だ。独立行政法人日本スポーツ振興センターが運営する国立霞ヶ丘競技場の一施設だそうだが、25,000人を収容し、国立競技場なきあとのラグビーを支える「舞台装置」である。ただし、五輪後に取り壊されることは意外と知られていない。
トップレベルのジャパンラグビートップリーグに所属する東京のチームはどこにあるのか。東芝ブレイブルーパス(府中市)、サントリーサンゴリアス(府中市)、キヤノンイーグルス(町田市)、リコーブラックラムズ(世田谷区)が東京都内に本拠地を置く(企業の所在地は東京都内であるが、練習グランドが東京にないチームは除く)。東芝、サントリーからは所属の9名がワールドカップ日本代表で活躍した。ただし、登録者数のうち東京都出身者は1人もいない。日本国籍を持つ選手の出身地は福岡、兵庫、大阪、愛知出身がほとんどだ。
大学レベルでは早稲田大学、慶応大学、明治大学などラグビー界の名門大学が揃う。しかし、高校レベルでは関西よりも劣るのが現実だ。第94回全国高等学校ラグビーフットボール大会では國學院大久我山高校がベスト8、東京高校が2回戦敗退である。
高校生が目指す「花園」はないのが理由かはわからないが、ラグビーは関西と比較して盛んとは言えない。だからこそ東京にラグビー文化を広めるチャンスであるとも言える。
2019ラグビーワールドカップは東京スタジアムで開会式・開幕戦が開催されることが決まった。しかし、東京都スポーツ推進計画の中身を検索しても十分な記載はそこにはない。
世界3大のイベントのうち2つを連続して抱える東京都。普段の業務以外にそれだけの業務が発生するわけであるから、東京都庁の業務体制、実施に向けた準備は相当だろう。心配である。既存の事務事業や業務のやり方を見直さない、職員の大幅採用をする、無駄な事務事業を実施し、ツケを残す・・・。そうならないよう、経営面でしっかりとした説明責任が求められることは言うまでもない。
立候補の主な理由として、「スポーツ都市東京を世界へアピールするとともに、都民のスポーツへの関心を高める絶好の機会となること」「東京を起点として、全国の各都市で行われるラグビーワールドカップをPRし、盛り上げることができること」があげられているが、東京都は、海外からの観光客の増加なども期待し、経済波及効果が約866億円を見込めるそうだ。
あと4年。都民への啓発・協力、東京都出身の日本代表の輩出・育成、コストのかからない事業実施、そして、ラグビーの面白さ、ラグビーを通じて学べるものの明確化などやることは山ほどあるだろう。
エディ氏は読売新聞の取材にこう答えている「成功する保証はなくても、信念を持ち、人と違う努力を続ける。それには強い勇気がいる」(参考:2015年10月27日朝刊「解説」欄)という言葉を噛み締めて、東京都と都民や団体、企業が一体となってone for all, all for oneでそのスクラムを組めることを期待したい。