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スポーツ  投稿日:2015/10/26

[瀬尾温知]【昇格・降格繰り返してきた湘南ベルマーレの挑戦】~J1で戦えるチームに成長~


瀬尾温知(スポーツライター)

「瀬尾温知のMais um・マイズゥン」(ポルトガル語でOne moreという意味)

執筆記事プロフィール

Jリーグ、J1の第2ステージは残りあと2節となり、サンフレッチェ広島が2位鹿島アントラーズに勝ち点差3をつけていて、年間順位争いでも広島は浦和レッズと同じ勝ち点ながら得失点差で首位に立っている。今シーズンから導入されるチャンピオンシップは、この広島、第1ステージ優勝の浦和、それに現在、年間3位のガンバ大阪か4位FC東京の3チームによって争われる状況になっている。その優勝争いには加わらなかったものの、現在年間8位と健闘したのが、近年、昇格と降格を繰り返してきた湘南ベルマーレだった。湘南はJ1に継続して在籍しようと挑んだ2015シーズンで、その力があることを証明してみせた。

湘南は2009年に10年ぶりのJ1昇格を決めたが、翌年にJ2へ降格。11年はJ2で14位に終わり、監督が反町康治からチョウ・キジェに代わった12年に最終節での逆転劇で昇格を果たした。しかし翌年に再び降格。昨シーズンの2014年は、開幕14連勝、残り9試合を残しての最短昇格、勝ち点101と、いくつものJ2記録を塗り替えた。ここ近年、毎年のように昇格と降格を繰り返してきた湘南の目標は「J1で戦えるチーム」だった。

相手に走り負けない豊富な運動量をベースに、攻守の切り替えでひと呼吸おかずに素早いカウンターを仕掛け、人数をかけて攻め上がるサッカーが「湘南スタイル」と呼ばれるまでに特色が確立。自陣でボールを奪ったらドリブルで中央突破を試みるなど、多少強引でもチャンスと見れば勝負に出るチャレンジ精神が魅力となっていった。

ホーム最終戦となった10月24日の鹿島アントラーズ戦には、収容人数15,100人のスタジアムが満員になる14,227人の観客が集まった。今シーズンはゴールデンウイークの2試合を除いて観客数が1万人を超えた。J2で戦った昨シーズンは1万を超えたのが3試合だけだったことと比較すると、「J1で戦えるチーム」になったとファンが認めていることが集客数に表われていると言える。湘南は前節のアウェーでのFC東京戦で勝利を収めてJ1残留をすでに決めていて、目標を実現させてホーム最終戦を迎えた。

我々が成長した姿を、きょう集まってくれたサポーターに今一度見てもらおうとの意気込みが、試合開始早々から表現されていた。前半5分に菊地俊介が先制ゴール。32分には古林将太が追加点をあげ、反撃を後半の1点にしのいで2対1で勝ち、第2ステージで優勝争いをしている鹿島に痛恨の黒星をつけた。試合終了後、ホーム最終戦でのJリーグで恒例の選手・スタッフ全員がグラウンドに集合してサポーターに挨拶をする一幕が設けられた。湘南ベルマーレの真壁会長の挨拶が始まり、決まりきった言葉を並べるだけだろうと思っていたのだが、ここからのスタジアムの一体感がクラブとサポーターが一団となっている象徴だった。

会長は冒頭、「来シーズンの年間シートは値上げしました。私を怒ってください。小さなクラブの大きな挑戦をみんなで支えてください」と切り出したが、スタジアムはブーイングどころか温かな雰囲気に包まれた。「本来であれば、キャプテンと監督に挨拶をさせるところですが、この場でコメントはするべきではないと思います。あと2試合残っていて、あすからも戦わなくてはならないからです」と会長が話すと、突然の発表に意表を突かれたサポーターは静まり返った。「それなので、きょうは2人からは簡単な挨拶にしてもらいます」と前言を撤回する切り返しで「やらないと不義理かなと思いまして」と続け、場内から笑いが沸き起こった。永木亮太キャプテンが「残り2試合勝って帰ってきます」と挨拶したあと、来年への意気込みを語ったチョウ監督は、「あんまり話しちゃいけない空気なんで終わります」と短く済ませ、サポーターを和ませた。

サッカーの盛んな国では、会長や監督、それに選手が頻繁にメディアに出てマイクを向けられる機会が多いが、日本でも徐々にそのようになって個性が露わになれば、サッカーがより発展していくのだろうと試合後のセレモニーを見て改めて気づかされた。湘南には是非、補強をして来シーズンは優勝争いをするぞというメッセージをサポーターに届けてもらいたい。そのためには小さなクラブが大きくなるために、サポーターの支えが必要になってくる。

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