[西村健]【東京ブランドを問う、その1:炎上しなかったデザイン騒動】〜東京都長期ビジョンを読み解く! その33〜
西村健(NPO法人日本公共利益研究所代表)
「西村健の地方自治ウォッチング」
五輪エンブレムの問題が収束したかたに見えた秋の季節、またまたパクリ騒動が発生した。東京の魅力を世界に発信することを目的にした「東京ブランド」推進キャンペーン。そのキャッチコピー「&TOKYO」のロゴが騒動の主だ。このデザイン、フランスの会社Pulg&Seeなど他社のロゴデザインのパクリとの指摘が相次いだ。簡潔すぎること、クリエティブディレクターを例の五輪エンブレム騒動で佐野氏の同僚として名前があがった永井一史さんが務めたこと、さらに全体で1億3千万円(うちデザイン費が約7千万)という高額のコストがその理由だ。
この「東京ブランド」推進キャンペーンとは何か。
東京ブランドを推進する新たな取り組みで、10月9日にすでに開始している。ブランドコンセプトに基づく新たなロゴ・キャッチコピーを国内外の様々なシーンで活用し、東京ブランドの浸透を図ることが目的である。このデザインは、「伝統と革新が交差しながら、常に新しいスタイルを生み出すことで、多様な楽しさを約束する街」を表現したものらしい。
その利用方法は、「&TOKYO」の前に様々な言葉や企業ロゴ等を組み合わせるもので、東京の魅力や価値を世界に伝えていくツールとして広く活用を期待されている。
「&TOKYO」は申請を出せば誰でも使える点は非常に素晴らしいし、魅力的である。住民協働の新しい形として非常に評価できる取り組みであった。
しかし、3つの問題がある。
第一に、目的と必要性である。東京のブランド価値はすでに確固たるものだ。地域ブランドとしては最高レベルに近い。それだけの魅力を備えた都市だからだ。そもそも、ロゴデザインを作って、展開する必要があるのだろうか。「都市間競争に勝たないと」というが、どの都市とどのような競争をしているのだろうか。都市経営、都市間競争というあいまいな、空虚なイメージのもとに、ブランド価値を競う必要がわからない。
第二に、費用対効果。経費と成果で、どれくらいの成果目標が設定されていないと、経費はそのための適正な価格かどうか判断がつかない。その点が明確にならないと都民を納得させるのは難しいだろう。議員の方々には「事業仕分け」の実施をお勧めする。
第三に、展開例。多くの展開例が提示され、東京都民にも活用方法を公募するなど非常に良い取り組みをしている。しかし、映像を見てもらいたい。映像としては非常にかっこよく、技術的にも素晴らしいと思う。しかし、これが「東京ブランド」なのかと言われると、多くの人が違和感や疑問を感じるだろう。
東京ブランドイメージ映像によると、「歴史と未来が交差する街を歩いてみる。多様で混沌として刺激的なカルチャーに触れてみる。おもてなしの心をもった人々に出会ってみる。食。住。建築。ファッション。テクノロジー。芸術。エンターテイメント。東京体験のすべては、「いま」「ここ」でしか味わえないものばかり。東京と出会おう。東京に触れよう。この街はきっと、訪れる全ての旅行者に新しい何かを提供してくれるはずだ」というのがストーリーだそうだ・・・。
このデザインが一般的すぎて、パクリかどうか、I LOVE NYのデザインの二番煎じとも言えるが、この際、そんなことは大事ではない。
大事なのは東京の魅力とは何か、ということをわかっているのかだ。「魅力」がどこまで考え抜かれているのか、魅力の本質や関係性を整理できているのか、あまりに表層的ではないかと思うのだ。
先日、東京はハロウィンで大盛り上がりだった。騒々しい喧騒の中、はたして東京に対するキャンペーンなどいるのか、とまで思ってしまった。
東京のブランディング戦略の目的などを次回から考えていきたい。