金正恩体制の命運握る北朝鮮経済に暗雲 ~特集「2016年を占う!」北朝鮮~
朴斗鎮(コリア国際研究所所長)
2012年に金正恩体制が出帆した後、内外の耳目はこの体制がどのように求心力を維持していくかに集まっていた。金第1書記はこの疑念に対して張成沢国防委員会副委員長への残忍な粛清・処刑と玄永哲人民武力部長への処刑という形で答えた。権威不足と業績不足の金正恩にとって恐怖政治以外に求心力を高める方法がなかったからだろう。金第1書記の「恐怖政治」と彼が掲げる「人民第1主義」のスローガンは何かちぐはぐなように感じられるが実はそうではない。恐怖政治を進めるには大衆の歓心を買わなければならないからだ。「独裁」と「ポピュリズム」が多くの場合一対をなすことは古今東西の歴史が示している。
金第1書記が「人民第一主義」を裏付けるには、どのような形であれ人民生活の向上を国民に実感させなければならない。そのために今一部私経済と富裕層のぜいたくな消費生活を容認している。しかし北朝鮮経済全般を成長軌道に乗せなければ、格差の拡大だけが残り一般大衆の期待感は反感となって帰ってくる。
ところが私経済の拡大や富裕層の消費でここ2~3年何とかプラス成長を保っていた北朝鮮経済は、2015年に入って再び赤信号がともり始めた。北朝鮮の食糧生産が減速の兆しを見せ2014年を下回ると予測されている。
また北朝鮮経済を支えていた中国経済の減速が明確となり朝中貿易も減少している。そればかりか石油価格下落の影響を受け、北朝鮮の主要輸出品目である鉱物資源価格も低落傾向にある。輸出品の主力であった石炭輸出も減速が著しい。
こうしたことから、朝鮮労働党創建70周年行事の疲労感が残る中で、すでに来年の党大会を目指したノルマが下されている。全国15000の工場企業所には、金正恩第1書記に対する「忠誠の贈り物生産」などが命じられた。
2016年の金正恩体制は、経済状況に左右される年となるだろう。金第1書記は、36年ぶりの第7回党大会という一大イベントで国民の期待を引き延ばし、恐怖政治の持続で政権の安定を示して外交的孤立を突破し、あわよくば核を保持したまま経済援助を得ようとしている。最近の「水爆発言」もそうした思惑の一環だ。
しかし、モランボン楽団の中国公演ドタキャンが示すように予測できないのが金正恩政権の特徴だ。12月11日から2日間開催された南北次官級会談も不調に終わった。ことが金第1書記の思惑どおり上手く運ぶという保証はどこにもない。2016年の北朝鮮は一波乱も二波乱もありそうだ。
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