2017年を占う
.国際  投稿日:2016/1/3

[村中璃子]【2016年リオ五輪、デング熱に注意!】~特集「2016年を占う!」感染症対策~

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村中璃子(医師・ジャーナリスト)

執筆記事プロフィールWeb

今から夏のことを考えるのはちょっと気が早い気もしますが、2016年は8月5日から16日までブラジルのリオデジャネイロでオリンピックが開催されます。日本からは地球の裏側にある地理的に遠い国ですが、20世紀初頭からして半世紀以上に渡って我が国から農業労働力として集団移民を送り出した歴史もあります。

そんなブラジルでも2015年12月28日、フランスのサノフィ―社が開発した「世界初のデング熱ワクチン」が承認されました。デング熱は蚊が媒介し、世界の熱帯地方の「都市部」で流行する感染症ですが、2014年には日本でも70年ぶりに患者が出て話題になりました。

デング熱はインフルエンザやエボラ出血熱などとは違い、デングウイルスに感染したヒトと濃厚接触したところで感染はしません。日本では多くの人が集まる東京・代々木公園で、デング熱のヒトの血を吸ったヤブ蚊が別のヒトを刺したために感染が広がったといわれていますが、流行というレベルには至らず、都内の主な公園や墓地で殺虫剤散布を行った結果、蚊の個体数そのものも減り、2015年のデング熱の国内発症患者はゼロでした。

一方、ブラジルでのデング熱の流行レベルは例年、日本とは比べ物になりません。昨年も5月時点で10万人中400人が罹患するという大アウトブレイクがあり、のべ140万人の患者を出して大きな社会問題となりました。繰り返し殺虫剤を用いた結果、殺虫剤に耐性のある蚊が発生して対策に苦慮していたリオデジャネイロでは、イギリス・オックスフォードにあるオキシテック社(2015年8月10日、イントレクソンが買収)が開発した交配させると不妊になるという「不妊蚊」の試験放虫を実施するなど大胆な対策にも踏み切っています。しかし、効果は定かではなく、オリンピックを控えた今、感染症のコントロールは大きな課題のひとつです。

昨今、オリンピックに限らず、サミット、ワールドカップなど、世界各国から大勢の人が集まる際に危惧されるのがテロリズムの問題です。もちろん、意図的に病原体を持ち込んでばらまくバイオテロリズムの問題もありますが、単に人が多く集まることの結果として流行する可能性の高まる感染症の問題も決して忘れてはなりません。

リオデジャネイロオリンピックは南半球で行われる初めての夏季オリンピックです。低緯度にあるため、夏季オリンピックとはいえ1年でもっとも気温の低い時期に開催されることになります。だからといってデング熱の心配はないという考えは甘いというもの。リオデジャネイロの平年8月の日平均気温は摂氏22度前後。デング熱を媒介する蚊の活動がもっとも活発になる温度は20度から30度なので、デング熱に感染するリスクは避けられそうにありません。

「蚊に刺されない」または「蚊を発生させない」というベーシックな方法でしか流行を防ぐことができず、低栄養の子供や体力の無い高齢者などを中心に命を奪ってきたデング熱。ワクチンが出来たというのは朗報です。

しかし、気になるのは値段です。現在、ブラジルを始めこのワクチンを承認した各国において未だに価格は交渉中とのこと。発展途上国向けのワクチンはリターンが少ないといわれる中、20年以上もかけてこのワクチンを開発し、製品化こぎつけたメーカーにしてみれば、開発にかけた膨大な資金を一刻も早く回収したいという思いでしょうが、「売れなければ儲からない」という資本主義の原理がうまく働き、結果として必要な人たちに広く届くワクチンとなるよう、年の初めに祈らずにはおれません。

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