少数民族が支持する候補は誰? 米大統領選クロニクル その7
古森義久(ジャーナリスト・国際教養大学 客員教授)
「古森義久の内外透視」
アメリカ大統領選挙の共和党側で勝利を重ねるドナルド・トランプ候補の支持集会をみていると、集まった男女はヨーロッパ系、つまり白人が圧倒的に多いことにすぐ気づく。トランプ氏が黒人やヒスパニック系の少数民族を突き放す言辞や政策をみせていることのはっきりした反映なのだろうが、伝統的にも多数派の白人が共和党側に多いことはアメリカ政治の近年の常識ともなってきた。トランプ氏の場合、その特色がまた一段と顕著なのだ。
大統領選での人種や民族という要素について私が初めて強く実感させられたのは1980年8月、ニューヨーク市での民主党全国大会に行ったときだった。その前月、共和党全国大会はすでにテレビでじっくりとみていた。ミシガン州のデトロイトでの開催だった。
その後に実際にこの目でみた民主党大会では黒人やアジア系の顔が共和党大会よりもずっと多いことを痛感した。
この会場はこの連載コラムですでに書いたようにニューヨーク市中心部のマディソン・スクエア・ガーデンだった。取材記者の一員として入場許可証を受け取り、観客席に設けられた報道陣席から屋内スタジアムの中心部の広大なアリーナに一歩、足を踏み入れた瞬間に、もう少数民族のアメリカ人男女の多さがわかった。
この取材で私は実は自分自身がそのアジア系の顔をアメリカの全米放送のテレビにばっちりと映されていた。あとで何人もの友人や知人が教えてくれたのだ。確かCBSテレビだったが、とにかく全米三大ネットワークのうちの一局のカメラが会場のあちこちの情景をとらえるうち、私の姿に焦点を合わせて、しかも普通よりも長く、10数秒もそのまま、かなりのクローズアップだったというのだ。きっと日本人記者だとは知らず、アジア系の代議員だと勘違いしたのだろう。あまりにささいな出来事ではあったが、民主党大会の少数民族の多さを奇妙な形で反映したような体験として私の脳裏には長く残った。
人種や民族のるつぼのアメリカでは政党支持にもその区分が反映されることはすでに書いてきた。おおざっぱに述べて、民主党側に黒人、アジア系、ヒスパニックなどの少数民族が多いのだ。多い、というのは共和党側の支持者の人種構成にくらべて、民主党側の少数民族の比率が高いということである。この事実は各種の統計で証明されている。
だが今回の2016年の選挙では共和党側のトランプ陣営に少数民族が少ないと同時に民主党側のバービー・サンダース候補の支持層にも少数民族が少ないことが指摘されている。事実サンダース候補の集会をみると、若者が多いのがすぐにわかるが、同時にその支持者たちがほとんど白人であることも歴然とする。候補者のサンダース氏がいかにも白人らしい白人という事実もその要因なのだろうが、その他にもいろいろな理由が指摘されている。
今回の選挙ではいろいろ異変が多いのだ。
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この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授
産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。