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.国際  投稿日:2016/3/16

米大統領選の結果は経済で決まる その2 鍵を握るFRB利上げ


岩田太郎(在米ジャーナリスト)

「岩田太郎のアメリカどんつき通信」

現在の米経済は年率2%台の低成長率ではあるものの、経済は曲がりなりにも拡大している。この傾向が続けば、「大統領選時の政権党の下で経済成長が続いている場合、政権与党の候補者が勝ち、不景気の場合は野党が勝つ」という過去半世紀の経験則に基づき、民主党のヒラリー・クリントン候補が有利だ。

しかし、ヒラリー陣営に有利な状況とはいえ、米国民の生活苦は相変わらずだ。オバマ政権の経済政策への不満は、同政権の閣僚だったヒラリー氏に向く。庶民が「生かさず殺さず」の状態では、ヒラリー氏の圧勝は望めない。

本選での彼女の対戦相手になる可能性がある共和党のドナルド・トランプ候補は、過去2回の大統領選で民主党のオバマ氏を支持した無党派層の経済面での不満をうまく吸収しており、ヒラリー候補は良くて辛勝となろう。

それは、実現可能な政策を持たないトランプ候補が、経済政策面で「自爆」することに助けられる面も大きい。トランプ氏と同じく実業家で、米IT大手ヒューレット・パッカード・エンタープライズのメグ・ホイットマン最高経営責任者(CEO)は、「(減税を唱えながら、その財源さえ示せない)トランプ氏の政策は、国家負債と財政赤字を拡大させ、米経済を景気後退に追い込む」と予想する。

さらに、「トランプ候補は、メキシコや中国からの輸入品に35%の関税をかけると言うが、そんなことをすればグローバル企業を罰することになり、米国は不況に陥る。輸入品が高くなれば、米国の消費者が苦しむ」という。

しかし、トランプ候補が予選あるいは本選で自滅しなくても、体感経済が悪ければ、ヒラリー候補の勝ち目は薄くなる。ここで本選の帰結のカギをにぎるのが、ジャネット・イエレン議長率いる米連邦準備制度理事会(FRB)による利上げのタイミングと、利上げが米経済にもたらす影響だ。

米金融政策の最高意思決定会合である連邦公開市場委員会(FOMC)の3月の会合では利上げが見送られ、昨年12月に金融危機後初の利上げを果たしたFRBは、6月の利上げに動く可能性があるとされる。

FRBの金融政策は、過去の大統領選の結果を左右したことがある。1992年の大統領選で再選を果たせず、ヒラリー氏の夫であるビル・クリントン元大統領に敗北したジョージ・H・W・ブッシュ元大統領(パパ・ブッシュ)は、当時のアラン・グリーンスパンFRB議長に対して、以下のような恨み節を公言していた。

「もし選挙期間中に米金利がもっと劇的に下げられていたならば、経済回復がより鮮明になり、私は再選されていただろう。私がグリーンスパンを再任したのだが、彼は私を失望させた」。

今回の局面で、米経済の回復が本物でない状況下でFRBが2回目の利上げに踏み切れば、市場の恐怖心理と相まって、米経済が再び失速する可能性がある。そうなれば、政権党候補であるヒラリー氏の当選が危うくなってくる。

FRBの利上げが、11月の本選の前である6月や9月に行われることは、民主党にとってリスク要因だ。長期停滞論の主唱者であり、ヒラリー候補の事実上の経済顧問であるローレンス・サマーズ元米財務長官は、「もしFRBが今年中に複数回の利上げに踏み切れば、景気後退の可能性は50%になる」と述べ、米利上げが米経済の収縮をもたらす可能性を警告している。

一方、共和党のトランプ候補は12月の利上げ前に、「FRBは低金利でオバマ政権を助けてきた。イエレン議長が利上げに踏み切らないのは、彼女が(リベラル寄りの)政治的な人物だからで、オバマ大統領の要請があるから金利を上げないのだ」と、強く非難している。民主党寄りとみられないため、また、中立性をアピールするには、FRBは利上げをするしか選択肢がない。

民主党候補の当選を阻む共和党の思惑が、どれだけ本選前の米利上げのタイミングと回数に影響力を持つかが、これからの見どころとなろう。

米大統領選の結果は経済で決まる その1 オバマ失政がもたらしたトランプ旋風 の続き。全2回)


この記事を書いた人
岩田太郎在米ジャーナリスト

京都市出身の在米ジャーナリスト。米NBCニュースの東京総局、読売新聞の英字新聞部、日経国際ニュースセンターなどで金融・経済報道の訓練を受ける。現在、米国の経済・司法・政治・社会を広く深く分析した記事を『週刊エコノミスト』誌などの紙媒体に発表する一方、ウェブメディアにも進出中。研究者としての別の顔も持ち、ハワイの米イースト・ウェスト・センターで連邦奨学生として太平洋諸島研究学を学んだ後、オレゴン大学歴史学部博士課程修了。先住ハワイ人と日本人移民・二世の関係など、「何がネイティブなのか」を法律やメディアの切り口を使い、一次史料で読み解くプロジェクトに取り組んでいる。金融などあらゆる分野の翻訳も手掛ける。昭和38年生まれ。

岩田太郎

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