「日本会議」を悪魔化する米欧メディア その2 陰謀偽文書に等しい偏見報道
古森義久(ジャーナリスト・国際教養大学 客員教授)
「古森義久の内外透視」
米欧メディアの日本会議へのこの種の偏向した批判はこの7月中旬に東京の日本外国特派員協会が主催した日本会議の田久保忠衛会長の記者会見でも象徴されていた。
この会見ではこの日本外国特派員協会を拠点に安倍晋三首相や自民党政権の統治を独裁のように長年、叩いてきたアイルランド人のフリー記者デービッド・マクニール氏らが先頭になって、これまた日本会議を軍国主義や帝国主義の復活を求める危険な組織のように描く追及に終始した。
田久保会長はこの会見で、「日本会議の活動目標は民主主義の範囲内で日本にとっての安全保障や国家認識などでの戦後のゆがみを是正しようとしているだけだ」と説いた。だが米欧メディアの多くは一貫して日本会議を「危険な軍国主義への復活」を求める団体として描くのだ。ニューヨーク・タイムズやエコノミストという大手メディアの論調もそれに近かった。
ところが今回は米欧側にもこうした「日本会議悪魔化」報道を大きな間違いだと指摘する反論も登場した。日本側としては勇気づけられる現象である。
反論側で顕著なのはワシントン・ポストの東京特派員などとして長年、在日し、ワシントンの研究機関の研究員をも務めるポール・ブルーステイン氏の論文だった。アメリカ側の日本研究者たちが常時、寄稿するネット学術論壇に発表された同論文は前述のエーデルスタイン氏の「宗教カルトが日本を秘密裡に支配する」という記事に批判の的をしぼっていた。その批判論文の骨子は以下のようだった。
「私は新聞記者を27年も務め、日本にも10年以上も住んだが、ジェイク・エーデルスタイン氏のこの記事よりも愚かで危険な発信をみたことがない。この記事は根拠がなく、人種偏見に発する陰謀説であり、歴史的な偽作『ユダヤ議定書』にも似たところがある」
「この記事は日本会議という怪物が日本を1930年代の軍国主義と天皇絶対崇拝へと引き戻そうとしていると指摘するが、まったくばかげた主張であり、海外諸国に被害妄想を広げる効果しかない。とくに中国の過激な民族主義勢力の反日をあおる効果は非常に危険でさえある」
「エーデルスタイン氏は日本会議をカルトと呼ぶが、そのレッテル貼りの根拠はなにも示さない。日本会議が『強大な政治的影響力』を発揮しているとも述べるが、実際には会員3万8000人だけの組織だ。日本の政治に影響を及ぼそうとする数百もの政治団体の一つにしかすぎない。そんな団体が日本の政治をどう動かしているのか、例証もない」
ブルーステイン氏はエーデルスタイン氏の記事を「ユダヤ議定書」にも似ていると断じたが、この非難は欧米のジャーナリズムではきわめて重大である。「ユダヤ議定書」とは「シオン賢者の議定書」とも呼ばれ、1890年代からまずロシア語で出回った「ユダヤ人世界征服の陰謀」論文書である。後にナチスのユダヤ人大虐殺の理由ともされたが、「史上最悪の偽造文書」だと証明された。この日本会議危険論はそんな世紀の偽書にまでたとえられたのだ。
ブルーステイン論文はさらにエーデルスタイン氏の記事が日本の憲法改正について述べる主張にも反論していた。
「エーデルスタイン氏は日本会議や安倍首相が唱える憲法改正を戦前の危険な軍国主義、封建的な統治への復帰として描く。欧米の他のメディアにもその傾向がある。だが日本がいま好戦的な近隣諸国に囲まれ、対米同盟の信頼性も減るなかで自国の防衛を自ら制限する憲法を再考するのは自然ではないのか」
この論文はとくに日本会議や安倍首相を一方的に弁護するという感じはなく、あくまでエーデルスタイン氏の記事を「尊大な事実の無視」として糾弾するのだった。
いま一段と広がってきたかにもみえる日本会議危険論の陰にはこんな動きも起きているのである。もっともこの種の反論は本来は日本側がなすべきなのかもしれない。
(その1の続き。全2回。この記事は雑誌「月刊テーミス」2016年9月号からの転載です。)
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この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授
産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。