2017総選挙ファクトチェックプロジェクト
国際  投稿日:2016/11/12

傾聴怠り自滅したヒラリー 米国民上から目線のゴリ押し拒絶

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岩田太郎(在米ジャーナリスト)

「岩田太郎のアメリカどんつき通信」

英国の欧州連合(EU)離脱決定など、想定外のことが立て続けに起こる2016年。そんな今年の最大のブラックスワン(あり得ないことが現実化すること)は、不動産王で富豪の米共和党大統領候補であるドナルド・トランプが、当選してしまったことだ。

そして、トランプと争った民主党大統領候補のヒラリー・クリントン元国務長官が落選した理由は、民主党のリベラルエリート層が「接戦にはなるが、戦勝する」という、大戦期の帝国陸軍のような希望的観測を信じて大敗したことにある。では、なぜ特権層は水面下で進行する地殻変化を見ようとせず、民意を読み誤ってしまったのだろうか。

まず、彼らは政敵と妥協したり、和を重んじるより、二元論のワナに自ら陥ることを選んだ。自ら「進歩派」を名乗るリベラルなエリートたちは、極右のトランプ支持者や極左のバーニー・サンダース支持者の生活上の切実な困りごとや懸念に心を砕いて傾聴することを拒否した。それどころか、「彼らはクレイジーな候補者に熱狂する愚衆だ」と見下した。なぜなら、「進歩派」の名が示す通り、自分たちこそ最も進んだ考えを持つ者たちであり、自分たちと同じ考えを持たない者たちは定義上、教導が必要な「遅れた」者たちであるからだ。

「進歩派」は多様性を説いたが、「遅れた」者たちの多様な意見は尊重しなかった。自分たちこそ真の民主主義を知っており、自分たちにしか民主主義は理解や実践ができないと、彼らは宗教的熱情をもって信じた。だから、彼ら以外に民主主義はなく、トランプやサンダースの支持者は、自動的に否定されるべきポピュリズム(大衆迎合主義)の信奉者、つまり異端ということになってしまう。

確かに、トランプの言動は滅茶苦茶だし、サンダースの理想は極端な社会主義だ。だが、彼らの支持者は「進歩派」のオバマ大統領の下で実施された経済政策の恩恵をほとんど受けることができず、過去8年の間、苦しんできたのである。オバマやヒラリーの「進歩的」政策は、ヒラリーが癒着する財界や裕福層を、より豊かにしただけであった。

それに対するトランプやサンダースの支持者の不満の表明を、リベラルなエリートは「正しい見解ではない」として、まともに取り合わなかった。そのようにして自分たちの人間性が否定されたと感じた白人中間層だけでなく、ヒラリー支持に回ると思われていたエリートの大卒白人女性の多くまでがトランプに投票したのは、民主党エリートの根源的なおごりや傲慢さに原因があったのだ。

彼らの恨みと憤りは、世論調査や専門家の分析では捉え切れる性質のものではなかった。なぜなら、相手を心から人間として尊重し、傾聴しようとしなければ、有権者の苦しみや不安は理解できないからだ。エリートや「進歩派」は、人の尊厳という、政治に一番大切な要素を見ようとしなかったのだ。

そうした意味でトランプに流れた票は、トランプ支持票というよりは、反エリート票・反ヒラリー票であったといえよう。有権者は、ヒラリーをはじめとする特権層を罰したかったのである。たとえそれが、野卑で予測不能なトランプに来る4年を託すという悪魔の取引であったとしても。尊厳を奪われて追い詰められた人間は、時に無謀なことをするものだ。

有権者たちは、「進歩派」の理性の暴力を拒絶した。人間らしさを奪われた上に、民主党政権の継続によって続く苦しみを受け入れないのは間違っているとされれば、憤りが増すのも当然だ。民主党や米メディアがヒラリーに対する庶民の不満を否定し、「ヒラリーの当選確実」「米国民はヒラリーを待ち望んでいる」などとヒラリーをゴリ押しした様子は、日本の芸能プロダクションや御用メディアが、不倫スキャンダルで総スカンを喰らったタレントのベッキーに対する視聴者の拒絶感を否定し、「視聴者はベッキー復帰を熱望している」「ベッキー復帰の準備は整った」などと彼女をゴリ押しし続ける様子に似ている。

だが、北風で旅人の外套を脱がせようとする試みは、失敗に終わる。相手を人として尊重しない上から目線は、必ず破綻するものなのである。

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この記事を書いた人
岩田太郎在米ジャーナリスト

京都市出身の在米ジャーナリスト。米NBCニュースの東京総局、読売新聞の英字新聞部、日経国際ニュースセンターなどで金融・経済報道の訓練を受ける。現在、米国の経済・司法・政治・社会を広く深く分析した記事を『週刊エコノミスト』誌などの紙媒体に発表する一方、ウェブメディアにも進出中。研究者としての別の顔も持ち、ハワイの米イースト・ウェスト・センターで連邦奨学生として太平洋諸島研究学を学んだ後、オレゴン大学歴史学部博士課程修了。先住ハワイ人と日本人移民・二世の関係など、「何がネイティブなのか」を法律やメディアの切り口を使い、一次史料で読み解くプロジェクトに取り組んでいる。金融などあらゆる分野の翻訳も手掛ける。昭和38年生まれ。

岩田太郎

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