韓国「運命の日」大統領弾劾案採決へ
李受玟(イ・スミン/韓国大手経済誌記者)
現職の大統領が被疑者の身分になったのは1948年以来、韓国初のことだ。朴槿恵 (パク・クネ) 大統領の最側近、崔順実(チェ・スンシル)氏による国政介入などの疑惑を捜査しているソウル中央地検の特別捜査本部は、11月20日、崔氏と安鍾範(アン・ジョンボム)前大統領府の政策調整首席秘書官、チョン・ホソン同前付属秘書官など3人を起訴した。被告らは職権乱用や強要、公務上秘密漏洩の罪に問われた。検察は朴大統領を共犯と名指した。
検察は今までの捜査結果を発表しながら「朴大統領が崔氏らの罪の相当部分で共謀関係にあると判断している」、「共謀関係が認められる部分について、(大統領を)正式の被疑者で立件した」と話した。また、3人の被告の公訴状を見ると、朴大統領が職権乱用などの主要犯罪に主導的に介入したと把握されて、「事実上の主犯だ」と説明した。
具体的には朴大統領が2016年7月、三星(サムスン)など大手企業の会長団と会った後、ミール・Kスポーツ財団へ捻出金774億ウォンを直接要請し、同年3月辛東彬(シン・ドンビン)ロッテグループ会長と会って体育施設の建立に向けKスポーツ財団に75億ウォンを出すよう強要した疑いを受けている。 また、2014年11月、現代(ヒュンダイ)自動車に崔氏の知人の会社であるKDコーポレーションの製品を購入するよう要求した疑いもある。そして通信会社KTの人事に介入した罪も適用された。
このように強気の姿勢を取る検察だが、大統領を直接捜査することは結局できなかった。大統領府が聴取と書面聴取を拒否したからだ。このために検察捜査がうやむやになるという予測もあったが、検察は朴大統領を事実上の被疑者に判断していると公表した。
以降、大統領府と検察の関係は徐々に悪化した。検察が11月20日に中間捜査結果を発表した時、チョンヨングク大統領府報道官は「捜査チームの発表は全く事実ではなくて客観的な証拠は無視したまま、想像と推測を重ねて建てた砂上の楼閣にすぎない」と強く非難した。朴大統領の弁護士も「(検察の)主張は一条の風で崩壊する砂の城」といいながら検察を無視した。
これに対して検察は韓国メディアSBSに「朴大統領がチョン前秘書官に指示を下すたびに通話の内容が録音されている。これを10秒だけ公開すると(崔氏が関する疑惑について)みんな興奮するだろう」と反論した。そして「控訴状には、99%裏付けることのできる物だけ書いた」と、捜査に強い自信をあらわした。
■特別検事に対峙する4人目の大統領
それにもかかわらず大統領が指揮権を持っている検察より独立的な特別検事が今回のスキャンダルを調査するのがよいという意見が政界を中心に提起された。最大野党「共に民主党」と第2野党「国民の党」が推薦した人物の中で、朴英洙(パク・ヨンス)弁護士が朴政府の『崔氏など民間人による国政介入疑惑事件究明のための特別検事』に任命された。
特検は大統領が任命する職責であり、朴大統領は自分に対する疑惑を捜査する人に捜査権を与える皮肉な立場になった。金大中(キム・デジュン)前大統領、盧武鉉(ノ・ムヒョン)前大統領、李明博(イ・ミョンバク)前大統領など、以前の大統領のように朴大統領も特検の捜査を受けることになった。
また、政治圏の一部では、朴特検が大統領府の現在の実力者に分類される禹柄宇(ウ・ビョンウ)元民政首席と親密という指摘が出て、特検が進行する捜査が公正ではないだろうという懸念もあった。この指摘に対して朴特検は「一生検事として生きてきた私が不義に対する捜査をしてほしいという要請を拒否することはできなかった」、「この世界で30年勤務してみると、さまざまな縁があるが、個人的な縁に縛られて捜査をうまくできないということはない」と話した。朴特検の下で捜査を進行する特検補と捜査員らは、早ければ12月半ばまでに確定されて本格的な捜査に乗り出す計画だ。
■自ら降りるのか、弾劾されるのか?
今政界では弾劾を控えている。弾劾案は発議の是非と時期に置いて各党意見が食い違った。それでも朴大統領に反対する国民が多かったので12月2日 やっと国会に上程された。運命の日は9日だ。朴大統領に対する弾劾訴追案が可決されるためには、在籍(300人)議員のうち、3分の2の200人の賛成票が必要で、現在としては野党全員と与党セヌリ党の賛成票(28票)が力を加えなければならない。しかし、今のところ、可決に対する展望はまだ不透明だ。
10月からスタートした全国的な“ろうそくデモ”が1ヵ月以上続き、与野党いずれも弾劾に賛成するように見えたが、11月30日、朴大統領が「私の大統領職の任期短縮を含めた進退問題を国会の決定に任せる」と自ら退く考えはないという点(第3次国民向け談話)を明らかにし、政界が騒々しくなった。
特に野党らの分裂が深刻だった。弾劾案が可決された時、最も有力な大統領選候補(支持率1位)の文在寅(ムン・ジェイン) 「共に民主党」の常任顧問をサポートする勢力とその他の勢力がお互いに異なる政治的な計算をして衝突した。朴大統領が来年4月に、自主的にして来るかもしれないという希望的な仮説もこれらの対立を加速化した。
「国民の党」は朴智元(パク・チウォン)共同院内代表が議院内閣制への改憲に向けて、セヌリ党と手を握って弾劾の戦線から退くという疑いも受けたりした。朴大統領の第3次談話まで世論は「国民の言葉を聞かない大統領」という印象が強かったが、与野が大統領の発言をきっかけに迷い始めてから「国民の言葉を聞いていない国会」というようになってしまった。それで多数の人々は朴大統領について「やはり政治の達人だ」と評価する笑えないこともあった。
朴大統領の弾劾を要求する国民の熱望に影響を受けて、野党らは弾劾案発議まできた。もちろん憲法裁判所の弾劾審判の手続きが残っている。だが弾劾案が国会を通過すれば、実現する可能性が高いと判断される。
朴大統領は自分が望むように来年4月まで肩書きを維持できるかどうか、さもなければその前に強制的に退くことになるかによって今後韓国政治の流れが変わる見通しだ。
トップ画像:ⓒイ・スミン
文中写真上:任命状の授与は黄教安(ファン・ギョアン)国務総理が代わりにした
文中写真下:ⓒイ・スミン
あわせて読みたい
この記事を書いた人
イ・スミン韓国大手経済誌記者
2008年11月~ 2009年8月 一般企業(商社)勤務2009年2月 延世大学卒業2010年~ 大手経済紙 記者