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.国際  投稿日:2018/4/6

中国の脅威には断固対決する ハリス太平洋統合軍司令官証言 その5


森義久(ジャーナリスト・麗澤大学特別教授)

「古森義久の内外透視 」

【まとめ】

・米軍との格差を急速に縮める中国、米は大幅な防衛力強化不可欠。

・中国の未来は国際秩序参加にあるが、むしろ秩序を侵食しつつある。

・米はするべき協力ができない場合、中国と断固対決する。

 

【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては写真説明と出典のみ記されていることがあります。その場合はJapan In-depthのサイトhttp://japan-indepth.jp/?p=39327でお読みください。】

 

アメリカの太平洋統合軍のハリー・ハリス司令官は3月15日、連邦議会上院の軍事委員会の公聴会でアメリカや日本にとっての中国の軍事的な脅威を詳述した。この証言の詳報を続ける。今回は連載の最終回となる。

 

【尖閣諸島の危機】

東シナ海での中国の行動ではまず第一に尖閣諸島への攻勢があげられる。尖閣諸島をめぐる日本と中国の緊迫は昨年はいくらかは落ち着いてみえたが、それでもなお尖閣を原因とする日中両国の争いの解決の見通しはまったくたっていない。日中両国がともにこの海域とその周辺に本格的な軍事力、沿岸警備力を投入するという現状は、誤った意思疎通、誤った計算から軍事面でのエスカレーションへと容易に進みうる危険な状態である。

中国は沿岸警備隊的な中国海警の艦艇を尖閣諸島の日本側の領海や接続水域に頻繁に送りこみ、日本側のその空域での航空機による監視飛行に抗議をも続けることによって、尖閣諸島に対する日本の施政権に執拗に挑戦している。

中国軍のその付近での軍事演習は尖閣諸島を標的とした軍事行動を顕著な特徴としている。その演習は尖閣諸島を物理的に占領して、その海域全体に対して海上封鎖を実施し、紛争海域を孤立させてしまうという内容をも含んでいる。

中国側は尖閣諸島の奪取という目的を明確にする手段の一つとして、各種の官営メディアを動員して、尖閣占領のための特定の軍事面での能力や活動にハイライトをあて、宣伝している。この宣伝は明らかにアメリカと日本への中国当局の意図の伝達だといえる。

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▲写真 尖閣諸島・魚釣島 出典 外務省ホームページ

 

【尖閣問題へのアメリカの政策】 

尖閣諸島についてのアメリカの政策は明確であり、しかもまったく揺らいでいない。尖閣諸島は日本の施政権下にある。日米安保条約の第五条はアメリカが日本の施政権下にある領域の防衛に加わることを規定している。アメリカは日本の尖閣諸島の施政権を奪おうとする、いかなる一方的な行動にも反対し、そのための措置をとる、という政策なのだ。

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▲写真 中国海軍空母打撃群 出典 米国海軍研究所

 

【中国の海洋戦力の膨張】

中国はアメリカ側のこれまでの海洋戦略面での地域的な優位に挑む戦力の強化を果たしてきた。その中国を抑止するためにはアメリカ側の太平洋統合軍も、より破壊力の強い、より敏速で強力な兵器類を装備した艦艇や航空機を必要とする。より性能度の高い長距離の攻撃用兵器類も不可欠となった。

中国は海軍という側面だけでもアメリカに同等な対抗相手となることを目指して急浮上してきた。中国海軍のより高度の技術や、その結果としてのより多様で広範な作戦、さらには戦略ドクトリンの更新などは、単に地域的な野望ではなく、グローバルな拡張を企図していることを明白に示すようになった。中国は米軍との格差を急速に埋めているのだ。だからアメリカ側も大幅な防衛力の増強が不可欠となったのである。

 

【総括】

アメリカは中国との間で経済のきずながあるとはいえ、私の意見では米中両国は基本的にはインド太平洋地区で影響力とコントロールとをはっきりと競いあう相手同士だ。トランプ大統領も一般教書演説で述べたように、アメリカと中国はライバルである。私自身もこの評価に完全に同意する。

私はここ数年、中国には、決してこうあってほしいという願望に基づいてではなく、あるがままに、現実的に対処すべきだと主唱してきた。言い換えるならば、アメリカの対中関係は、期待や善意に流される楽観主義ではなく、率直で冷徹な視線に基づく実利主義に基づくべきだということだ。

アメリカ側の一部の識者たちは、南シナ海や東シナ海での中国の活動を単に機会をうかがっての日和見主義の結果だとみる。だが私はそうは考えない。私は中国の活動を十分に事前に調整され、秩序だった戦略的な動きだとみる。

北京政府は近隣諸国を脅して屈従させ、自由で開かれたいまの国際秩序を崩すために、軍事力と経済力を行使しているのだ。中国は南シナ海での紛争中の海洋上の領土や空間への自国の事実上の主権を主張し、押しつけるためにこそ、戦闘力を構築し、有利な地歩を獲得しようと努めているのである。その南シナ海では中国はすでに人工的な基地を造成し、軍事化することによって、地理的、政治的な情勢を基本から変えてしまった。

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▲写真 南シナ海で米空母カール・ヴィンソンから発進するF/A-18Fスーパー・ホーネット 2018年3月13日 出典 flicker:Gage Skidmore

アメリカは中国の自国主権の主張を一方的に広めるための強制力の行使、威嚇、脅威、あるいは武力の行使に対して断固として反対する。アメリカは伝統的に他の諸国の領有権紛争には中立を保ち、他国の主権主張にはみずからの立場をとらないのだが、中国の行動への反対は明確に表明する。この種の領有権の争いはあくまで平和的に、そして国際法に沿って、解決されるべきなのだ。

太平洋統合軍司令官としての私の目標は、中国にとっての最善の未来は現在の自由で開かれた国際秩序への平和的な協力と実体のある参加にこそあるのだ、ということを中国側に納得させることである。中国の現在にいたる経済的な奇跡も規則に基づくこの国際秩序がもたらした安定があってこそ、初めて可能となったのだ。だが中国はその秩序をいまや侵食しようとしているのである。

だから私はいまの国際秩序による共有領域を一方的に閉鎖しようとする動きは決して許容しない。アメリカは中国とも協力できるならば、協力をする。だがそうではない場合は断固として中国と対決していくのだ。

(終わり その1その2その3その4 全5回)

トップ画像:ハリー・ハリス司令官 出典 U.S. Pacific Fleet


この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授

産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。

古森義久

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