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.国際  投稿日:2018/4/5

目に余る南シナ海での中国の無法 ハリス太平洋統合軍司令官証言 その4


森義久(ジャーナリスト・麗澤大学特別教授)

「古森義久の内外透視 」

【まとめ】

・南シナ海の紛争領域で中国は2017年も深刻な軍事化進めた。

・南シナ海に関し、習近平主席はホワイトハウスで嘘をついた。

・米軍の「航行の自由作戦」を理由にする中国の主張に根拠なし。

 

【注:この記事には複数の写真が含まれます。サイトによっては全て掲載されず写真説明と出典のみ記されていることがあります。その場合はJapan In-depthのサイトhttp://japan-indepth.jp/?p=39309でお読みください。】

 

アメリカの太平洋統合軍のハリー・ハリス司令官は3月15日、連邦議会上院の軍事委員会の公聴会でアメリカや日本にとっての中国の軍事的な脅威を詳述した。この証言の詳報を続ける。

 

【中国の海洋領土拡大】

アジア太平洋地域では海洋の領土主権の衝突がなお各国間の摩擦の大きな原因となっている。私(ハリス司令官)が最も懸念しているのは中国の南シナ海でのなお継続中の行動である。2017年だけでも中国は紛争領域に建設した基地の軍事化のための深刻な措置をとった。

 

【南シナ海に関する習近平氏の虚言】

アメリカ政府は南シナ海での諸島に対する複数の国家の領有権主張に対し特定の国の主張を支持するような立場をとらないが、それら各国の主張や行動が国際法に合致していることは求めている。とくに関係各国は国連海洋法に反映された海洋の規則を遵守すべきである。

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▲写真 South China Sea claims map 出典 Voice of America

南シナ海での領土紛争のうち最も顕著なのは、(1)パラセル諸島中国、台湾、ベトナムが主権を争う)(2)スカーボロ環礁(中国、台湾、フィリピンが主権を争う)(3)スプラットレー諸島(中国、台湾、ベトナム、ブルネイ、マレーシア、フィリピンが主権を争う)――である。なかでも近年、最大の関心を集めてきたのは(3)のスプラットレー諸島である。

2015年9月25日、中国共産党総書記の習近平氏はホワイトハウスのローズガーデンでの式典で、中国はスプラットレー諸島の拠点を軍事化する意図はない、と言明した。ところが現実には中国はその諸島にいくつかの明白な軍事施設を建設したのだ。軍事能力の拠点を構築したともいえる。その軍事拠点は合計7ヵ所にものぼった。しかも中国はその軍事拠点をさらに増やし続けているのだ。

 

【スプラットレー諸島の軍事化】

スプラットレー諸島の中国の拠点にはいま現在は軍用機も、防空ミサイル発射装置も、対艦ミサイル発射システムも、配備されてはいない。いま唯一、配備された兵器は短距離防衛用システムだけである。だが中国は同諸島に高度の軍事能力を即時に稼働できる大規模な軍事インフラを構築したのだ。アメリカ側としては中国が将来のある時点ではこれらの軍事用施設を明確に規定された目的のために必ず使うだろう、と認識すべきだ

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▲写真 スプラットレー諸島 出典 United States Navy

中国は同じような施設をスプラットレー諸島の他の主要な拠点、つまりファイアリークロス礁、ミスチーフ礁、スビ礁の3ヵ所に建築した。それらの施設とは、ほぼすべての軍用航空機を発進、着陸させられる長さ約3千メートルの滑走路、戦闘機格納庫、爆撃機や空中早期警戒システム機(AWACS)、輸送機などを含む大型機の支援が可能な大型格納庫、対空砲発射陣地、対艦発射ミサイル陣地、水や燃料の貯蔵タンク、弾薬保管施設、兵舎、通信システム、水底の深い港施設、そして軍事レーダー、などである。

 

【中国の無法性】

上記のスプラットレー諸島の中国基地は明らかに前方配備の軍事拠点である。中国軍のために建設され、中国軍部隊が駐屯し、南シナ海での中国が主権を主張する諸島全域に投入できる軍事的なパワーと能力の発揮を目的とする。中国側のこの動きについての説明として、「アメリカの存在の拡大に対応するために余儀なくされた軍事能力の配備だ」と主張する。中国側はとくにアメリカ海軍の南シナ海での「航行の自由作戦」の実施をその理由にあげる。だがこの中国側の主張はあまりに不誠実である。

アメリカ海軍は南シナ海での航行の自由を順守する演習は平和裏に、もう何十年も実行してきた。全世界の他の海域でも同様の演習や活動を続けてきた。他方、中国はほんのこの10年たらずの期間に南シナ海での島の埋め立てによる奪取を始めたのだ。中国の行動の全体図や実行方法から判断すると、一方的な領土拡張という目的のために、この種の行動をとっていることが明白である。

2016年7月国連海洋法に基づく国際仲裁裁判所は南シナ海での領有権紛争に関して、中国の行動を排して、フィリピンの主張を認める裁定を下した。この裁定は中国とフィリピンの両国に対して強制的な執行の権限を有するが、中国はその裁定には従っていない。

フィリピンは国内のミンダナオでのテロとの戦いに忙殺され、中国との関係の安定を欲するために、中国に対してはこの裁定の履行を強く迫ってはいない。中国側が紛争海域のスカーボロ礁でのフィリピンの漁民の操業を許していることも、フィリピン側に柔軟な態度を取らせているといえる。

 

【中国の強大な軍事力】

中国軍は南シナ海全域で空軍、海軍、海警、海洋民兵など、すべての兵力分野で強力な存在を誇示している。中国軍各部隊は頻繁な巡回や演習によって、南シナ海では単に駐在や占領をする海域や地域だけではなく、全域での制覇を印象づけようとしている。

中国軍は南シナ海では他の領有権主張国やアメリカの軍隊が活動する際には、その動きに抗議して、多様な威圧行動をとる。その威圧はときに過剰となり、他国の軍隊に対して中国側の占領地域から遠ざかることを要求したり、あるいはその活動について中国側の事前の許可を得ることを求めたりする。

 

【航行の自由作戦とは】

アメリカの航行の自由作戦は1979年以来、世界各地の沿岸国家の海洋領有権の主張の行き過ぎに対して平和的に実施されてきた。その対象にはアメリカにとっての友好国も同盟国も、入っていた。その作戦実施の手順は、対象国への外交的な通告、作戦内容の事前通知に始まり、どの国に対しても挑発的ではなく、脅威を与える行為ではなかった。

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▲写真 航行の自由作戦で南シナ海を航行する 米ミサイル駆逐艦ステザム:USS Stethem(DDG-63)2017年3月22日 US Navy Photo 出典 USNI NEWS

このアメリカの作戦行動はグローバル規模で、開かれた海と空を保つため、そして経済繁栄を保つため、世界各国のため、アメリカのために、実行されてきたのだ。だから中国の主張には根拠がないのである。

その5につづく)

トップ画像:ハリー・ハリス司令官 出典 U.S. Pacific Fleet


この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授

産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。

古森義久

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